評判の映画『さすらいのレコード・コレクター~10セントの宝物』を観てきました。
主役のジョー・バザードといえば、戦前ブルースや
アメリカン・ルーツ・ミュージックのファンにはよく知られたコレクターで、
最後のSPレーベルとして話題を呼ぶフォノトーンを主宰して、
自身が所有するSP盤をリイシューしている、度外れたレコード・コレクターです。
期待して映画館に足を運んだんですけれど、う~ん、アテが外れたかなあ。
この映画が捉えていたジョー・バザードは、コレクターとしてはフツーの姿ですよねえ。
レコード・ハンティングのためにここまでするのかみたいな意外性はまったくなく、
物足りなく思えたのは、
ぼくがクレイジーなコレクターを知りすぎているからかもしれません。
アフリカや東南アジアにレコード・ハンティングに出かけていって、
炎暑の倉庫の中、動物の糞尿をものともせず、汗まみれになりながら、ネズミや虫と格闘し、
脱水症状になるのもいとわず、レコードを掘り続けるようなイカれたコレクターに比べたら、
ジョー・バザードはきわめてマットーというか、常識的なコレクターに見えます。
もっといえば、コレクターの世界では、レコードなんてスケールが小さくて、
アートや骨董の世界に目をやれば、名家の財産を食いつぶしたり、
征服した未開地から略奪した品で博物館を建てたりと、
ケタ違いのもっと生臭い物語が、ざっくざくありますからねえ。
この映画より、最近読んだ本『伝説のコレクター 池長孟の蒐集家魂』
(大川勝男著 アテネ出版社)の方が、はるかにエキサイティングでした。
生涯を南蛮画蒐集に心血注いだ池長孟の物語を読んでいて、
あ~、誰か、インドのゴアでレコ掘りしてきてくれないかなあなんて、
つい連想しちゃいましたよ。
長い間ポルトガルの植民地だったゴアに、
インド音楽とはまったく異質の南海歌謡音楽が存在することを知ったのは、
70年代末に入手した2枚のインド盤LPがきっかけでした。
コンカニ語で歌われるその歌は、その後に知ったインドネシアのオルケス・ムラユを思わす、
魅惑の南洋歌謡そのもので、いっぺんでトリコになりました。
オルケス・ムラユは、ワールド・ミュージック・ブームで復刻が進んだものの、
コンカニ音楽はまったくかえりみられないままで、
ぼくにとっては、30年近くずっとナゾの音楽であり続けました。
これほどエキゾティックな歌謡はほかにないんじゃないかというサウンドは、
8分の6拍子など3拍子系の独特のリズムにのせて、スパイシーな香りを放つもの。
そのリズムは、マレイシアのジョゲットやスリ・ランカのカフリンニャにバイラ、
さらにはインド洋音楽のセガとも繋がり、
ポルトガルが海上覇権を確立するために、
貿易拠点となる都市を制圧してきた歴史を映したものといえます。
そのポルトガルが海上帝国の中心都市としたゴアは、
ポルトガルの植民地として1974年まで占拠され続けました。
ポルトガル植民地時代のゴアに花開いたコンカニ音楽は、
09年にドイツのトリコントが往年の録音をコンパイルして、
ようやくその正体がみえかけたものの、リイシューされたのはその1枚きり。
70年代末に偶然ぼくが見つけたLPの主、アルフレッド・ローズは、
50年の活動期間の間に6000曲もの作品を残した重要人物ということがわかりましたけれど、
宝の山は、今だスリ・ランカのカフリンニャと同じく、眠ったままなのであります。
[LP] V.A. "TOPS AND POPS IN KONKANI MUSIC" EMI ECSD2397
[LP] Alfred Rose & Rita Rose "ALFRED ROSE & RITA ROSE" EMI ECSD24
V.A. "KONKANI SONGS : MUSIC FROM GOA - MADE IN BOMBAY" Trikont 0395