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ジャズのブラック・メシアたち ライアン・ポーター

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Ryan Porter  THE OPTIMIST.jpg

カマシ・ワシントンやサンダーキャットのアルバムは壮大すぎて、
ちょっとぼくの手には余りますけれど、このアルバムにはグイと胸をつかまれました。
100分を超す2枚組の大作ではあるものの、作りこんだアルバムではなく、
気合十分なセッションを収録したら、この長さになっちゃった、てな感じがいいんだな。

ライアン・ポーターは、カマシ・ワシントンが中心となる
ロサンゼルスのジャズ・コレクティヴ、
ウェスト・コースト・ゲット・ダウンの一翼を担うトロンボーン奏者。
カマシのバンド、ザ・ネクスト・ステップのメンバーでもあります。
カマシが「地球上で、最もソウルフルなトロンボーン奏者」と大絶賛するというふれこみは、
昨年出たデビュー作より、本作の方が断然ふさわしいですね。

アルバムに録音データのクレジットがなく、ネットで調べてみたら、
いまから10年も前の、08年と09年にレコーディングされたものとのこと。
カマシ・ワシントンの実家にある地下スタジオで録音された、
まさしく「地下室セッション」で、カマシ・ワシントンのほか、
鍵盤のキャメロン・グレイヴスとブランドン・コールマンの二人に、
マイルズ・モスリーのベース、トニー・オースティンのドラムスという、
ウェスト・コースト・ゲット・ダウンやザ・ネクスト・ステップの面々が集結しています。

まだ20代の彼らが、
R&Bやヒップホップのアーティストのバック・バンドで生計を立てながら、
「いまに見ていろ、オレたちだって」と、自分たちのやりたいジャズを
地下室で爆発させていた様子を、ナマナマしく記録した貴重なレコーディング・セッション。
大音量にして大音圧の、むこうみずなエネルギーが噴き出すこの熱気は、
だからなのかと、合点がいきます。

タイトルの『楽観主義者』は、オバーマが大統領となり、
黒人たちにとって明るい未来を予感できた、
08~09年の時代の雰囲気を反映したものなのでしょう。
「オバマノミクス」とタイトルされた曲では、ファンファーレのようなホーン・アレンジが、
ポジティヴな明るさを表しています。
「賛美歌作者」というゴスペルを背景とする曲がある一方で、
ヒップホップを通過したファンクがあるなど、
時代と向き合ったこの世代の若者ならではの音楽性が花開いています。

2枚目は、フレディ・ハバード、ジョン・コルトレーン、キャノンボール・アダレイの曲
(ジャケットとレーベルはハバードとコルトレーンの曲が入れ違い)をカヴァーした
怒涛のハードバップ。ここで繰り広げられるブラックネスは強烈です。
カマシのブチ切れたブロウに、熱くならないジャズ・ファンはいませんよね。
ハードバップが古めかしく響かないのは、誰からの制約を受けることもなく、
自分たちがやりたい音楽を存分に演奏しているからでしょう。
やがて成長し、ジャズ・シーンにおけるブラック・メシアとなりおおせた彼ら。
その前夜を記録した、歴史的なセッションです。

Ryan Porter "THE OPTIMIST" World Galaxy WG010 (2018)

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