取り上げるかどうか、ずっと迷っていたんですけど、
日本で先行発売されるという破格の扱いともなったので、
やっぱり書いておこうという気になりました。
セネガル出身のジャズ・ギタリスト、エルベ・サンブの新作。
エルベ・サンブは、デヴィッド・マレイ、ファラオ・サンダース、
パット・メセニー、マーカス・ミラーらと共演する一方、
アマドゥ&マリアムのバック・バンドでワールド・ツアーに同行し、
ウム・サンガレ、オマール・ペン、ジミー・クリフのバックを務めるなど、
パリとニュー・ヨークを行き来しながら活動するジャズ・ギタリストです。
最近は、ニーナ・シモンの娘のリサ・シモンのミュージカル・ディレクターを務めるほか、
ルワンダ/ウガンダ移民二世シンガー、ソミのバックなど、多方面で活躍していますね。
昨年日本でリリースされた新作は、久しぶりに故郷のセネガルに戻って、
地元のミュージシャンたちとダカールで録音したもので、
ゲストにファーダ・フレディ、若手女性シンガーのアディウーザ、
元ハラムのヴェテラン・シンガー、スレイマン・フェイほか多数が参加しています。
特に驚いたのは、16年11月に亡くなったオーケストラ・バオバブの歌手、
ンジュガ・ジェンが参加していたことで、16年5月録音ということは、
これがおそらくンジュガ・ジェンのラスト・レコーディングだったはず。
この半年後に亡くなってしまうなんて、とても信じられないほど、元気に歌っています。
エルベはアクースティック・ギターを弾き、
サバールやタマによるセネガルの伝統的なリズムを生かした
オーガニックなサウンドに仕上げています。
エルベの卓越したギター・プレイも、十分魅力的なんですが、
ちょっとソツなくキレイにまとめすぎた感があって、物足りなかったんですね。
「マイ・ロマンス」や「酒とバラの日々」という選曲も、いかがなものかと。
現代の曲のようにリフレッシュメントしたアレンジは感心するんだけど、
どこか割り切れない思いがあって、取り上げるのをためらっていたんでした。
誤解のないように言っておくと、エルベ・サンブというジャズ・ギタリストは、
ぼくはすごく買っていて、リオーネル・ルエケより、断然才能がある人とみなしています。
そう確信するのは、09年のデビュー作“CROSS OVER” が大傑作だったからで、
10年早すぎて、見過ごされた作品と思っています。
ヴァーノン・リード、ジャン=ポール・ブレリー、
ジェフ・リー・ジョンソンといった面々を思わせるギターに、
エルベのギターを豪快にプッシュするJ・T・ルイスのドラムスが痛快なアルバム。
ラップとスクラッチをフィーチャーしたクールなジャジー・ヒップホップに、
デヴィッド・マレイがブロウしまくる「アフロ・セントリック」と題されたトラック、
ソミのヴォーカルをフィーチャーして、
清廉なアクースティック・ギターを聞かせる曲もあれば、
セネガル人歌手を起用したンバラあり、ジミ・ヘンドリックスに捧げたロックもあるという、
その引き出しの多さが魅力となっていました。
13年の2作目では、レジー・ワシントンのベースを迎えて
アクースティック寄りのヌケのいいクリーンなサウンドになるとともに、
M-BASEの影響色濃いギターを聞かせるコンテンポラリー・ジャズでした。
13年の2作目では、レジー・ワシントンのベースを迎えて
アクースティック寄りのヌケのいいクリーンなサウンドになるとともに、
M-BASEの影響色濃いギターを聞かせるコンテンポラリー・ジャズでした。
1・2作目がアフリカ人ジャズ・ギタリストとして出色の作品だっただけに、
こちらがまったく話題にもならず、この3作目が日本盤で出たのが素直に歓迎できず、
ちょっとヒネくれた反応をしてしまったんでした。
今からでも遅くないので、ぜひこの人に注目してもらいたいと思います。
ついでに、日本盤で「エルベ・サム」と表記しているのも、
エルベと共演したことのある、小沼ようすけのアルバム・クレジットの悪影響と思われ、
綴りどおり「サンブ」と書いてほしいと思います。
Herve Samb "TERENGA" Euleuk Vision no number (2017)
Herve Samb "CROSS OVER" Samb no number (2008)
Herve Samb "TIME TO FEEL" Such Production SUCH006 (2013)