酷暑の熱にうなされた身体に、これほど沁みる声はありません。
佳明(ジャーミン)という大陸の女性歌手、初めて聴きましたけれど、
そのアルト・ヴォイスの魅力に、いっぺんでトリコとなりました。
こんな低音で、ささやくように歌う女性歌手も、珍しいんじゃないでしょうか。
ウィスパー・ヴォイスといっても、セクシーさを演出するためではない、
むしろ色気を封印するかのような、大人の女性の声のテクスチャに魅入られました。
その声には、荒ぶる心を静め、ささくれた気持ちをなぐさめる力があり、
おおらかな歌声に、いつしか安心して身をゆだねてしまいます。
その低音の声の魅力を倍化させる楽曲が、またいいんです。
全曲静かなメロディ。ドラマティックな演出もなければ、泣かせるような起伏もなく、
淡々とした曲ばかりで、ほんのりとした温かさが伝わるメロディが胸に染み入ります。
ギターが爪弾くアルペジオに、
ベースとドラムスのリズム・セクションが控えめに伴奏をつけ、
曲によりエレピ、アコーディオン、古筝、ヴァイオリン、メロディカ、オカリナ、
クラリネット、バラライカなどが、そっと彩りを添えます。
どこまでもひそやかなアレンジは、デリケイトの極致といえ、
楽曲に合わせた楽器の選択含め、
すみずみまで神経の行き届いた、プロフェッショナルな仕事ぶりが光ります。
プロデューサーは、台湾切っての名アレンジャー尤景仰。
レコーディングは台北の2か所と北京で行われ、
楽曲も台湾の作曲家の作品を多く取り上げているようです。
歌詞を慈しむように歌うジャーミンは、
ゆったりとしたヴィブラートと声の強弱で、
低音ヴォイスに情感をのせていくところがなんとも絶妙で、
聴けば聴くほどに引き込まれてしまいます。
心を落ち着けて寝落ちするための、最高の睡眠導入剤です。
佳明 「伊人梦」 龙源音乐 HD107 (2016)