つい「アンドリュー・ゴールド」と言いまつがってしまう、
ナイジャ・ポップのニュー・スター、アデクンレ・ゴールド。
2年前に大ヒットを記録したデビュー作“GOLD” に続く新作は、
70年代西海岸ポップをホウフツとさせる爽快なポップ・アルバムで、
アンドリュー・ゴールドの言いまつがいも、まんざらでないかも。
オープニングから、ふくよかに弾むトーキング・ドラムのビートにのる、
抜けるような青空の広がるサウンドに、思わず眩暈をおぼえました。
スケール感のある、こんなに爽やかなメロディが、喧噪と渋滞にまみれた
レゴス出身の若者から生み出されるなんて、にわかに信じがたいほど。
こういう作風を持ったヨルバ人ソングライターが登場するとは、
想像だにしませんでしたねえ。
少年時代はサニー・アデやエベネザー・オベイに夢中で、
教会のジュニア・コーラス・グループに加わり、
15歳で初めて曲を書いたというアデクンレ。
そんな経歴を表わすように、アデクンレが書く曲には、
ヨルバの古謡やジュジュ、ハイライフの影響あらたかなメロディがふんだんで、
クラシックなハイライフの薫り高い‘Mama’には、オールド・ファンも頬がゆるむはず。
ジュジュから受け継いだ軽妙な歌い口も魅力なら、
歌詞は英語でも、コーラスがヨルバ語で歌われる楽曲、
そこかしこにフィーチャーされるトーキング・ドラムなどなど、
サウンドのはしはしにヨルバ色が色濃くにじみます。
とはいえ、このアルバムでまずハートをつかまれるのは、サウンドのフレッシュさでしょう。
マリブのビーチやサンセット・ブルヴァードといった西海岸イメージが浮かぶ、
アーバナイズしたシティ・ポップ・センスのサウンドスケープには、誰もが魅せられるはず。
甘酢っぱい若さに溢れた音楽には、ヒップホップやグライムの影はなく、
近年のナイジャ・ポップで盛り上がるアフロビーツとは、
一線を画したサウンドになっています。
ヌケのいいサウンドと、軽やかなリズムの心地よさは、
今年初めにホレこんだシミと、テイストがよく似てますね。
https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2018-02-07
そういえば、シミのアルバムにもアデクンレがゲスト参加していたし、
このアルバムでもクレジットはないものの、‘Pablo Alakori’には、
シミの声がはっきりと聴きとれますよ。
なんでも二人は恋仲だそうで、ロンドンで5月に本作のお披露目コンサートを行った時にも、
ステージにシミが登場して、アデクンレと一緒に歌ったそうです。
異色のトラックは、シェウン・クティをゲストに迎えたアフロビートの‘Mr. Foolish’。
これまたクレジットはありませんが、分厚いホーン・アンサンブルやトラップ・ドラム、
パーカッションなどには、エジプト80のメンバーが参加してるんじゃないでしょうか。
こういう曲も入ることによって、アルバムがピリッと締まります。
アデクンレは自身の音楽を「アーバン・ハイライフ」と称しているようですけれど、
ぼくは、新時代YO-POP(「ヨルバ・ポップ」の意)と呼びたいなあ。
ヨー=ポップは、ジュジュ・シンガーのセグン・アデワレが
80年代に打ち出したスタイルだったんですが、当時のジュジュ・シーンでは、
ほとんど広まらずに消えてしまいました。
今のナイジャ・ポップの中で、アデンクレのスタイルこそ、
ヨー=ポップの名にふさわしいものはないと思います。
Adekunle Gold "ABOUT 30" Afro Urban no number (2018)