ミャンマーのサウン(竪琴)を中心とする小編成の室内楽演奏が、
夏バテした身体に、やさしく染みます。
暑さ疲れしたこの時期に聴きたくなる音楽というと、
ひと昔前まで、インドネシアのガムラン・ドゥグンやカチャピ・スリンが定番でしたけれど、
ミャンマーの古典音楽レーベル、イースタン・カントリー・プロダクションのカタログが
充実するようになってからは、インドネシアからミャンマーに移っちゃいましたね。
渋味の強い、ペロッグやスレンドロといったインドネシアの音階と違って、
ミャンマーの音感には苦みがなく、
どこか爽やかな花の香りがするメロディも、お気に入りの要素です。
59年マンダレーに生まれたゾー・ウィン・マウンは、
20世紀最高のサウン名人と呼ばれた
インレー・ミン・マウン(1937-2001)に14歳からサウンを学んだという音楽家。
アタックの強いピッキングと、ボキボキと角張ったリズム感は、
インレー師匠ゆずりといえそうですね。
https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2016-01-15
サウンに限らず、コラやアルパ、アイリッシュ・ハープといったハープ属の弦楽器は、
指で弦を「はじく」楽器であって、指を滑らせてグリッサンドする楽器じゃないというのが、
昔から変わらないぼくの考え方。
突っかかるようなアタックの強いリズムが、弦さばきにスピード感を与え、
一音一音をシャープに立ち上らせるゾー・ウィン・マウンのプレイは、
この楽器の魅力を最大限に引き立てています。
サウンの伴奏を務めるのは、
太鼓、鈴、ウッド・ブロックといったリズム・キーパー役の打楽器で、
ゆいいつサウンに絡むのは、竹笛のパルウェーもしくはチャルメラのフネーのみ。
曲のテーマやメロディを、サウンとユニゾンで奏で、あたりの空気を浄化してくれます。
静謐な曲ばかりでなく、フネーが加わる曲では、
金属製の打楽器が打ち鳴らされて華やかなサウンドとなり、
室内楽的な演奏にありがちな、眠りに誘われる退屈さとは無縁です。
イースタン・カントリー・プロダクションのサウン演奏の作品というと、
レーベル第1号作品を飾ったライン・ウィン・マウンのアルバムが多数あるんですが、
流麗な弾き方でリズムの弱いライン・ウィン・マウンを、ぼくは買っていません。
以前ぼくがバトゥル・セク・クヤテのコラになぞらえたこともある、
インレー・ミン・マウンの野趣に富み、奔放な技巧を知る人にこそ、
ぜひ聴いてほしいサウンの名作です。
Zaw Win Maung "“THET-WAI” ON THE FLORAL BRIDGE" Eastern Country Production ECP-N23