ダミ声の怪人キング・アイソバのバンドで、
ボール大のシェイカー、シニャカを振っていたアユーネ・スレのソロ・デビューです。
アイソバに劣らぬダミ声、というよりどら声でしょうか。
ユーモラスな歌い口に、いつしか頬もユルみ、笑顔にさせられるハッピーなコロゴです。
コロゴって、やっぱり現代のミンストレルですね。だって、辻芸人そのものじゃないですか。
ガーナの田舎道で子供たちに囲まれ、歌っている様子が目に浮かぶようです。
アユーネ・スレは79年、ガーナ南部の大都市クマシの郊外で、
北部出身の両親のもと生まれました。
母親がガーナ北部の伝統的な発酵ビール、ピートを飲ませるバーを営んでいて、
そのバーで演奏していたコロゴのミュージシャンに、スレは心を奪われます。
スレがあまりにもコロゴに夢中になるので、学業の遅れを心配した両親は、
スレを故郷のボルガタンガの学校へ送りますが、
それはまったくの逆効果で、スレはさらにコロゴにのめり込んでいったのでした。
13歳の時、カセットに録音した曲がボルガタンガのラジオ局で取り上げられ、
それを機に、スレの名前は一気に高まりました。
次々と新曲を作っては発表し、両親が働くクマシに戻ってきた時は、
すでにフラフラ人のコミュニティで、コロゴのスターとなっていたそうです。
その後スレはキング・アイソバのバンドに入り、
13年からヨーロッパへツアーに出ます。
コンサートのオープニングでスレが歌う、
‘What A Man Can Do A Woman Can Do More Better’のウケがよく、
15年にシングル・カットしたところ、
ヨーロッパのアンダーグラウンド・シーンでヒットし、
今回のソロ・デビューへと繋がりました。
スレのコロゴは、伝統的なスタイルばかりでなく、
ガーナ版アフロビーツとして近年ガーナで大人気のアゾントや
ヒップライフも巧みに取り入れていて、そのポップ・センスは抜きん出たものがあります。
6人のラッパーをフィーチャーしてヒップホップをミックスしたコロゴは、
現地の若者にウケそうだし、キャッチーなメロディなど、
ソングライティングの能力も高く、アイソバ以上の才能を感じさせます。
一方、伝統スタイルでは、ギターの弾き語りならぬ、
シニャカの振り語り‘Senyaane’も聴きものです。
コロゴを多角的なサウンドで料理しつつ、
軽やかなプロダクションが良い意味でのチープさを伴って、
コロゴのカジュアルな魅力を十二分に発揮した傑作です。
Ayuune Sule "WE HAVE ONE DESTINY" Makkum/Rebel Up! MR23/RUP001 (2018)