アンジェリク・キジョが、なんとあの『リメイン・イン・ライト』をカヴァー!
よくまあこの企画、考えついたもんだ。仕掛け人、表彰もんだね。
先に白状しておきますけれども、キジョは歌手として好きなタイプじゃないし、
『リメイン・イン・ライト』は、買って早々に手放してしまったレコード。
そんなぼくにとって「マイナスの2乗」企画だからこそ、
逆転びっくりの「プラス」になるかもという予感がしたんですが、大当たりでしたよ。
ちょこっと昔の記憶をたどると、『リメイン・イン・ライト』が出た80年は、
ぼくはロックへの興味を完全になくしていて、
本格的にアフリカ音楽へのめりこんでいた時代でありました。
そんな頃に、リズムや曲の構造にまで踏み込んで
アフリカ音楽の影響を受けたロック作品として登場したのが、
『リメイン・イン・ライト』だったのです。
ムチのようにしなるビートが強烈なA面1曲目に、
「おー、カッコいいねぇー」と思いはしたものの、
「でも、こんなにカッコよくする必要ないんだけど」などと、
ひどく冷めた感想を持ったことを、いまでもよ~く覚えていますよ。
こういうカッコよさって、まぎれもなくロックのセンスで、
アフリカ音楽のカッコよさとは別物だろ、と。
これとまったく同じ感想をもったレコードが、この少しあとにもあったよなあ。
ビル・ラズウェルがプロデュースした、フェラ・クティの“ARMY ARRANGEMENT” です。
ビシビシと強烈なスネア音が耳残りする、
スライ・ダンパーのドラムスに差し替えたリズム・トラックは、
いかにも80年代ロックらしいドラム・サウンドでした。
あー、こういう風にしないとロック・ファンにはウケないんだろうけど、
違うんだよなあと、ボヤいたもんです。
ビル・ラズウェルがプロデュースに絡んでいない、
ナイジェリア国内ヴァージョンと聴き比べれば、その違いは歴然。
ビル・ラズウェル・プロデュース・ヴァージョンが、
のちにブロークン・ビーツのネタとなったのは、いかにもでした。
その『リメイン・イン・ライト』のカッコよさもA面だけで、
B面はなんだかパッとしない曲が並んでいたし、
ラスト・トラックがこれまた暗くて、ひどく後味が悪かったことを記憶しています。
なにより、ぼくにはダメだったのが、デヴィッド・バーンのヴォーカル。
生理的に受け付けられない典型的な声と歌いぶりで、
これでもう自分には不要なレコードと、烙印を押したんでした。
それに比べたら、キジョのパワフルな歌いっぷりといったら、どうです。
バーンの線の細い白人的なヴォーカルとは、まさに対照的。
硬直的なキジョのヴォーカルは、もともとロックと親和性が高く、
『リメイン・イン・ライト』というマテリアルにはうってつけです。
結果、オリジナルとは比較にならないどころか、
オリジナルをはるかに凌ぐカヴァー・アルバムとなりましたね。
エッジの立ったビートは、ふくよかなグルーヴへと変わり、
がっしりと計算されたアレンジと、
それを肉感溢れるサウンドに膨らませる演奏ぶりに
アフロ・ロックの成熟を感じさせます。
トニー・アレンを起用して、スウィング感たっぷりのドラミングを
効果的に組み込んだアイディアには、ウナらされました。
オリジナルを超えた『リメイン・イン・ライト』のカヴァー・アルバム。
80年代を代表する知的なロック名作は、
テン年代の肉体感溢れるアフリカン・ポップの傑作へと変貌したのでした。
Angelique Kidjo "REMAIN IN LIGHT" Kravenworks KR1002 (2018)