エルメート・パスコアール門下生の活躍が、目立ってきましたね。
エルメート・バンドのベーシスト、イチベレ・ズヴァルギの新作が、
今年のブラジルの最高作といえる大傑作で、絶賛愛聴中ですけれど、
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2018-09-11
ピアニストのアンドレ・マルケス率いるラージ・アンサンブル、
ヴィンテナ・ブラジレイラの新作が、これまた秀逸です。
エルメートの音楽を知って、はや40年。
有明・田園コロシアムで観た醜悪なパフォーマンスで幻滅し、
それ以来エルメートとは疎遠になっていました。
とはいえ、彼の作編曲家としての能力は買っていたので、
ときどきはリーダー作をチェックしていたものの、
たまに聞いても、あいかわらずのハッタリが強く、
コケオドシでぐずぐずになる音楽に、毎度ウンザリさせられてきました。
ところが、親分のもとで育った弟子たちが、エルメートの音楽をやると、
見違えるようになるんですねえ。エルメートのアイディアを
きちんと音楽にふくらませる楽理的なスキルが、彼らにはあります。
北東部のリズムを多彩に取り入れて、スリリングな展開を生み出し、
高度なオーケストレーションで万華鏡のようなアンサンブルをかたどるなど、
未完のまま放り出しっぱなしになる親分の音楽を、
しっかりとした完成品に仕上げることができるのですね。
アンドレ・マルケスが若手の音楽家を集めたヴィンテナ・ブラジレイラも、
その成果をしっかりと示しています。
とはいえ、あまりにハイ・レヴェルなイチベレ・ズヴァルギを先に聴いてしまうと、
聴き劣りしてしまうのは否めないかな。
編曲に、緊張と解放のダイナミズムがいまひとつ欠けるのと、
メンバーのプレイもスコアどおりに演奏するのが精一杯で、
余裕なく感じられるのは、若手の経験不足でしょうか。
ギターやサックスに、長いソロを与えているところも難。
せっかくスコア化したオーケストレーションの緊張感が解けてしまい、
アンサンブルがソロイストのバックに後退する、
フツーのジャズになってしまう<ゆるさ>が残念です。
あくまでもソロは、難度の高いアンサンブルの合間を縫って短く演奏し、
緊張を緩めないようにすれば、もっと緊密度の高い演奏となったはず。
とまあ、高度な編曲をこなす実力者たちが、ハンパないスピード感で演奏した
イチベレ・ズヴァルギのアルバムと比較したらの話で、
このアルバムも、エルメートの音楽性を具現化した作品としては、立派な作品です。
古手のジャズ・ファンにもウェイン・ショーターでおなじみの、
ミルトン・ナシメントの“Ponta De Areia” のカヴァーもやっていますよ。
Vintena Brasileira "[R] EXISTIR" no label AM006 (2018)