もう40年以上、ブラジルの音楽をせっせと聴いてきましたけれど、
ここ最近聴いているのは、ジャズばっかりなんだから、自分でも驚いちゃいます。
まさかブラジルのジャズがこんなに面白くなるなんて、想像すらしませんでしたけれど、
それに比べて、サンバはパッとしなくなっちゃったなあ。
特にエスコーラ系の伝統サンバは、まったく新作が出なくなっちゃいましたよねえ。
そんな不満を募らせていたところに、伝統サンバの大ヴェテラン、
大物中の大物2人が揃って新作を出してくれたんだから、
積年の渇きが一気に解消しようというもの。
だって、その1人はなんと、モナルコですよ! 言わずと知れたポルテイラの重鎮。
田中勝則さんが制作された『俺のサンバ史』から、なんと16年ぶりです。
いや~、長かったなあ。
14年に80歳記念のアルバム“PASSADO DE GLÓRIA - MONARCO 80 ANOS” が
自主制作で出たのは知っていましたけれど、
どうしても入手できなくて、悔しかったのなんのって。
あれから4年、新作を出してくれるとは、もう感激しきりです。
今思えば、モナルコが43歳で出した初のレコードに出会わなかったら、
ぼくはこれほど伝統サンバにのめりこまなかったはずです。
あの76年のコンチネンタル盤と、カルトーラのマルクス・ペレイラ盤2枚は、
ぼくにとってサンバの聖典となりました。
あの初レコードで、とりわけぼくが好きだった曲が、
フランシスコ・サンターナと共作した‘Lenço’。
サンターナは、ポルテーラの創始者パウロ・ダ・ポルテーラのスタイルを
継承して完成させたといわれる天才作曲家で、
この曲は57年に出たポルテーラのレコードに、
‘O Lenço’ のタイトルで収録されていました。
当時モナルコは24歳で、この時が自分の曲の初レコード化だったんじゃないのかな。
00年にマリーザ・モンチがプロデュースしたヴェーリャ・グアルダ・ダ・ポルテーラの
アルバムでも、この曲はラストを飾る重要な位置づけになっていました。
そんなモナルコが、もう85歳なんですねえ。
年齢を感じさせない、昔と変わらないモナルコ節に、
もう涙が止まらなくなってしまって、どうしようもありませんでしたよ。
イナセな男っぷりに加えて、より柔和な表情をみせているのは、
幸福な老後を迎えていることの表われでしょう。
全16曲、昔の曲ばかりでなく、息子のマウロ・ジニースと共作した新曲もあって、
サンバ作家としての意欲もまったく衰えていません。
カヴァキーニョのマウロ・ジニースに6弦ギターのパウローンといういつもの布陣に加え、
バンドリンのルイス・バルセロスなども加わった伴奏陣も、最高のメンバーが揃っています。
17歳でポルテーラの作曲家チームの一員となり、ソロ歌手としての道を選ばず、
敬愛する先輩たちと共に活動する道を歩んだからこそ、
デビュー作も遅く、寡作家となったモナルコ。
モナルコは一貫して、自分を引き立て育ててくれたポルテーラの先輩や、
他のエスコーラのサンビスタを称賛するサンバを作り、歌い続けてきました。
仲間や人生への感謝を歌うモナルコのサンバに感動するのは、
サンバの伝道師として生きてきた彼の歩みが、
そこに刻印されているのを実感できるからですね。
頭のテッペンから足のつま先まで「誠実さ」が詰まったモナルコのサンバを聴くたびに、
自分に驕りがないか、戒められるような思いがします。
今回一番胸を突かれたのが、‘Obrigado Pelas Flores’。
ベッチ・カルヴァーリョが79年の最高傑作“NO PAGODE”で歌った名曲です。
そして、ゼカ・パゴジーニョが歌って大ヒットしたモナルコ最大の当たり曲、
‘Vai Vadiar’ で締めくくられたラストにも、
聴き終えたあと、しばし動けなくなるほど感動してしまいました。
音楽を聴く喜び、生きる意味のすべてがここにある。
そういって過言ではない、人類の宝です。
Monarco "DE TODOS OS TEMPOS" Biscoito Fino BF553-2 (2018)
Monarco "MONARCO" Continental 857382370-2 (1976)
[LP] Escola De Samba Da Portela "A VITORIOSA" Sinter SLP1718 (1957)
Velha Guarda Da Portela "TUDO AZUL" Phonomotor/EMI 525335-2 (2000)