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スパイシーなクレオール音楽絵巻 エルヴェ・セルカル

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Hervé Celcal  COLOMBO.jpg

タイトルの『コロンボ』とは、奴隷制廃止後の19世紀に、
インド人労働者が小アンティル諸島へもたらした香辛料のこと。
クレオール料理になくてはならないそのスパイスは、マルチニーク生まれの
クレオール・ジャズ・ピアニストであるエルヴェ・セルカルにとって、
クレオールの象徴として掲げるのに、格好のものだったのですね。

5年前のデビュー作でエルヴェは、
マルチニークの太鼓歌ベル・エアー(ベレ)をテーマに、
マルチニークの奴隷文化ばかりでなく、レユニオンのマロヤにも目を向け、
奴隷貿易がもたらした大西洋とインド洋のクレオール文化を掘り下げていました。
https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2013-06-09
2作目となる本作では、さらに広範なクレオール文化に目配りをして、
クレオール音楽絵巻とも呼べる作品を作り上げています。

エルヴェのアプローチがユニークなのは、
クラシックなビギン・ジャズをカヴァーしたり、
マルチニークの伝統音楽のスタイルを探究するといった方法をとらず、
さまざまなクレオール音楽の要素を取り出して、
ジャズというフォーマットに落とし込み、
独自の音楽世界を構築しているところにあります。
こうした野心的なアプローチをとるビギン・ジャズの音楽家は、
これまでにいませんでしたよねえ。

このアルバムに詰め込まれたその情報量たるや、とんでもない多さで、
エルヴェが意図する中身を読み解くのは、ちょっとたいへんです。
たとえば、曲名を眺めてみても、西インド諸島の先住民族の「アラワク」、
マルチニークへ渡ったインド人や中国人労働者の「クーリー」、
インド洋海上交通の要衝である南インドの港町の昔の名「マドラス」、
なんてワードがぞろぞろと並んでいます。

音楽面でも、ショパンのマズルカに楽想を得たメロディに、
グラン・ベレのリズムを取り入れたオープニングから、
各曲ともふんだんなアイディアが詰まっているんですよ。

ニュー・オーリンズのセカンド・ラインや、
プエルト・リコのボンバを取り入れた曲もあれば、
ベレのリズムにのせて掛け声のコーラスが交差するパートから、
がらりと場面が変転してベースが弓弾きするパートへ移る組曲のような曲もあります。

ラスト・トラックは、フランス植民者が持ち込んだ舞踏音楽のカドリーユが、
アフリカ由来のリズムと出会って変容したオート・タイユ。
終結部のコーダでは、太鼓のベレが加わり、
コール・アンド・レスポンスのコーラスが反復されます。

全曲エルヴェの自作。ピアノ・トリオをベースに、曲によりパーカッション、コーラス、
チェロ、トロンボーン、トランペット、スーザフォンが加わる編成で、
キレのある現代性のあるビート感覚を生かしながら、
懐の深いコンテンポラリーなクレオール・ジャズを展開した一級品のジャズです。

奴隷文化のアフロ成分に、白人植民者が持ち込んだヨーロッパ成分、
そして、アジアの移民労働者がマルチニークに持ち込んだ音楽を繋ぎ、
さらには、ニュー・オーリンズやプエルト・リコという、
同じカリブ海で産み落とされた音楽をも呑み込んだクレオール音楽絵巻、
スパイスが利いていて、実に美味です。

Hervé Celcal "COLOMBO" Ting Bang TB9722916-07 (2018)

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