去年の暮れに買ったトルコ旧作が良くって、ここのところのお気に入り。
寒くなってくると、アナトリアの叙情を伝える弦楽アンサンブルが沁みますねえ。
それにしてもこのアルバムはユニークです。
ディレク・コチェというトルコの女性歌手のアルバムなんですが、
なんとこれがトルコ盤じゃなくて、ギリシャ盤なんですね。
しかもグリケリアが4曲で一緒にデュエットしているのだから、ビックリです。
へー、10年にこんなアルバムが出ていたのかと、今頃気付いたわけなんですが、
日本未入荷だったわけでなく、どうやらぼくが見逃していただけみたい。
このあと15年にもアルバムを出していて、
そちらは見覚えがあるものの、う~ん、なんで買わなかったのかなあ。
というわけで、かなり遅まきながら、聴いているわけなんですが、
なんとも大胆な企画でデビューしたものです。
日本人歌手が韓国の大物歌手のゲストも得て、韓国でデビューしました、みたいな。
いや、それ以上のインパクトだろうな。
トルコとギリシャの関係は、日韓どころじゃない険悪さですからねえ。
いや、最近の日韓も、それに迫るヤな雰囲気になりつつありますが。
ディレク・コチェはイスタンブール工科大学で建築を学んだあと、
ギリシャ第2の都市、テッサロニキに移住したという経歴の持ち主。
オスマン・トルコ時代に、コンスタンティノープル(現イスタンブール)に次ぐ
歴史的都市だったテッサロニキに暮らして、
ギリシャ歌謡に潜むトルコ民謡の陰を見い出したといいます。
ビザンティン音楽を学ぶ一方で、トルコ民謡をもっと深く知る必要性も感じて、
伝説の吟遊詩人アーシュク・ヴェイセルを熱心に聴くようになったのだとか。
そうしたトルコとギリシャが共有していた音楽文化を探訪しながら、
バルカンや東地中海のレパートリーも加えていくようになったといいます。
伝統的な弦楽アンサンブルで、アナトリアの詩情を歌った本作、
ミュージシャンは全員ギリシャ人のようですが、見事なものです。
トルコ人リスナーにも大いにアピールすることウケアイでしょう。
たいへんな力作にもかかわらず、
ディレク・コチェの肩の力が抜けた歌唱が、またいいじゃないですか。
さっぱりとした歌いぶりが、小アジアの歌心を再認識させてくれるようです。
Dılek Koç "SEVDALIM AMAN" Eros 3901167073 (2010)