ハビービ・ファンクは、ドイツのヒップホップ・レーベル、
ジャカルタのサブ・レーベルとして、15年にスタートした復刻専門レーベル。
アラブ/北アフリカの70年代レア・グルーヴをリイシューするという、
これまで誰も目を向けなかった秘境にスポットを当てています。
カタログには、モロッコのファンクやら、アルジェリアの電子音楽など、
好奇心をくすぐるタイトルが並んでいるんですけれど、
聴いてみると、どれもC級D級クラスの作品ばかりで、アテが外れます。
う~ん、もっと面白い音源があるような気はするんですけれどねえ。
「スーダンのジェイムズ・ブラウン」と称されるカマル・ケイラにも、がっかり。
曲にスーダンらしさはまるでなく、バンドの演奏もお粗末な限りで、
チューニングの甘いギターにイライラされっぱなし。
CD1枚聴き通すのは、相当苦痛でした。
やっぱダメだ、このレーベル、と見限ろうとしてたところ、
9作目にして、ようやくリイシューする価値ありの逸品が登場しましたよ。
それがスーダンのバンド、ザ・スコーピオンズ。
彼らが80年にゆいいつ残したレコード、クウェートのブザイドフォン盤を
ストレート・リイシューしたものです。
オークションで1000ドル超えして、マニアの間で話題となっていたレコードですね。
16年にブートレグLPがイタリアで作られましたけど(落札者の仕業?)、
今回は権利者とギャランティ契約も結んだ正規リイシュー。
じっさい音を聴いて、なるほどウワサにたがわぬ逸品だということがわかりました。
ムハンマド・ワルディやアブデル・カリム・エル・カブリのスーダン歌謡とは
世代の違いを感じさせる、ファンク・バンド・サウンドが痛快です。
それでいて楽曲は、5音音階のスーダン特有のメロディなんだから、
北米ソウルのヘタクソなコピーにすぎないカマル・ケイラとは、雲泥の差。
サリフ・アブ・バクルのヴォーカルもソウルフルだし、バンドのグルーヴも一級品です。
スコーピオンズは、ライナーの解説によると、
アメリカン・スクールに通っていたアル・タイブ・ラベーが、
ロックンロールに感化されて当時のスーダンとしては珍しいギターを始め、
トランペッターのアメル・ナセルとボンゴのアル・トムとともに始めたバンドとのこと。
ライナーには、60年結成という記述と、65年に3人で初セッションしたという記述が
混在していますけれど、いずれにせよ60年代に始まった学生バンドが、
洋楽ポップスに影響を受けた先達のシャーハベール・アフメドを範として成長し、
70年代に活躍したバンドなのですね。
バンド結成当初のスーダンでは楽器の輸入が難しく、ドラムスを手作りしたことや、
アメル・ナセルが、ルイ・アームストロングとの出会いによって、
クラリネットからトランペットへ持ち替え、猛練習の末に
スーダンのトップ・クラスのプレイヤーとなったことなど、
ライナーからは、当時のスーダンの若者の奮闘ぶりがうかがえます。
シャーハベールのバンドに対抗する演奏力をつけるため、
エチオピアのハイレ・セラシエ1世皇帝劇場オーケストラの
サックス奏者ゲタ・ショウアから、指南を受けたこともあるそうです。
やがて、シャーハベールのレパートリーのコピーで、
スコーピオンズが人気を得るようになると、
本家本元が怒って裁判沙汰となり、
コピー演奏を禁じられる判決が下るという事件も起きたのだとか。
その後アル・タイブ・ラベーは70年代にバンドを脱退し、
新たにヨルダン出身のオルガン奏者や
コンゴ民主共和国出身のベーシストを迎え、スーダン国内ばかりでなく、
レバノン、クウェート、チャド、ナイジェリアへもツアーをして名声を高めます。
なかでもクウェートとは、ラジオ出演や、
カジノと1年間の専属契約を結ぶなど関係が深く、
彼らのゆいいつのレコードが80年に残されたのですね。
The Scorpions & Saif Abu Bakr "JAZZ, JAZZ, JAZZ" Habibi Funk HABIBI009