素晴らしいピアノの弾き語りに、身体の力が抜けました。
この味わい深さは、そうそうあるもんじゃありません。格別です。
メキシコで「モダン・ボレーロの父」と呼ばれた作曲家のビセンテ・ガリード。
95年にリリースされたピアノ弾き語りアルバムを手に入れたんですが、
一聴で、魂を持っていかれました。
職業歌手ではない、作者だからこそ醸し出せる、滋味溢れる歌の数々。
24年生まれというのだから、録音当時70歳過ぎのはずですけれど、
青年のような初々しさが残る歌の表情は、どうでしょう。
モダン・ボレーロというより、フィーリンといって構わないんじゃないでしょうか。
じっさいこの弾き語りアルバムは、キューバのエグレム・スタジオで録音され、
音楽監督はなんとあのマルタ・バルデースだそうです。
ご存じフィーリンを代表する、あの女性歌手ですよ。
いやあ、こんなアルバムがあるなんて、ぜんぜん知らなかったなあ。
流通事情の悪いメキシコ盤ゆえでしょうか、もったいないですねえ。
ホセー・アントニオ・メンデス、ビルヒニア・ロペス、ナット・キング・コール、ルイス・ミゲルといった、
数多くの名作を残してきた歌手たちが歌ったビセンテの代表曲の数々が、
今作られたばかりかのような、みずみずしさで歌われているんです。
ヴェテランの手練れがみじんもなく、音楽に向かうピュアな姿勢に胸打たれます。
これ、すごいことですよ。
親しみやすさと優雅さと格調高さが絶妙なバランスを保つ
デリケイトなビセンテの歌い口が、たまりません。
「白いボラ・デ・ニエベ」、そんなイメージが脳裏から離れなくなりました。
もう1枚、メキシコのチェロのマエストロで、ビセンテと1歳違いという、
23年生まれのアルトゥーロ・シャビエル・ゴンサーレスとのデュオ作も買ったんですが、
こちらは演奏のみのビセンテの名曲集。いつの録音かわからないんですが、
アルトゥーロ・シャビエル・ゴンサーレスは81年に亡くなっているので、70年代録音でしょうか。
これも優雅で素晴らしく、弾き語り集に続けて愛聴しています。
Vicente Garrido "50 AÑOS CON LA MÚSICA" Editiones Pentagrama PCD242 (1995)
Vicente Garrido, Arturo Xavier González "VICENTE GARRIDO - ARTURO XAVIER GONZÁLEZ" Editiones Pentagrama APCD507