そしてもう1作が、シリーズ化したボレーロ集“KHÚC TÌNH XƯA” の第5弾。
初めてぼくがレー・クエンと出会ったのが、このシリーズの初作でした。
https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2011-12-11
https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2012-08-21
本シリーズの前作“KHÚC TÌNH XƯA : LỆ QUYÊN - LAM PHƯƠNG” が、
「ミュージック・マガジン」のベスト・アルバム2017ワールド・ミュージック部門で
2位となったのには、さすがにぼくもビックリしましたよ。
https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2017-03-20
レー・クエンを絶賛しているヤツなんて、ぼく一人だけのもので、
長い間ずっと孤軍奮闘だったんですから、えぇ。
日本盤が出るわけでなし、大型輸入CDショップには相手もされず、
日本で在庫しているのは、セレクト・ショップ2店だけというお寒い状況で、
よくぞ2位という破格の評価をしてくれたものです。
世の流行やら業界事情などではなく、真に内容を評価してくれたからこそで、
これは本当に嬉しかったですよ。カンゲキしました。
毎年のように一人絶賛しているのも、アホみたいというか、
どうせ人から呆れられているのだろうと、
個人の年間ベストに入れるのを、初めて遠慮した年のアルバムだっただけに、
カタキをとってくれたみたいな気分で、痛快至極でありました。
さて、その日本を代表する音楽誌で年間2位の評価を得た作品の次作となる本作は、
2部構成という初の企画。
前半の1部はレー一人が歌いますが、後半の2部は、ボレーロ・コンテストで入賞し、
レーが育ててきた若手歌手たちとのデュエットという構成になっています。
レー・クエンが歌い始めたのをきっかけに、
古いヴェトナム歌謡は、ボレーロのジャンル名で親しまれるようになりました。
当時を知るオールド・ファンばかりでなく、若者にも受け入れらて、
コンテストが開催されるほか、レー・クエンのフォロワーが登場するまでの
盛り上がりをみせています。
https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2015-04-26
今作でレーとデュエットした7人のうち、ぼくが耳をそばだてられたのは、
9曲目のマイ・フォンという女性歌手。
ザンカー系の素養をうかがわせる、発声とこぶしを駆使する歌手で、
繊細なこぶし使いや、厚みのある中音域の落ち着いたトーンがいいですね。
レーと一緒に歌って、レーの声より前にせり出してくる押しの強さは、傑出しています。
そして、レー・クエン自身も成長しています。
出だしの第一声の、軽やかなハイ・トーンに驚きました。
一瞬、え? これ、レー・クエンか?と戸惑い、
しばらく別人じゃないのかと、首をひねりながら聴き進めていくうちに、
ようやく彼女の声だとわかりました。
シリーズ初作の頃から考えると、レーの発声もずいぶん軽やかになりました。
前作にもその傾向はうかがえましたけれど、今回かなりはっきりしましたね。
低音のアルト・ヴォイスで、ぐぅーっと声を絞り上げる、
レーのトレードマークともいえる歌い回しが、影を潜めるようになったともいえます。
これでレー・クエンが苦手といっていた人も、あらためてファンになる人が出てくるかも。
レーが語るところによると、これまでのレコーディングでは、
歌の世界に没入するあまり、完パケのあとは憔悴しきっていたとのこと。
歌の主人公の悲哀に打ちのめされ、自室にひきこもってしまうほど、
メンタル面で打撃を受けていたんだそうです。
それが結婚や出産を経て、より歌を快適に、自然に歌えるようになったといいます。
こうしたメンタル面での成長が、エモーショナルなアルト・ヴォイスを抑えて、
軽やかさをもたらしたようですね。
このシリーズを始める前、レーがまだカヴァー歌手だった若い頃は、
古い叙情歌謡にトライしてみても、詩の解釈や歌い込みが不足していて、
自分の未熟さを痛感していたといいます。
歌の主人公になりきれるよう、自らを追い込まないと歌えなかったそうで、
そうした激しさが、あの深い情念をもたらしたんですね。
それが人生経験を積むようになって、歌との距離感をコントロールできるようになり、
楽に歌えるようになってきたと、インタヴューで彼女は語っています。
ボレーロ・ブームのさきがけでとして、後進を育てつつも、
みずからも成長を続けるレー・クエン、頼もしい人です。
芸歴20周年を迎える今年、12月には記念コンサートも予定され、
すでに20年記念プロジェクトがスタートしているそうです。
Lệ Quyên "KHÚC TÌNH XƯA 5 : HẸN HÒ" Viettan Studio no number (2019)