マラヴォワのフロントを務めた名クルーナーのラルフ・タマールが退団し、
後任を務めたシンガーが、ピポ・ジェルトルードでした。
コーラスの一員にトニー・シャスールも加え、マラヴォワは89年に来日しましたが、
正直ラルフ・タマールが抜けた穴は大きすぎて、
ピポの力量では到底埋められないというのが、
後楽園ホールのライヴ後の率直な感想でありました。
あの時のライヴでは、ピポがメインで歌いましたけれど、
数曲歌ったトニーの方が良かったという記憶が残っています。
あれから四半世紀。ミジコペイの活躍によって、
トニー・シャスールが魅力溢れるシンガーに成長したことを、
再認識させられましたけれど、なんとピポの新作も出ていたんですねえ。
ピポのソロ・アルバムというと、ひょっとして93年のアルバム以来でしょうか。
ほかにアルバムが出ていたら、ゴメンナサイですけれど、
ぼくにはすっごく久しぶり感のあるアルバムです。
CD裏には「2017」のクレジットがあるものの、18年2月に出たという本作、
シュヴァル・ブワなどマルチニークの伝統色も生かした、
オーガニック・サウンドのズークを聞かせてくれます。
ヌケのいいサウンドの要となっているのは、ロナルド・チュール。
https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2017-02-20
ほとんどの曲のアレンジをロナルドが担っていて、
エレガントなビギン・ジャズのニュアンスを醸し出すピアノ・プレイを堪能できます。
リズム・セクションも強力で、
ジャン=フィリップ・ファンファンが叩くシンバルとハイハットの高音と、
バゴが叩く太鼓の低音の絶妙なコンビネーションが、
リズムをグルーヴさせているところも、アルバムの聴きどころとなっています。
ピポのヴォーカルは、昔と変わらないスウィートかつスマートな歌いぶりで、
ラルフ・タマールと比較するような無茶を言わなければ、
十分魅力のあるヴォーカリストですよね。
ほとんどがピポのオリジナル曲ですが、
ジミー・クリフの‘Many Rivers To Cross’ のカヴァーもなかなかの聴きもの。
ラップも飛び出す‘Je Suis Content’ は、ホーン・セクションとシンセサイザーが
80年頃のマグナム・バンドを思わせるソウル色の濃いコンパなら、
‘An Pèp An Sel Konba’ は、ル・フラール・デジャンふうのコンパで、
ハイチ音楽ファンならカンゲキすることウケアイ。
伝統リズムを強調した民俗色濃い‘Chagrin La Tcho’ もあれば、
アルバム・ラストの‘Bay Lavwa’ はシュヴァル・ブワと、
ジャズ色の濃いミジコペイに対してピポのソロ作は、
マルチニークのフォークロアもたっぷりと詰まった快作になりました。
Pipo Gertrude "SAVAN’ BLÉ-A" Solibo Music SM2017-001 (2017)