なんて味のあるコブシ回しなんだろうか。
メリスマの利かせ方ばかりでなく、発声の強弱を駆使して
風が舞うような節回しを描く、その技量の高さにタメ息がでます。
ヴァイタルに歌えば野趣な味わいがにじみ出るし、いやあ、いい歌い手ですねえ。
アズマリでなければできない芸当、その鍛え抜かれた芸能の深淵が
まさにそこに表現されている、そんな思いを強くさせる見事な歌唱です。
ギザチュウ・テショム。
経歴などのバイオ情報が見つからなくて、詳細はわかりませんが、
間違いなくアズマリ出身、中堅どころといった歌手でしょうか。
11年にこんなアルバムがカナダで出ていたとは知りませんでした。
これほど素晴らしいシンガーをずっと知らずにいたなんて、などと反省しながら、
データベースに打ちこんでいたら、あれ? この人の旧作を持ってる!
ぜんぜん記憶になくて、棚をごそごそ探して、ジャケットを見て、ようやく思い出しました。
エチオピアで出た08年作(表紙の2001はエチオピア暦)で、
今回手に入れたカナダのサミー・プラス・プロダクションからも出ているようです。
歌はいいんだけど、プロダクションがちょっと難だったような覚えがあったんですが、
聴き返してみたら、やっぱりその通りでした。
主役のせっかく歌の上手さを、シンセやサックスなどバックの音がジャマしたり、
ヴォーカルがサウンドに埋没気味となっているミックスもいただけません。
そんな08年作の欠点をすべて改善してみせた本作は、
ギザチュウのヴォーカルが前面に押し出され、
クラール、マシンコ、ワシントなどの伝統楽器と、
サックスやエレクトリック・ギターとの絡みもこなれています。
反復フレーズでじわじわと熱を帯びていくのは、アズマリのお約束。
ウチコミ使いと思えぬグルーヴィなビート感も申し分ありません。
辛口の女声のお囃子と、パワフルなギザチュウとのかけあいに手に汗握れば、
絶妙なタイミングで炸裂するウルレーションに昇天します。
Gizachew Teshome "DES BELONAL" Samy Plus Production no number (2011)
Gizachew Teshome "YEHUNA" Master Sound no number (2008)