あぁ、ブラジル女性らしい声ですねえ。
声が持つ特性なのか、発音の特性なのか、はたまたその両方なのか、
判然としませんが、ほかの国の女性歌手にない、ブラジル独自の個性を感じます。
ブラジルを強く感じるのは、もっぱらボサ・ノーヴァ以降のMPBの歌手ですけれど、
ガル・コスタ、ジョイス、ダニエラ・メルクリといった人たちには、
共通する声の響きがあります。
そんな女性歌手の系譜にまた一人加わったのが、このアンナ・セットンという人。
先に挙げたビッグ・ネームのような強い個性はないものの、
ジアナ・ヴィスカルジ、ヴァネッサ・モレーノ、
タチアーナ・パーラといった若手たちと同じく、
ブラジル性を感じさせる歌声は、耳に心地よいですね。
バックは、ピアノ、ベース、ドラムス、ギター、フリュゲルホーンのクインテットで、
サン・パウロの売れっ子ジャズ・ミュージシャンたちが居並びます。
そのなかで初めて目にする名前はピアニストのエドゥ・サンジラルジで、
アンナはそのエドゥと共作したオリジナルを中心に歌っています。
演奏はジャズ色濃いものとなっていますけれど、
アンナの歌いぶりにジャズは感じられず、みずみずしい歌唱を聞かせます。
オリジナルのほか、3曲取り上げたカヴァー曲が、なかなかの聴きもの。
カエターノ・ヴェローゾがガル・コスタに提供した
‘Minha Voz, Minha Vida’を取り上げてくれたのは、ぼく好みの嬉しい選曲。
ガル・コスタの82年作“MINHA VOZ” のトップに入っていた曲です。
カエターノものちに97年の“LIVRO” で歌いましたけれど、ガルの名唱には遠く及ばず。
ガルのヴァージョンがアクースティック・ギター・メインだったのに対し、
アンナはヴィニシウス・ゴメスの柔らかなトーンの
エレクトリック・ギターのみをバックに歌っています。
ハイ・トーンがキンと立つ、ガルのクリアな発声とはまた違い、
アンナは落ち着きのある柔らかな声で歌っていて、これもいい仕上がりですね。
海の男ドリヴァル・カイーミの‘A Lenda do Abaeté’ を取り上げるとは、意外です。
カイーミの深い声で語るように歌う、重厚なオリジナル・ヴァージョンとは違い、
軽やかな歌に仕上げているのが妙味で、ナット・キング・コールで有名な
‘Nature Boy’ のエキゾ風味も味わいがあります。
Anna Setton "ANA SETTON" no label ANNA001 (2018)