ウェールズの詩情 シァン・ジェイムズ
胸の奥底に染み入ってくる歌。 世俗にまみれたぼくのような人間の穢れた魂をも、 救済してくれるかのようなその響きに、陶然としてしまいます。 ウェールズを代表する女性歌手、シァン・ジェイムズのアルバムを聴くたび、 他の歌手にはない聖性を帯びたものを感じます。 不信人者にもそんな気持ちを抱かせる、スペシャルな歌い手さんですね。 10作目となる今作でも、ウェールズの伝承曲をもとに自作も交えながら歌う、...
View Articleセンシティヴなライカ ヴィキ・カラツォグル
3年前に出ていたギリシャ歌謡の新人さんのアルバム。 これがすごく良くって、知られずにいるのはもったいないと思い、ご紹介。 ソフトなライカといえば、いいんでしょうか。 ちょっとジャジーな味もあって、いわゆる武骨さとは無縁の女性歌手です。 抑え目な歌唱で哀感を醸し出すことのできる、そのスムースな味わいに個性があります。 歌いぶりが自然体で、強く歌い過ぎないところがいいですね。...
View Articleヒップホップ流クワイエット・ストーム マセーゴ
あ~、今日はダメだぁ。 CDショップであれこれ試聴してみるんだけど、どれもピンとこない。 最後に残ったのが、いかにもインディ制作らしい、ペーパー・スリーヴのうすっぺらいCD。 棚に放り込まれたままのポップもない、売る気がまったく感じられないこの1枚を最後に、 今日はもう帰るか、なんて諦め気分でボタンを押したら、これが極上。 即、いただいてきました。...
View Articleコテコテ・ギター ブーガルー・ジョー・ジョーンズ
連休に『コテコテ・サウンド・マシーン』を読了。 いやあ、楽しかったあ。原田和典さんの名調子を堪能しました。 それにしても、原田さんの文章って、ニクたらしいほどウマいなあ。 心底自分が惚れ込んだレコードを、愛情こめて紹介しているのが きちんと伝わってくる体温のある筆致で、こういう書き手って、案外少ないもの。 もちろんプロの評論家として、押さえるべきデータはそつなく盛り込んで読者に提供しつつ、...
View Articleエネルギーを再注入したグナーワ大学 アジズ・サハマウイ&ユニヴァーシティ・オヴ・グナーワ
パリのマグレブ・ミクスチャー楽団、 オルケストル・ナシオナル・ド・バルベスの中心メンバーだった アジズ・サハマウイのソロ・プロジェクト、「グナーワ大学」の新作が届きました。 11年のデビュー作で音楽監督を務めたマルタン・メソニエが、 プロデューサーに復帰したんですね。 アジズ・サハマウイ自身がプロデュースした、 14年の前作“MAZAL” は不満の残る内容だったので、...
View Articleオーストロネシア音楽をめざして サオダージ
インド洋のレユニオン島から、意欲的なグループが登場しました。 ポルトガル語の「サウダージ」にちなんだグループ名、 サオダージを名乗る女性2人に男性3人の5人組。 レコーディングではもう一人男性が加わって、デビューEPがリリースされました。 いちおうマロヤのグループということなんですが、 EPを聴いてみればわかるとおり、トランシーなパーカッション・ミュージックではなく、...
View Article80年代南アのトランスクリプションから アイリーン・マウェラ
昨年ンバクァンガのヴェテラン女性歌手、アイリーン・マウェラの新作を出した 新興レーベル、ウムサカゾ・レコーズから、 今度はなんと、80年代録音22曲を復刻した編集作が出ました! 音源はSABC(南アフリカ放送協会)のトランスクリプションで、 82年から85年にかけて制作されたレコード(未発売)から編集されています。 SABCのトランスクリプションというと、古手のアフリカ音楽ファンなら、...
View Articleブラジルの声 アンナ・セットン
あぁ、ブラジル女性らしい声ですねえ。 声が持つ特性なのか、発音の特性なのか、はたまたその両方なのか、 判然としませんが、ほかの国の女性歌手にない、ブラジル独自の個性を感じます。 ブラジルを強く感じるのは、もっぱらボサ・ノーヴァ以降のMPBの歌手ですけれど、 ガル・コスタ、ジョイス、ダニエラ・メルクリといった人たちには、 共通する声の響きがあります。...
View Articleジェラルド・ペレイラとマンゲイラ ヴェーリャ・グアルダ・ムジカル・ダ・マンゲイラ
ネルソン・サルジェントの91歳記念盤に続いて、 https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2019-03-28 マンゲイラの長老たちの新作が届きましたよ。 ヴェーリャ・グアルダ・ダ・マンゲイラのアルバムもだいぶひさしぶりで、 いつ以来になるんだろう? 08年作以来になるのかな。 70年に結成されたヴェーリャ・グアルダ・ダ・ポルテイラに比べて、...
View Articleライトなマイーザはいかが ロザーナ・トレード
おぉ、ロザーナ・トレードの“A VOZ DO AMOR” がCD化された! 前々回のリイシューから、往年のサンバ・カンソーン女性歌手に スポットを当て始めたジスコベルタスが、新たなリイシューのラインナップに ロザーナ・トレードの名作が載ったのには、小躍りしてしまいました。 今回CD化されたのはロザーナ・トレードの3作目で、 前々回のシリーズでは、ロザーナ・トレードの62年作“...E A VIDA...
View Article無垢の美 マダリッツォ・バンド
音楽って、こんなにシンプルでも、これほど楽しくできるんだなあ。 そんなことをあらためて教えてくれる、マラウィのマダリッツォ・バンドです。 バンドを名乗っているものの、実はたった二人のコンビであります。 ババトニなる手作りの1弦ベースの弦をぶんぶん鳴らし、 空き缶を弦に当ててノイズをまき散らしながら、 ぶっきらぼうに投げつけるように歌うヨブ・マリグワくんと、 ギターをかき鳴らしながら、...
View Article蘇るバイユー・ソウル コーリー・レデット
まるでクリフトン・シェニエのバイユー・ソウルが現代に蘇ったかのような アコーディオン・サウンドに目を見開かされました。 ごりごりの伝統ザディコを聞かせる主役は、コーリー・レデット。 生まれも育ちもヒューストンながら、家族のルーツはルイジアナ州のパークスにあり、 夏休みはいつもルイジアナの田舎で過ごしたというコーリー・レデット。 クレオール・カルチャーにどっぷり浸かって育ったコーリーは、...
View Articleブラジルのコンポジション アントニオ・カルロス・ビゴーニャ
これもまたブラジルならではのジャズですね。 ミナス・ジェライスのウバ出身という、ブラジル大衆音楽史に名を残す大作曲家 アリ・バローゾと同郷の、コンポーザーでピアニストのアントニオ・カルロス・ビゴーニャ。 多くの交響曲やピアノ協奏曲を残し、国民学派として高く評価されたクラシックの作曲家 オスカル・ロレンソ・フェルナンデスが設立した音楽学校でピアノを学び、...
View Article自立するブラジル女性をサンバに描いて ジザ・ノゲイラ
ジザ・ノゲイラの新作! ま・ぢ・か!! 思わずディスプレイの前で、固まってしまいました。 40年も前に惚れ込んだ女性と、思いもよらぬところで、ばったり再会した気分。 もう、ドギドキが止まりませ~~~ん! ジザ・ノゲイラは、70年代サンバ復興の立役者となったジョアン・ノゲイラの妹。 歌手の兄とは違い、作曲家として活動していたジザは、 当時兄のジョアン・ノゲイラはもちろん、...
View Articleイスラエル産ミクスチャー・バンドの豪快ライヴ イエメン・ブルース
すげーぞ、イエメン・ブルース! スタジオ作の“INSANIYA” を上回る熱量のライヴ盤に、ドギモを抜かれました。 収録されたのは、12年10月18日テル・アヴィヴのザッパ・クラブで行われたコンサート。 イエメン系ジューイッシュのリーダー、 ラヴィッド・カハラーニーのがらっぱちなヴォーカルに挑む、 バンドのフィジカルなエネルギーがハンパない、とてつもないライヴです!!...
View Articleマダム・ワカ バティレ・アラケ
なんじゃ、こりゃ? USアマゾンで偶然見つけた、ナイジェリアのワカのヴェテラン・シンガー、 バティレ・アラケのCD。 8年も前に出ていたようなんですが、こんなの、いままで見たことないなあ。 デジタル・ノイズまみれの壁紙に、名前とタイトルだけを打ち込んだけの表紙で、 8.98ドルという超安値は、いかにもバッタもんくさい。 わけもわからずオーダーしてみたところ、 中身は、87年のリーダー盤“AJE...
View Articleパウロ・フローレスのルゾフォニア音楽絵巻
アンゴラのヴェテラン・シンガー・ソングライター、パウロ・フローレスが 09年に出した3枚組の力作“EXCOMBATENTES” がようやく手に入りました。 12年に出た“EXCOMBATENTES REDUX” は、本作の抜粋ヴァージョンで、 あー、全編聴きたいなあと、長年願っていたんですよ。 10年も前の作品で、入手はもう不可能だろうとすっかり諦めていたんですが、...
View Articleタクシー・ギャングのミリタント・ビート ビティ・マクリーン
う~ん、このリディムの快楽といったら! スライ&ロビーが繰り出すビートに、いつまでも身を浸していたくなります。 まさしく満足度100%保証付きのグルーヴであります。 ブラック・ウフルーを支える屋台骨として大活躍していた 80年代を思わすミリタント・ビートが、また聴けるとは思いもよりませんでした。 これもまた、ルーツ・レゲエの回帰現象なんでしょうか。...
View Article里帰りしたヴェテラン越僑シンガー タイン・ハー
うわぁ、まるでエドワード・スタイケンのファッション写真みたいじゃないですか。 マレーネ・ディートリッヒやグレタ・ガルボの名フォトの数々が思い浮かぶ、 ノスタルジックなセピア調のジャケット・デザインに目を奪われました。 ヴェトナムのヴェテラン・ポップス・シンガー、タイン・ハーの新作です。 ドイツ系アメリカ人の父とヴェトナム人の母のもとに生まれたタイン・ハーは、...
View Article親しみやすさに込められた強靭なメッセージ ジアード・ラハバーニ
エル・スール・レコーズに行くと、ジアード・ラハバーニの70年代のCDが入荷中。 「あれ、懐かしい」と思わず口にすると、 「いいですよねえ、これ。まだ在庫があったんで、入れてみたんですけど、 インストだから売れないかなあ」とは原田さん。 ところが、その後すぐさま売り切れとなったようで、 さすがはエル・スールのお客さん、いいモノをよくご存じです。...
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