これもまたブラジルならではのジャズですね。
ミナス・ジェライスのウバ出身という、ブラジル大衆音楽史に名を残す大作曲家
アリ・バローゾと同郷の、コンポーザーでピアニストのアントニオ・カルロス・ビゴーニャ。
多くの交響曲やピアノ協奏曲を残し、国民学派として高く評価されたクラシックの作曲家
オスカル・ロレンソ・フェルナンデスが設立した音楽学校でピアノを学び、
ブラジリア大学で音楽の修士課程を修了したというアントニオ。
トニーニャ・オルタ、ナナ・カイーミ、ジュアレス・モレイラ、マリナ・マシャードほか、
数多くの音楽家と共演を重ね、第23回ブラジル音楽賞インストゥルメンタル部門で
受賞した実力者なんですね。
04年にデビュー作をリリースし、10年作に続く3作目になるという本作、
その経歴からもわかるとおり、クラシック出身らしい端正なピアノを聞かせる
ピアノ・トリオの作品となっています。
ベースとドラムスは、シコ・ブアルキ・バンドのリズム・セクションを起用。
サン・パウロやベロ・オリゾンチなどから続々と登場している、
リズムやハーモニーに新感覚を持ったブラジル新世代のジャズとは違い、
きわめてオーソドックスなジャズなんですけれど、これがとてもステキなアルバムなんです。
繰り返し愛聴しているうちに、
やはり冒頭の「ブラジルならでは」と表現するしかない
メロディがふんだんに飛び出してきて、
そのコンポジションに感じ入ってしまったのでした。
全曲アントニオのオリジナルで、そのみずみずしくもメランコリックな楽想は、
クラシック的というより、シキーニャ・ゴンザーガの時代を思わせるショーロの伝統を
ぼくは強く感じてなりません。
ボールが弾むようなスタッカートの利いた愛らしい1曲目から、
ショーロのメロディに通じる愛らしさをおぼえます。
優雅なワルツや爽やかなマーチなど、どのコンポジションにも
古典ショーロが持っていたセンスがあり、惹きつけられるアルバムです。
Antonio Carlos Bigonha "ANATHEMA" no label MCKPAC0083 (2018)