南スーダンのポップス?
あの国にポップスなんて存在するのか?
独立早々の国境紛争から内戦に突入した南スーダンの惨状を思えば、
当然わき上がる疑問です。
南スーダンの国旗の三色を背に、『南スーダンの声』と題した本作の主役、
パンチョル・デン・アジャン・ラックは、内戦を避けて国外に脱出した難民たちにとって、
レジェンド扱いされている歌手だとのこと。
いかにも低予算なチープな打ち込みは、ポンチャックの南スーダン・ヴァージョンの体で、
聴き始めはやれやれという気分にさせられたんですけれど、
聴き進めていくうちに、グングン引きつけられてしまいました。
いかにもスーダンらしいおおらかなメロディと、
2・4拍でハネるリズムがユーモラスというか、ファニーというか、
とにかく楽しいことこのうえないんですよ。
オルガン、シンセサイザー、シンセ・ベースをレイヤーしたスッカスカのサウンド、
キーボードのキュートな音色に、クスクス笑いを誘われます。
アコーディオンやエレクトリック・ギターは手弾きのようで、
シンセ・ベースでなく、手弾きらしきベースが聞こえる曲もあるんですけれど、
見事にチューニングが合っていなくて、アブなく妖しいサウンドを生み出しています。
何が功を奏するか、わからないもんですね。
パンチョル・デン・アジャン・ラックは、現在の南スーダン、デュック・パディエット群で、
69年の生まれ。兄弟の多くを失くし、父親は76年に、母親は90年に他界。
内戦のため通っていた学校も閉鎖され、初等教育も満足に受けられなかったそう。
歌手活動だけでなく、レスリングの選手としても活躍したが、
ディンカ人主体の反政府組織SPLMによる内戦が激しくなった91年には、
ほとんど芸能活動が不可能となり、
現在は難民キャンプを回って避難民を勇気づけているという。
国外へ逃れた難民の支援を受け、13年にカナダ、15年と17年にオーストラリア、
17年にアメリカへ招待されて公演を行っています。
ハイル・メルギアの85年の多重録音盤が好きな人や
アフリカ音楽カセットのマニア、ブライアン・シンコヴィッツさんのレーベル、
オウサム・テープス・フロム・アフリカのファンには、絶好の一枚でしょう。
Panchol Deng Ajang Luk "THE VOICE OF SOUTH SUDAN" JBT no number (2017)