本土復帰前にあたる60年代の嘉手苅林昌は、やっぱり格別ですねえ。
アカバナーから出たマルテル音源の編集盤を聴いて、
何十年ぶりで嘉手苅熱が再燃しちゃいました。
マルテルに残されたシングル録音は、
これまでにもいくつかのコンピレでCD化されてきたとはいえ、
18曲もまとめて復刻されたのは、これが初。
カデカル節とじっくりと向き合うには、格好のアルバムといえます。
もうのっけから、嘉手苅林昌の世界に、ぐぃぐぃ引きずり込まれてしまいましたよ。
1曲目から、のちのち林昌を代表するレパートリーとなる「下千鳥」ですからねえ。
ファンにはおなじみの、別れの悲しみを歌ったバラードですね。
林昌は世の無常をも超越したかのように淡々と歌っていて、
その昇華した深い情念に、胸を打たれます。この境地こそが林昌ならではといえます。
後年の枯淡の歌いぶりで聞かせる「下千鳥」も美しいんですけれど、
こんなに丁寧に、言葉を慈しみながら歌っているのは、この時代だからこそでしょう。
マルテルに録音したのは66・67年頃。
林昌が40半ばの頃で、いわば脂ののった男盛りともいえる時期です。
マルテルに吹き込む直前には、65年にマルフクからデビューLPを出していて、
そのレコードを血眼になって探し回った話は、以前ここで書きましたけれど、
https://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2012-08-31
マルフク盤LPを知るきっかけとなった
平岡正明の『クロスオーバー音楽塾』(講談社、1978)には、
マルテルのシングル盤「国頭大福/サラウテ口説」についても、大いに語られていました。
本盤にはもちろんこの2曲も収録されていて、
ぼくはこのシングル盤をマルフク盤を手に入れた翌年に、
那覇のレコード店で直接手に入れました。
マルフク盤の良さがわかるようになるまでには、少し時間がかかりましたけれど、
「国頭大福」のスウィング感には、一聴でシビれましたね。
古典音楽や民謡の型からひょうひょうとはみ出し、
変幻自在な即興で自由な琉歌の境地を切り開いた、林昌の至芸の数々。
かつてマルテルのシングル盤には、「沖縄俗謡」と書かれていたように、
民謡=民俗音楽ではなく、俗謡=大衆音楽であることが、
くっきりと刻印された名編集盤です。
嘉手苅林昌 「島唄黄金時代の嘉手苅林昌」 アカバナー TR002
[EP] 嘉手苅林昌 「国頭大福/サラウテ口説」 マルテル MT1009