ノルデスチのギラギラとした太陽を思わせる、野性的なヴァイオリンの響き。
ブラジル北東部、セルトーンの乾燥地帯の灼けつく大地を思わす
ラベッカの荒ぶった音色は、壊滅的な旱魃を引き起こす
厳しい風土によって、鍛えられたのでしょうか。
そう思わずにはおれない、「ぎこぎこフィドル」のラベッカ。
ストラディヴァリウスがどうのこうの言う、
クラシックのヴァイオリニストを即死させることウケアイの、
原始的な響きを奏でます。
サトウキビ畑で働く無学の農夫だったネルソン・ドス・サントスが、
はじめてヴァイオリンを知ったのは54歳の時。
テレビで偶然にヴァイオリンを見て一目惚れし、
その時からラベッカを自作するようになり、
見ようみまねでこの楽器をマスターしたといいます。
そのネルソン・ド・ラベッカが出した04年のソロ作は、
ひなびたラベッカのプレイとともに、
ネルソンの奥方ベネジータの歌いっぷりが強烈でした。
田舎の婆さん丸出しのあけっぴろげなその歌いぶりは、粗野な生命力に溢れ、
にがりの利いた声は天然のミネラルがイッパイで、心が震えましたよ。
昨年ネルソン・ド・ラベッカがアルバムを出していたことに気付いて買ってみたら、
これがスゴい内容で、びっくり。
『即興する伝統』と題したこのアルバム、スイス人ミュージシャン、トーマス・ローラーと
コラボした作品で、2人がフリー・インプロヴィセーションを繰り広げているんです。
トーマス・ローラーは、ラベッカのほかにソプラノ・サックスも吹き、
ラベッカとトランペットを演奏するもう一人に、パーカッション奏者を加え、
フォーマットこそオーセンテイックな伝統音楽のスタイルながら、
まるでフリー・ジャズのように聞こえる即興演奏があったりして、これはシビれます。
トーマス・ローラーは95年からブラジルに住み、
伝統音楽グループのメンバーの一員となるほか、
即興演奏のアンサンブルで活動している音楽家。
ネルソン・ド・ラベッカとのコラボは、
3年越しの活動のうえレコーディングに臨んだもので、
時間をかけて練り上げたプロジェクトだったんですね。
歌ものでは、奥さんのベネジートが相変わらず野趣に富んだ味わいを醸し出していて、
04年作以上に土臭さをまき散らしてくれます。たまりませんね、こりゃ。
ラベッカをアンプリファイドした曲もあって、
そのノイジーなサウンドに、ジョン・ゾーンでも聴いてるような錯覚を覚えますよ。
Nelson Da Rabeca "PROS AMIGOS" Sonhos & Sons SSCD066 (2004)
Nelson Da Rabeca, Thomas Rohrer "TRADIÇÃO IMPROVISADA" SESC CDSS0105/18 (2018)