アラブのCDで、アラビア語より英語のアルファベットが、
これほど目立つジャケットも珍しいですね。
レバノンの古典歌謡歌手、ジャヒーダ・ワハビの新作です。
すでにヴェテランといえる歌手で、今回も自身のレーベルからのリリースです。
ウム・クルスームを尊敬し、もし歌手にならなければ軍人になったという彼女。
16歳の時、内戦で軍人だった父親を亡くし、
ジャヒーダは愛国主義者になったといいます。
愛国主義といえば、ジュリア・ブトロスの18年ライヴ盤(CD2枚組にDVD付き)が
まさに愛国主義一色で、記事は遠慮したところだったんですけれどね。
こちらは歌いぶりが勇ましくなったりするようなことはなかったので、
落ち着いて聴くことができました。
ジャヒーダ・ワハビが音楽を勉強するなかで、古典音楽の道に進んだのも、
そうした愛国心やアラブの歴史への関心が大きく影響したようです。
レバノン国立音楽院に進んで、歌とウードを学びながら、
古典詩、古典歌劇、シリア聖歌、スーフィー音楽、コーランを勉強したといいます。
ジャヒーダは音楽を通じて古典詩を蘇らせたいと考えていて、
古典にのっとった新作古典曲を歌うほか、スーフィー詩も、多く取り上げています。
本作はプラハ市交響楽団やキエフ交響楽団を起用した曲など、
古典歌謡をリフレッシュメントしたプロダクションが効果をあげていて、
モダンなアプローチが古典の堅苦しさを洗い流し、
風通しのよい爽やかな聴後感を残します。
本作にはボーナス・トラックならぬボーナス・ディスクが付いていて、
CDトレイの下にもう1枚ディスクが入っているのに驚かされたのですが、
本篇がは50分43秒なのに、ボーナス・ディスクは77分26秒というヴォリューム。
ボーナス・ディスクはスーフィー・アルバムと銘打ち、
無伴奏もしくは太鼓だけ、またはカーヌーンや笛のみを伴奏に歌うなど、
全編簡素な伴奏で歌っています。
静謐なサウンドとしながらも、ことさら神秘的な雰囲気をまとうことなく、
丁寧にスーフィー詩を聞かせているところに好感が持て、
耳を傾けるほどに心が落ち着いていくのをおぼえます。
Jahida Wehbe "NOMAD’S LAND" Jahide Wehbe no number (2019)