一昨年亡くなった南アのトランペット奏者のヒュー・マセケラが、
アフロビートをクリエイトしたドラマーのトニー・アレンと
2010年にロンドンで共演したレコーディングしたセッションから、
10年の歳月を経て完成したアルバムが届きました。
二人は、アレンがフェラ・クティのアフリカ70のリーダーだった当時から親交があり、
長年共演を望んでいたんだそうですが、なかなか実現することがなく、
10年に偶然イギリスでのツアー・スケジュールが重なった機会を捉え、
レコーディング・セッションをロンドンで敢行したとのこと。
そうしてベーシック・トラックは出来上がったものの、多忙な二人ゆえ、
その後オーヴァーダビングする録音のスケジュールがとれないまま、
マセケラは亡くなってしまったのでした。
このまま埋もれたままにしておくのはもったいないと、
アレンとワールド・サーキットのプロデューサーのニック・ゴールドが
昨年夏に動き始め、ベーシック・トラックを録音したのと同じスタジオで
レコーディングに取りかかり、完成させたのだそうです。
このレコーディングに関わったメンツが、スゴイんです。
UKジャズの精鋭がずらりと並んでいて、まず嬉しくなったのが、
テナー・サックスで参加したスティーヴ・ウィリアムソン。
M-Base 派のプレイヤーとして、ロンドンのジャズ・シーンに90年に登場して
一躍注目を浴びた人です。覚えてます? つーても、若い人は知らないよねえ。
91年の2作目“RHYME TIME (THAT FUSS WAS US!)” なんて、
スティーヴ・コールマンの“RHYTHM PEOPLE” と並ぶ、
M-Base を代表する大傑作だったもんねえ。
当時UKジャズで最高人気だったコートニー・パイン(二人は同い年)よりも、
ぼくはスティーヴ・ウィリアムソンの才能を買ってたので、
その後まったく活動の様子が伝わらなくなってしまって、
すごく残念に思ってたんですよ。ほんと、どうしてたんだ?
ほかにも、ルイス・ライト(ベース)、エリオット・ガルヴィン(キーボード)のほか、
ロンドンのアフロビート・バンドとして注目を集める
ココロコのベーシストのムタレ・チャシや、
エズラ・コレクティヴのキーボード奏者ジョー・アーモン=ジョーンズも参加していますよ。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-03-04
マセケラ自身の多重録音によるズールー・チャントから始まる1曲目から、
アレンのよくスウィングするドラミングがふくよかなグルーヴを生み出し、
マセケラのフリューゲルホーンがのびのびと歌います。
アレンのドラミングとマセケラのフリューゲルホーンを、
浮き彫りにするように仕上げられた作品。
オールド・タイミーなスウィング・ビートが、
アフロ・ジャズのトリートメントによってクールな表情に変換して、
実にイマっぽいサウンドというか、2010年代的に響くところが、めちゃ新鮮です。
Tony Allen, Hugh Masekela "REJOICE" World Circuit WCD094 (2020)