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ディストピア時代のシティ・ポップス さかいゆう

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さかいゆう Touch The World.jpg

それは、付属DVDのライヴ終盤、突然やってきました。
アンコールに一人ステージへ戻ってきたさかいゆうが、
ステージの真反対の客先の中に設置されたキーボードに座り、
弾き歌い始めた「君と僕の挽歌」。
聴き進むうちに胸の奥底を、ぎゅうっと強くつかまれて、
ぽろぽろと涙がこぼれるのを、止められなくなりました。

え? なんでじぶん、泣いてるんだ? うろたえながら、まず思ったのは、
歌詞がその理由じゃない。言葉は耳に入っていませんでした。
力のこもったヴォーカルと楽曲のメロディに、心を激しく揺さぶられたのです。

はじめて聴くアーティストの音楽に、いきなり胸の高まりを抑えきれず、
涙を流したのなんて、いったいいつ以来でしょうか。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2014-11-27
なんでこれまで、さかいゆうを知らないままでいたんだろう。
ちょっぴりそんな後悔とともに、そのまっすぐなハイ・トーン・ヴォイス、
掛け値なしに美しいヴォイス、甘く震える声に、胸を打たれました。

先に限定盤仕様のDVDを観てしまったんですけれど、
本編でもジェイムズ・ギャドソンが叩いたバラードの‘Dreaming Of You’ の、
ゴスペル・フィールのコーラスとともに歌い上げるところに、
この人の真骨頂を感じました。

シティ・ポップスど真ん中といっていいJ・ポップの音楽家だと思うんですけれど、
その引き出しにジャズが相当混じっているのは、
DVDのライヴでのキーボード・プレイを観ても明らか。
本編でも、‘So What’を下敷きにした「孤独の天才」や、
ニコラス・ペイトンを起用する人選に、それがよく示されています。
過去作では、ジョン・スコフィールドやスティーヴ・スワロウも起用していたんですね。

ロンドン、ニュー・ヨーク、ロス・アンジェルス、サン・パウロで
ブルーイ、テラス・マーティン、カット・ダイソン、マックス・ヴィアナなど、
各地第一級のポップス職人たちと交流しながら制作した本作、
もしスケジュールが半年遅れていたら、実現はできなかったはず。

コロナ禍というディストピアに立ち向かうリスナーのため、
神がスケジューリングしてくれたと、ぼくは解釈したいな。
世界に触れられなくなったいま、あらためて「世界に触れる」日に向け、
神がポップ・ミュージックの才人に力を授けた傑作です。

[CD+DVD] さかいゆう 「TOUCH THE WORLD」 ニューボーダー POCS23903 (2020)

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