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生で聴いた瞽女さん 伊平たけ

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伊平たけ  「しかたなしの極楽」.jpg

うわぁ、懐かしいレコードがCD化されましたね。
刈羽瞽女の伊平たけが88歳の時に開いた、
東京赤坂の草月会館ホールでのリサイタルを収録した2枚組。
ライヴ盤と言うより、実況録音盤と呼んだ方が、しっくりくる感じ。
当時新進のジャズ・レーベル Nadja から出た、変わり種のレコードでした。

73年あたりから沸き起こった瞽女ブームをきっかけに、
高校生だったぼくも、瞽女唄のファンになったんでした。
高田瞽女の杉本キクイ、五十嵐シズ、難波コトミに、
長岡瞽女の中静ミサ、金子セキ、加藤イサを収録した
3枚組の『越後の瞽女唄』(CBSソニー)も、
乏しいこづかいを貯めて買うほど、夢中になったもんです。

そういえば、あの当時ブルースもブームだったけれど、
瞽女とブルースの両方を聴いてた人なんて、ほとんどいなかったんじゃないかな。
コンサート会場の客層が、まったく違ったもんね。
どっちみち高校1年生のぼくは、どちらの会場でも浮きまくってたように思うけど。

牛込公会堂で観た伊平たけは、第1回ブルース・フェスティヴァルで来日した
スリーピー・ジョン・エスティスと同じくらいの衝撃がありました。
当時の日記を見返してみたら、伊平たけを観たわずか10日後が、
ブルース・フェスティヴァルだったんですね。

どちらのコンサートも、この音楽が、どんな場で演奏され、
どんな人々の間で聞かれていたのか、その情景を想像するだけで、
ゾクゾクするような思いがしましたね。
非日常的な音楽にこそ好奇心を掻き立てられる変態高校生にとっては、
とてつもなく刺激的な体験でした。

このレコードの良さは、瞽女さんのレパートリーを一通り聴けるところにあります。
1枚目は口説、門付け唄、さのさ、萬歳など短い唄を集め、
2枚目で長い段物(祭文松阪)をたっぷりと聴くことができます。
1枚目では、司会の朝比奈尚行とのやりとりがほどよい解説となって、
初めて瞽女さんを聴く人にとっても、親しみやすい構成となっています。

瞽女さんのレコードというと、
無形文化財のアーカイヴといった堅苦しさがつきまとんですけれど、
長尺の語り物だけを聴いていてはわからない、
庶民芸の娯楽の要素を引き出した本レコードの企画は、秀逸でした。

「葛の葉子別れ」や「小栗判官」「山椒太夫」といった段物は、
演目のクライマックスであって、瞽女宿に夜集まってきた村人の前で
繰り広げられる大宴会では、さまざまな流行(はやり)唄が披露されていたんですよね。
そんな瞽女さんのユーモアを、このレコードでは楽しむことができます。
76年に出た本『伊平タケ 聞き書越後の瞽女』
(鈴木昭英,松浦孝義,竹田正明編、講談社)も、
文芸的に語られすぎる瞽女さん像を軌道修正するのに役立ちました。

伊平たけ 「越後流し追分/松坂節」.jpg

伊平たけが出したLPは、この1作だけだったと思いますけれど、
つい最近、昭和3年にニッポノホンへ吹き込んだSP「越後流し追分/松坂節」が、
メタカンパニーの特典CD-Rになりましたね。
74年のブーム当時、物珍しさだけで伊平たけを聴いてた人が、
このCDを買うとは思えないので、瞽女唄をこれから聴いてみようという人にこそ、
ぜひおすすめしたいと思います。

伊平たけ 「しかたなしの極楽」 Nadja/ソリッド CDSOL1891/92 (1974)
伊平たけ 「越後流し追分/松坂節」 メタカンパニー SP006

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