もう1枚入手したのは、キクユ人ミュージシャンとしてもっとも有名な
ジョゼフ・カマルの60年代ヒット曲集です。
ジョゼフ・カマルは、ケニヤのポピュラー音楽黎明期を代表する
重要な音楽家であるばかりでなく、
大統領や支配層のエリートに辛辣な批判を浴びせた曲を歌い、
政治活動家としても歴史に名を残した人です。
60~70年代にEPをたくさんリリースし、LPも出しています。
その後はカセットに切り替わりますが、往時の音源がCD化されることはなく、
国外ではほとんど知られていませんね。
と思っていたら、こんなCDを見つけてしまったので、ビックリしたわけなんですが、
いつの間にこんなCDが出ていたんだろう?
原盤はカマル自身がオーナーのレコード会社、
カマル・シティ・サウンズとクレジットされていますけれど、
配給はアメリカ、メリーランド州に住所を置くシンバ・ミュージックで、
CD番号から察するに、この配給会社が制作したCDのようですね。
前回紹介したH・M・カリウキのCDも、同じくこの会社から出たものです。
さて、主役のジョゼフ・カマルですが、
39年にナイロビの北100キロにあるカンゲマという田舎に生まれ、
ミュージシャンになることを夢見て、18歳でナイロビに出ます。
50年代後半のナイロビは、急速に都市化が進んでいた時代で、
東アフリカや中央アフリカの各地から、ミュージシャンが集まり活気に溢れていました。
路上生活でスタートしたカマルも、ほどなく家政夫の仕事にありつき、
稼いだ金で念願のギターを手に入れます。
さらにアコーディオンや1弦フィドルのワンディンディ、
パーカッションのカリンガリンガもこなして、65年についにプロとなり、
67年の‘Celina Hingura Murango’ が大ヒットとなり、一躍人気者となりました。
本CDにもそのオリジナル録音が収録されています。
カマルはキクユの伝統的なメロディを使って作曲したほか、
当時流行していたルオ人の音楽であるベンガの特徴的なベースのリフを取り入れ、
カン高いヴォーカルで歌う妹を従えて、ユニークなスタイルを生み出しました。
カマルのスタイルは、のちに「キクユ・ベンガ」と呼ばれるようになります。
本CDには、アクースティック・ギター、小物打楽器、女性コーラスとで歌う曲と、
エレクトリック・ギター、ベース、ドラムスのバンド・サウンドの曲が
混在していますけれど、バンド・スタイルの録音の方が、古い初期録音のようですね。
このほか、アコーディオンとカリンガリンガ伴奏のムウォンボコも、2曲収録されています。
今回調べてみたら、カマルの孫でサウンド・アーティストのKMRUが
バンドキャンプにカマルのページを開いていて、
かつてのカセットをもとにした音源をダウンロード販売していて、
本作もカタログにありました。
ダウンロード販売で上げた収益をもとに、
ヴァイナルでリイシューすることも計画しているんだそうです。
https://josephkamaru.bandcamp.com/
Joseph Kamaru "KAMARU HITS OF THE 1960’S" Simba Music, Inc. 005SMI