藤井風と一緒に買ったこちらも、試聴していてブッとんだアルバム。
平成生まれ世代が、日本の音楽を更新していることを、
まざまざと実感させてくれる作品でした。
ヨルシカというのは、n-buna(ナブナ)という作編曲家と、
suis(スイ)という女性ヴォーカリストによる男女ユニット。
当人たちは「バンド」を称しているんだそうですけど、
二人でバンドというのはピンときませんね。ユニットじゃいけないのかな。
水曜日のカンパネラみたいなプロジェクトですね。
このアルバムは、音楽の盗作をする男というテーマの物語となっていて、
初回盤にはこの物語の「小説」が付いているんだそう。
文学はぼくの興味とするところではないので、小説なしの通常盤を買いましたが、
ぼくには彼らの音楽性だけで、十分ヨルシカに惹かれました。
冒頭ベートーヴェンの「月光」がさらっと顔を出して、
そこからいきなりキザイア・ジョーンズばりの、
アクースティック・ギターをかき鳴らすファンク・チューンが飛び出すという展開で、
もう完全に引き込まれました。
複数のギターをオーヴァー・ダブして、
立体的なギター・サウンドをかたどったプロダクションがカッコイイですねえ。
平成生まれの音楽家にシンパシーが持てるのは、音楽を幅広く聴いていること。
自分の夢中になったジャンルの音楽を深掘りもしているから、
血肉化した音楽から参照して、自分の音楽をクリエイトする筋力が
しっかりと備わっています。
楽曲の作りも巧みで、メロディを大きく動かして盛り上がりを作るのがうまい。
題材がダークで作品主義な曲が並んでいながら、頭でっかちな印象を与えないのは、
高揚感に満ちたメロディゆえですね。
無差別殺人をしでかす犯罪者心理の自己不全感を描いた「思想犯」など、
歌詞のコトバがやたらと耳に刺さってくるのがウットウしいんだけど、
suis の切れた歌いっぷりに、音楽的快楽が得られます。
冒頭の「月光」といい、サティの「ジムノペディ」が引用されるインスト・チューンを
途中に挟むのも粋な構成で、どんなリファレンスをしようが気負いがないから、
スノッブ臭が漂わないところも、いいよなあ。
平成生まれらしいポップ体質が溢れ出ていて、お爺世代にはまぶしいよ。
ヨルシカ 「盗作」 ユニバーサル UPCH2209 (2020)