とてつもない天才が、また出てきましたよ!
YouTube で注目され、いま話題沸騰中の新人シンガー・ソングライター、藤井風。
この声にヤラれない人なんているのか?と口走りたくなるほど魅力的なシンガーで、
ぼくは一聴、金縛りにあい、即、カヴァー集付き2枚組の初回限定盤を買いました。
なんといっても、藤井の声の色彩感がスゴい。
田島貴男や久保田利伸といった、さまざまな先達の声が思い浮かぶだけでなく、
誰でもない藤井自身の声を、いく通りも持っているんですね。
豊かな声色を、さまざまなタイプの楽曲に対応して繰り出してくるところは、
まるで球種の多彩なピッチャーを見るかのようです。
そしてその歌いっぷりが、また圧巻なんだな。
ソウルフルな歌声に、リズムのノリがバツグンで、キレッキレ。
R&B系のシンガーにありがちな、スカしたところがまったくなくて、実に自然体。
アフリカン・アメリカンな歌唱表現が、見事に咀嚼されていて、舌を巻きます。
おそるべし、90年代生まれ。
さらに、そこに無頼な雰囲気が漂ってくるところが、またカッコいい。
カッコつけのポーズなどではなく、この人の地金から、無頼の色気が匂い立ちます。
22歳にして、このムードが出てくるのって、ただもんじゃないよな。
それには、この人が書く歌詞の影響もありますね。
一人称は「わし」で、二人称は「あんた」。ほかにも「〇〇じゃった」など、
方言で歌う歌詞は日常感がたっぷりで、一片の気取りもない率直さがすがすがしい。
歌詞に一番マイったのは、「死ぬのがいいわ」。
「三度の飯よりあんたがいいのよ/あんたとこのままおサラバするよか/死ぬのがいいわ」
こねくるようなメロディに、コトバをぶっこんでくるビート感は圧巻です。
こんなラヴ・ソングありかよと、最初聴いた時にノック・アウトを食らい、
その生々しい愛情表現に、ドキドキしてしまいました。
めったに歌詞に頓着しないぼくですけれど、これにはヤラれましたねえ。
さらにさらに驚くべきは、ソングライティングの才能。
全曲ヒット性のあるマテリアル揃いで、
どの曲にもフックの利いたメロディが出てくるクオリティの高さには、もう脱帽です。
なにより感心したのが、天性としかいいようがない、藤井が持つコード感。
ここでこのハーモニーを使うかという、
意外性のあるコード使いが、メチャクチャ上手いんです。
特異なコード・センスで抜群の才能を発揮した人に、
ロッド・テンパートンがいましたけれど、
グルーヴィでメロウなポップ・ソングを書く才能では、
藤井はロッドと肩を並べるんじゃないですかね。
デビュー作にして、はや名盤誕生の風格あるジャケットも最高の、今年のベスト作です。
藤井風 「HELP EVER HURT NEVER」 ユニバーサル UMCK7064/5 (2020)