とてつもなく斬新なバンドが、イスラエルにいた!
3年前だったか、イスラエル音楽に注目が集まったことがありましたけれど、
鍵盤奏者のオフェル・ピンハス率いるピンハス&サンズも、
そんな沸騰するシーンから登場したバンドのようです。
18年に出た彼らのセカンド・アルバムを聴いたんですけれど、
これが、トンデモ級にぶっとんだ内容。
クラシック、ロック、ジャズ、クレズマー、フラメンコ、アラブ、バルカン、ブラジルなど、
さまざまな音楽要素をぶちこんだ、複雑怪奇な楽曲といったら。
小節単位で拍子が変わるアレンジは、もう常軌を逸しています。
さらにそれを難なく演奏してみせるメンバーの高度な演奏力に、
「うぎゃああ~ なんじゃあ、こりゃあ~~~」と絶叫せずにはおれません。
しかもこれが、実験音楽でも、アヴァンギャルドなジャズでもなく、
キャッチーなポップスとして成立しているところが、スゴすぎる。
うわー、すんごい才能ですねー。
高度な技術とポップ・センスの同居って、若い世代の世界標準なんだな。
1曲目の‘Prelude’ は、バッハの平均律クラヴィーア曲集の
「前奏曲第1番 ハ長調」を下敷きにしているそうですけれど、
そこにクレズマーの旋律が混ざって妖しさをふりまきます。
2曲目の‘Bound’ は歌ものなれど、演奏はまるっきりテクニカル・フュージョンで、
5曲目の‘Just’ もアラブ音階とジューイッシュ音楽のフュージョン。
7曲目の‘Things I Forget To Say’ の喋りにメロディとリズムをあてはめる技法は、
エルメート・パスコアールの影響だろううし、12曲目の
‘Yes It's Hopeless I Know But Between Myself Everything Is Allowed’ の
早口ショーロ・ヴォーカルのアレンジにも、エルメートの影響がくっきりと表れています。
ちなみに、CDはすべてヘブライ語で書かれているので、
バンド名、アルバム・タイトル、曲名は、
バンドキャンプのページの英語表記に倣っています。
バンドのメンバーばかりでなく、曲により弦オーケストラほか多くのゲストを迎えています。
ヴォーカルはオフェル自身と女性ヴォーカリストのノア・カラダヴィドが担当。
緻密な構成を持つ楽曲と洗練されたアレンジに流されない、
エネルギーあふれるバンド・アンサンブルがリスナーを夢中にさせますよねえ。
4曲目‘A Tree That Falls’ のアグレッシヴなフルート・ソロなんて、手に汗握ります。
これほどテクニカルでありながら耳なじむのは、
フックの利いたポップスとしての完成度の高さを証明していますね。
この独創的なミクスチャーは、イスラエル音楽の一面でもあるんでしょうか。
いわゆるイスラエルのポップスに耳慣れた者には、
9曲目の‘Two Roses’ のメロディにイスラエルらしさを感じますけれど、
後半、弦オーケストラのインタールードで
アラブのメロディにするっと変換してしまう企みが、
ハイブリッド・ポップ・バンドの真骨頂でしょうか。
Pinhas and Sons "ABOUT AN ALBUM" Pinhas and Sons no number (2018)