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天賦のバラード表現 ハ・ヴィ

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Ha Vy  TAM SU.jpg


アジア歌謡の最高峰といっていいでしょうね。
ハ・ヴィのなめらかな歌声、繊細なヴィブラートと無理なく回るこぶしの奥底に、
ほのかに揺れる情感は、ヴェトナム歌謡が到達した最高のバラード表現でしょう。

はじめてこの人と出会った11年作の“MẸ LÀ TÌNH YÊU” が最高傑作すぎて、
その後の13年作“KỈ NIỆM TÌNH ĐẦU” は、ジャケットがいただけないこともあって、
パスしちゃいましたけど、今回はどうかなと聴いてみたのでした。

“MẸ LÀ TÌNH YÊU” に及ばないのは、楽曲の選択というプロダクション側の問題であって、
ハ・ヴィ本人の歌いぶりは、もう天賦の才としかいいようがありません。
たとえば、ぼくがいくらレー・クエンにホレ込んでいるといっても、
努力型のレーとハ・ヴィとでは、才能の開きは歴然としていて、
ハ・ヴィはテレサ・テンに匹敵する人といって、過言ではないでしょう。

イントロや間奏にヴェトナム伝統の響きをわずかに加えるほかは、
汎アジア歌謡曲の域を超えない伴奏とプロダクションながら、
ハ・ヴィの声がそこに乗れば、たちまちに主役の声を引き立てるためにそこにあるといった、
絶妙な味わいを醸し出すのだから、主役の存在感は絶大ですよね。

今作は、明るく朗らかな演歌調の曲も多く、泣き一辺倒ではないので、
広く歌謡ファンにアピールするともいえます。
もっとも、ぼくのような抒情歌謡の哀感に溺れたい向きには物足りなくもあり、
難しいところですが、伴奏のアレンジはさらに洗練されてきたのを感じます。

ただ、これだけはダメ出ししておきたいのは、
実質アルバム・ラスト曲の11曲目(これ以降、インストのカラオケ3曲の収録あり)。
このデリカシーのかけらもない打ち込みプロダクションは、サイテーです。
EDM仕様のイントロに、なんじゃこりゃと怒り心頭になりましたよ。
ハ・ヴィの歌が始まると、途端にサウンドがふくよかになるとはいえ、
それでもこの曲は聴くに耐えません。
というわけで、10曲目までをiTunes に落として聴いております。

Hạ Vy "TÂM SỰ" Thúy Nga CD014 (2015)

インド洋の東の果てのカシーダ ヌル・アシア・ジャミル

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H. Nur Asiah Jamil  LAGU LAGU GAMBUS BAND O G EL BAHAR.jpg


こりゃ、たまりません。
頭クラクラ、みぞおちモヤモヤの、トロける南洋熱帯歌謡は、
インドネシア、メダンの女性歌手ヌル・アシア・ジャミルが歌うカシーダです。

それにしてもこのサウンド、ターラブそのものじゃないですか。
東アフリカ沿岸部のスワヒリ文化が育んだのがターラブなら、
マラッカ海峡を挟んだスマトラ島とマレイ半島のムラユ文化が育んだのが、カシーダ。
インド洋の西端と東端で奏でられてきたイスラム系音楽がそっくりという不思議さ。
アラブ文化が海を越え、流れ着いた果てで、同じように変容するなんて。

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H. Nur Asiah Jamil  PANGGILAN KA’BAH.jpg
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H. Nur Asiah Jamil, Rusnah, Hikmah  QASIDAH MODERN.jpg


ヌル・アシア・ジャミルのレコードは、
80年代のオルガンやエレクトリック・ギターなどが入った
カシーダ・モデルン(「モダン・カシーダ」の意)・スタイルのアルバムが
これまでCD化されていましたけれど(上の2枚)、
今回手に入れたのは、それよりずっと前の、70年代録音のものと思われます。
まだオルガンは使われておらず、アコーディオンがその役を担っています。

不揃いのヴァイオリン・セクションが鄙びた音色を奏で、
ルバーナとベースが淡々とリズムを刻み続けるなかを、
主役の女性歌手と女性コーラスが、淋しげなメロディを紡いでいくように歌うと、
どこか人生の諦念を感じさせるような思いがするのは、ぼくだけでしょうか。

ガンブースや笛もアクセントとしてフィーチャーされ、
ノスタルジックなエキゾ歌謡、ここに極まれり。
カシーダはこの時代の録音が最高じゃないですかね。
身体にへばりつくような潮風のじっとりとした湿気を感じるサウンドが、もうたまりません。

H. Nur Asiah Jamil "LAGU LAGU GAMBUS BAND O G EL BAHAR" Life WCD0283
H. Nur Asiah Jamil "PANGGILAN KA’BAH" Life MIK6001
H. Nur Asiah Jamil, Rusnah, Hikmah "QASIDAH MODERN" Life MIK6003

老いがもたらした「古臭い」歌声で静かなる復活 シャーリー・コリンズ

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Shirley Collins  LODESTAR.jpg


シャーリー・コリンズの新作?
えぇぇぇ~、ビッグ・ニュースじゃないですかぁ。
いったい、何年ぶりのレコーディングになるんですか、これ。
姉ドリーとの“FOR AS MANY AS I WILL” 以来の38年ぶり?
うわぁ、たいへんだ、こりゃ。

届いた新作に、思わずひとりごちしてしまいましたけれど、
世間でほとんど話題にのぼっていないあたりは、
ブリティッシュ・フォークという、このジャンルらしいところですかね。
もしこれがほかのジャンルだったら、今頃大騒ぎでしょ。
伝説的な歌手が40年ぶりにカムバックして、新作を出したなんつーたら、
音楽ジャーナリズムが、ここぞと持ちあげるところですよね。

でも、ブリティッシュ・フォークという地味なジャンルでは、そんなことは起きやしません。
そもそもファンの数だって、限られてますからねえ。
もう81歳になるんですか、シャーリー・コリンズって。ぼくの母より4つ若いだけかあ。
長き沈黙を破って、静かなる復活。
大げさに騒がれなくって、むしろ好ましく思いますよ。
好きな人だけが、大切に耳を傾ければいいんです。そういう歌手じゃないですか。

思えばシャーリー・コリンズが、ファンの前から消えたのは、
78年にアシュリー・ハッチングスとの結婚生活が破綻し、
そのショックでステージで声が突然出なくなるという事態にみまわれたからでした。
長い間深刻な失声症に苦しみ、ずっと歌えずにいたなんて、知りませんでした。

さて、この新作。
この声がシャーリーなの?と、正直、戸惑いました。
かつての面影は、まったくありません。
歌声はすっかり老人になっていますけれど、婆さん声というのともちょっと違って、
男だか女だかわからない、性別不詳な声になっています。

若い頃のシャーリーの女性らしい優しい声に物足りなさを感じ、
もっとぶっきらぼうでいいのにと感じていた自分にとっては、これは喜ばしい変化。
バラッド歌いにふさわしい「古臭い」声を宿したのは、勲章といえますよ。
そして昔と変わらないのは、シンギング。
どんな伴奏であろうと、自己の感情を表出しない伝承歌の世界に没入した歌いぶりは、
シャーリーの真骨頂でしょう。

20代の若き頃、かつての恋人アラン・ローマックスとともに、
アメリカ南部を旅して古謡を集めたシャーリー。
当時掘り起こした曲“Pretty Polly” を80過ぎて歌う姿に、
誰も興味を示さず、ほったらかされてきた古い唄を見つけ出して歌う、
フォーク・リヴァイヴァリストとしての深化を感じます。

Shirley Collins "LODESTAR" Domino WIGCD389X (2016)

トビウオが跳ねる海を見つめて ソーロウグ・ニ・ヒャナワーン

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Saileog Ní Cheannabháin  ROITHLEÁN  Raelach.jpg


いいジャケットですねえ。

海の波間にしぶきをあげて、跳ねまわるトビウオ。
濃い藍色と白いしぶきの向こうには、平らな陸地が横たわり、
土の合間にかすかな緑が見て取れます。
いつまでも観ていたくなる風景。
オリジナル・プリントが欲しくなっちゃうな。部屋に飾りたくなります。

ソーロウグ・ニ・ヒャナワーンと読むんでしょうか。
アイルランド人女性のソロ2作目。初めてこの人を知りました。
お父さんがシャン・ノースの歌い手で、
お母さんはクラシックのヴァイオリニストという音楽一家に育った人。
彼女自身もシャン・ノース・シンガーで、フィドルとピアノを演奏します。

オープニングのピアノのソロ演奏に引き込まれました。
アイリッシュにはこういうピアノ・スタイルがあるんですねえ。
コンサーティーナをピアノに移し替えた演奏法は、ぼくは初めてで、
すごく新鮮に聞こえました。いいですねえ、こういうピアノ。
ヤマハのアップライトを弾いているんだそうです。

ほかにもフィドル・ソロや無伴奏のシャン・ノースを披露していて、
どの曲にも、キリッとしたアイリッシュの伝統がしっかりと備わっています。
それでいて、この清涼感は、この人ならではの個性なんじゃないでしょうか。
シャン・ノースの美しさも、どこか古式ゆかしい口承伝統の上澄みをすくったような
純潔さを感じさせて、聴くほどにすがすがしさを覚えます。

コンサーティーナやフルートなどのゲストを迎えている曲もありますが、
ほとんどが彼女ひとりによる独奏・独唱で、そのシンプルな作りが、
余計な装飾のない、この人の音楽性の純度の高さを伝えます。

Saileog Ní Cheannabháin "ROITHLEÁN" Raelach RR008 (2016)

カマレ・ンゴニの暴れん坊 ヴィユー・カンテ

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Vieux Kante  SANS COMMENTAIRE.jpg


31歳の若さで亡くなったマリのカマレ・ンゴニ奏者ヴィユー・カンテは、
05年の死の直前に制作した初カセットが、
この夏スターンズによってCD化され話題となったばかりですけれど、
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2016-08-24
実はその初カセットに先んじた録音があり、
すでに3年も前にリリースされていたことが判明しました。

01年にフランス人プロデューサーのヴァンサン・ドルレアンが録音した、
ヴィユーのカマレ・ンゴニのソロ・パフォーマンスがそれで、
13年にヴァンサン自身が立ち上げたレーベルの第1弾としてリリースされていたんですね。
バンドキャンプで偶然に発見した時は、えぇ、こんなのがあったの !? と驚いちゃいましたよ。

スターンズ盤では、このCDについて何も触れておらず、
スターンズ盤のCD制作にあたったバンニング・エアがライナーで、
「ゆいいつの商業録音」と書いていたのは、不可解としか言いようがありません。
ヴィユーのマネージャーとの間で正式に契約してCD化したのだから、
3年前の本作を知らないはずがなく、なんで無視したんでしょうね。

アルバム・タイトルの“SANS COMMENTAIRE” は、
ヴァンサンがレーベルにもその名を付けているほどで、強い思い入れを感じさせますが、
このタイトルの曲は本作に収録されておらず、スターンズ盤の1曲目に収録されているところも、
なんだかいわくありげというか、
ヴァンサン・ドルレアンとバンニング・エアの間になんかあったんですかね。

まぁ、そのへんの事情はわからないんですが、リスナーにはどうでもいいい話なので、
肝心の中身の話をしましょう。
スターンズ盤では、リズム・セクションにパーカッションを加えたアンサンブルの中で、
ヴィユーが改造した12弦カマレ・ンゴニのプレイが聞けましたが、
こちらは、ヴィユー一人によるソロ演奏となっています。
多重録音によって、カマレ・ンゴニを存分に弾き倒した圧巻のプレイが楽しめますよ。

スターンズ盤ではグリオのシンガーをゲストに呼んでいましたが、
こちらではヴィユー自身がすべて歌っていて、粗削りながら魅力あるヴォーカルを聞かせています。
マシンガンのようなトレモロや、クイーカのような効果音を出したりと、
トリイキーなプレイにハッとさせられる場面は多いんですが、
それらがハッタリぽく聞こえないのは、ジャズから学んだと思われるフレージングの組み立てや、
ハーモニクス奏法の効果的な使い方など、
伝統的な奏法と織り交ぜたバランスの良さを感じさせるからで、
ヴィユーの音楽性に伝統と革新が両立していることが、くっきりと示されています。

スタジオで録音したのではなさそうで、虫の音が聞こえてくるなど、
バマコの暗い闇夜が目に浮かぶようで、想像力をかきたてられます。
あぁ、行ってみたいなあ、バマコ。
アンサンブルとソロという編成の違いもあり、優劣つけがたい2作といえますね。
スターンズ盤を気に入った人ならば必聴の、カマレ・ンゴニの暴れん坊が残した傑作ソロ演奏です。

Vieux Kante "SANS COMMENTAIRE" Sans Commentaire SC01

マンデ・アクースティック・スウィング カンジャファ

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Kandiafa  KABAKO.jpg


ヴァンサン・ドルレアンのレーベル、サン・コモンテールのカタログは、
いまのところ5タイトルがリリースされているようです。
ジャケット・デザインがフランス人らしいお仕事というか、どれも洒落ていて全部欲しくなってしまい、
ヴィユー・カンテのアルバムと一緒に、残りの4タイトルも買っちゃいました。

ざっと紹介すると、13年の初作品となったヴィユー・カンテに続き、
翌14年に、マンデとグナーワをミックスしたユニット、カッサ・カッサのCDシングル、
シュペール・スンジャタ・バンドなどで歌手を務めたフォディエ・サッコのソロ作、
若いカマレ・ンゴニ奏者ジャジェ・シセのソロ作の3タイトルがリリースされています。
そして今年16年に、若いンゴニ奏者カンジャファのCDシングルが出ました。

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Kassa Kassa.jpg
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Fodie Sacko.jpg
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Djadje Cisse.jpg


面白かったのが、このカンジャファことアブドゥライ・コネの作品。
編成がユニークで、主役のンゴニの伴奏に、ヴァイオリン、ウッド・ベース、
カラバシ、パーカッション、男女コーラスが付いていて、
レーベル制作のヴィデオを見ると、まるでダン・ヒックスとホット・リックスみたい。
というのも、ヴァイオリンとコーラスの二人が白人女性(フランス人?)で、
ナオミ・ルース・アイズンバーグとマリアン・プライスがそこにいるかのよう。
ちなみに、ウッド・ベースを弾いているのも白人です。

カンジャファは、ジャンゴ・ラインハルトとステファン・グラッペリに影響を受けたといい、
マンデの伝統的なメロディをベースにした自作曲に、
ジプシー・スウィングのサウンドをミックスしているんですね。
そしてまた、カンジャファが弾くンゴニも凄腕で、
鮮やかなフィンガリングで、わずか3弦とは思えないプレイを聞かせます。
まるでコラを弾いているかのようなフレージング、
強いタッチによる音の粒立ちの良さにも感心します。
ロックやブルースのフレーズを取り入れているのも、
今や彼のような若い世代では当たり前ですね。

キメのフレーズがカッコイイ“Keke Magni” では、
ヴァイオリンがソロを弾きながらユニゾンでスキャットしたりと、
聴かせどころを作る曲の構成も巧みで、
これまで誰もやったことがないマンデ・アクースティック・スウィングを聞かせてくれます。
う~ん、フル・アルバムを期待したいですねえ。

[CD Single] Kandiafa "KABAKO" Sans Commentaire SC SINGLE04 (2016)
[CD Single] Kassa Kassa "MBARA MASKINE" Sans Commentaire SC SINGLE01 (2014)
Fodié Sacko "BAROSSO" Sans Commentaire SC02 (2014)
Djadjé Cissé "MAMASSA" Sans Commentaire SC03 (2014)

蘇る70年代オート・ヴォルタ

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Bobo Yeye - Belle Epoque In Upper Volta.jpg


新たなる西アフリカ音源のリイシュー。これは、大労作ですねえ。
またしてもフローラン・マッツォレーニのお仕事ですよ。
フローランが今回手がけたのは、ブルキナ・ファソ。
サンカラ革命が起こる前の、まだ国名がオート・ヴォルタだった時代に、
オート・ヴォルタ第2の都市ボボ=ディウラッソで活躍したバンドの音源です。
CDまたはLP3枚組と写真集という仕様で、この写真集がスゴイ。

ボボ=ディウラッソの中心街にスタジオを構えていたという、
写真家ソリ・サンレによる70年代に撮影した貴重な写真111枚が、
ぎっしりと詰まっているんですが、時代の空気感を封じ込めた濃密さに、
頁をめくるたびにタメ息がもれました。

スタジオで撮られたポートレイトは、一人から二人、そしてグループと数が増えていきます。
続いて、ナイトクラブで踊る人々に、ライヴ演奏中のバンド・メンバーなど、
70年代当時のファッションや流行がヴィヴィッドに伝わってきて、
この時代のアフリカン・ポップスをこよなく愛するファンには、たまりませんね。
ぼくはCDを買ったので、ミニ写真集といった趣でしたけれど、
LPを買った人は大判の写真集で、迫力満点だったんじゃないのかな。

そして、3枚のディスクには、1枚目がヴォルタ・ジャズ、2枚目がダフラ・スタール、
3枚目がレ・アンバタブル・レオパール、エショ・デル・アフリカ、ウェドラオゴ・ユセフ、
イディ・オイドリッサが収録されています。

これまで、この時代のオート・ヴォルタの録音は、サヴァンナフォン、キンドレッド・スピリッツ、
アナログ・アフリカから編集盤が出ていて、ヴォルタ・ジャズやダフラ・スタールの録音も
1・2曲収録されていたものの、わずか数曲ではバンドの個性を捉えることができませんでした。
ヴォルタ・ジャズのシングル盤も2枚持ってはいたけれど、
これだけではよくわからなかったんですよね。
今回ディスク1とディスク2に、両者それぞれの録音がまるまる収録されたことで、
二つのバンドの音楽性がくっきりと見えるようになりました。

ギタリストのイドリッサ・コネがリーダーとなり、64年に結成されたヴォルタ・ジャズは、
セヌフォやマンディンゴなど自分たちの伝統音楽をモダン化するとともに、
ルンバ・コンゴレーズや、パチャンガなどのアフロ・キューバンに強く影響を受けたバンドでした。
63年にフランコ率いるO・K・ジャズが西アフリカをツアーしたのをきっかけに、
イドリッサ・コネがルンバに感化されたと、解説に書かれています。

一方、74年にヴォルタ・ジャズを脱退した歌手のテイジャニ・クリバリは、
自身のバンド、ダフラ・スタールを結成し、ヴォルタ・ジャズ時代のラテン色を取り払い、
同時代のギネアのバンドを彷彿させるマンデ・ポップを聞かせます。
ティジアリ・クリバニがマリ出身だったことに加え、
サリフ・ケイタ在籍時のレイル・バンド、シュペール・ビトン、シュペール・ジャタといった、
マリのトップ・バンドで活躍したマリ人ギタリストのズマナ・ジャラを擁し、
マンデ・サウンドの濃密な味わいを醸し出していますよ。

特に、初期の録音ではバラフォンをフィーチャーし、
ズマナ・ジャラのギターと引けを取らないソロを取っているんですね。
ミュート音でギター・フレーズを模したソロは、なかでも聴きものとなっていて、
ギターがバラフォンのフレーズを模すことはあっても、その逆というのは珍しい気がします。
後年の録音では、バラフォンがなくなり、オルガンに取って代わられますが、
初期の泥臭さのあるパンチの利いたマンデ・ポップは、ギネアのバンドにひけをとりません。

ヴォルタ・ジャズやダフラ・スタールに比べると、ディスク3収録のバンドは聴き劣りするものの、
写真集後半に掲載された、詳細なバイオグラフィと、レコード・ジャケットの写真、
ディスコグラフィは、貴重な資料といえますね。

最後に難をいえば、曲順ですね。
新旧録音をランダムに並べたのは、大減点もの。
特に、デイスク2のダフラ・スタールは、バラフォンをフィーチャーした初期録音と
オルガンをフィーチャーした後期録音とで、かなりサウンドが変化しているので、
それらが入り乱れて出てくる編集が、なんとも聞きづらいものとなっています。
ディスク3でも、2曲しか収録していないエショ・デル・アフリカの曲を、わざわざ離した曲順にして、
その間にもっと後年の音源を置くのも、まったくの意味不明。
大労作なだけに、このアトランダムな曲の並びだけが残念でしたね。

[CD Book] Volta Jazz, Coulibaly Tidiani et L’Authentique Orchestre Dafra Star, Les Imbattables Léopards, Echo Del Africa, Ouedraogo Youssef and Idy Oidrissa
"BOBO YÉYÉ : BELLE ÉPOQUE IN UPPER VOLTA " Numero NUM055

ただいま政治活動中 ユッスー・ンドゥール

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Youssou Ndour & Le Super Etoile  SENEGAAL REKK.jpg


文化観光大臣になったユッスー・ンドゥール。
音楽活動は休止中と思いきや、ひさしぶりに新作を出すというのは、
任期切れをにらんだ地ならしかという、意地悪な感想しか思い浮かばないのは、
われながら冷淡だなあ。まあ、前にもこんな記事を書いたくらいなので、すみません。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2012-01-18

当方、すっかりユッスー熱も冷めてしまい、
フランス・ソニーからリリースされた新作を一応聴きはしましたけれど、
インターナショナル向け、ありがたいメッセージ・ソング含みの、
文化観光大臣というお立場に沿ったアルバムということで、以上、終わり。
「あ~、つまらん。お前の話はつまらん!」(大滝秀治ふうに)などとボヤいていたら、
セネガル国内向けに、別のアルバムを出してたんですか。

それがタイトルもよく似た、5曲24分弱というミニ・アルバム。
そういえば、ちょっと前にも伝統レパートリーのミニ・アルバムを出してましたっけ。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2015-11-22
あちらのミニ・アルバムは、文化観光大臣らしく民族衣装でしたけれど、
今作のジャケットは、音楽活動再開を予感させる出で立ちです。

内容は、キレのあるンバラをやっていて、おお、いいじゃない!
ユッスーのヴォーカルも、良い意味で力の抜けた歌いぶりに、
ケタ違いのダイナミクスが宿っていて、ヴェテランならではとウナらされます。
こういう充実したサウンドで、伸びやかな歌を聞かせてくれるんだから、
やっぱり期待したくなりますよねえ。

なんでインターナショナル向けでは、これがやれないのかなあ。
だいたい、インターナショナルとドメスティックで使い分けるのって、
イマドキ時代錯誤なマーケティングだよねえ。
なんだか、時代をつかまえそこなってるのを見るようで、ツライものがありますね。

Youssou Ndour & Le Super Etoile "SENEGAAL REKK" Prince Arts no number (2016)

80年代ポップ・ライとデザート・ブルース カデール・ジャポネ

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Kader Japonais  HKAYA.jpg


カデール・ジャポネを知ったのは、関口義人さん主宰のイヴェント「音樂夜噺」がきっかけでした。
http://ongakuyobanashi.jp/past_events/044/index.htm
イヴェントの内容は、ハレドの軌跡を追ったものだったんですが、
最後に粕谷祐己先生がかけられた、
ケッタイな芸名のライ歌手がとびっきり良くって、背中ぞくぞくが止まらなかったなあ。
すぐさま、カデール・ジャポネのCDを探し回ったことは、言うまでもありません。

あの時以来、ずいぶんひさしぶりに聴くカデール・ジャポネの新作。
うん、やっぱ、いいなあ、この人。
ハレド直系の歌いっぷりに、ますます磨きがかかりましたねえ。
さらに嬉しいのは、甘口のライ・ラヴにも、ダンス寄りのライアンビーにも頼らない、
80年代末のシェブ・ハレド、シェブ・マミがぶいぶい言わせてた当時のサウンド、
ラシード・ババ=アハメドが作り出したプロダクションを踏襲していることなんですよね。

79年生まれで、ハスニやナスロが好きでライを歌い始めたというジャポネの世代にとって、
このサウンドは「昔のライ」であって、流行のサウンドではないはずなんですけれども。
懐かしいアナログ・シンセの響き、ベンディールなどのパーカッションをふんだんに取り入れ、
トランペットやクラリネットもフィーチャーしたサウンドは、
80年代後半にポップ・ライをLPで初体験したファンにとって、頬が緩むものです。

そして、今作のとびっきりの聴きものが、ラスト・トラックのイムザードとの共演。
イムザードはタマンラセットで活動する、ぼくのごひいきのトゥアレグ人バンド。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2013-08-30
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2014-07-28
この曲のヴィデオもあるんですけれど、
<ライ・ミーツ・デザート・ブルース>のコラボは大成功ですね。
この企画で、まるまる1枚共演作を作ってくれないかなあ。

Kader Japonais "HKAYA" Villa Prod no number (2016)

ロッキン・バラフォン カナゾエ・オルケストラ

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Kanazoé Orkestra  MIRIYA.jpg


フランスではバラフォンがきてるのか?
その名もバラフォニックスという、バラフォンをフィーチャーした
白人のアフロ・ファンク・バンドが登場したと思ったら、
今度はトゥールーズから、バラフォンが主役の
アフリカ/ヨーロッパ混成バンドのデビュー作が届きました。

ブルキナ・ファソ、ボボ=ディウラッソ近郊の村に生まれたバラフォン奏者の
セイドゥー“カナゾエ”ジャバテ率いる、カナゾエ・オルケストラです。
カナゾエの脇を固めるのが、マルチ・インストゥルメンタリストで、
ンゴニ、コラ、フラニの笛、ジェンベを演奏するママドゥ・デンベレと、
歌手のザキー・ジャラで、二人ともバラフォンを演奏し、
カナゾエとバラフォンの二重奏・三重奏を繰り広げています。
カナゾエはジュラ、ザキーはブワと民族は違いますが、3人ともグリオの出身者。
そして、ベース、ドラムス、パーカッション、サックスの4人がフランス白人です。

いやあ、アレンジがカッコえぇ~♪
思えば、80年代末のアフリカン・ポップスにはよくあったよねえ、
こういうキメまくりのリフ・アレンジ。
サリフ・ケイタの『ソロ』や『コヤン』の頃。覚えてます?
なんか、懐かしーなぁ。

エレクトリック・サウンドが主流の時代には、ドラムスとベースのリズム・セクションで、
ロックぽいリフをアレンジに取り入れるのが定石でした。
のちにサウンドがアクースティックに移行すると、ドラムスとベースが後退し、
パーカッションのアンサンブルがリズム・セクションの中心となって、
こういうアレンジは、影を潜めるようになったんでしたっけ。

伝統的なサウンドが前面に出てくると、
ギターやサックスがこういうキメのリフを鳴らすというのは、
なんともわざとらしく、そぐわなくなっちゃいましたもんねえ。
ドラムスとベースによる割り切りのいいビートと違って、
パーカッション・アンサンブルのニュアンス豊かなリズムとキメのリフとは、
相性が良くなかったともいえます。

でも、あらためて、アクースティックなアンサンブルで、
シンプルなベースとドラムスによるリズム・セクションをバックに、
リフやブレイクを要所要所で放つというのは、悪くないですよねえ。
伝統的なメロディの合間に取り入れられるリフが、実に軽快です。

サックスとバラフォンがユニゾンで長いリフを演奏したり、
ドラムスとパーカッションも加わってバンド全員がブレイクをきめたりするほか、
曲中にリズムが何度もチェンジするなど、リズム・アレンジがよく練られています。
80年代マンデ・ポップの再構築といった感がありますね。

シンセサイザーのような鍵盤系楽器は不在なので、80年代末のサウンドとは当然違って、
当時よくあったリフを多用したアレンジとはいえ、古臭さはありません。
特に成功の鍵となっているのは、サックスがジャズぽいフレーズを慎重に避けていることかな。
サックス奏者はジャズ・フィールドの出身と思われ、ちらりとジャズぽいフレーズも吹くんですけど、
アフリカ音楽をよく理解して、ジャズぽくならないように配慮しているようで、喝采もんです。

ごりごりの伝統メロディに、グリオ臭い歌、
そしてコロコロとよく歌うバラフォンのアンサンブル。
こういうサウンドに、ジャズの語法を持ちこんじゃいけませんよね。
ここは、ロッキンなサウンドが一番お似合いで、
だからこそリフやブレイクの多用が痛快な好アルバムです。

Kanazoé Orkestra "MIRIYA" Buda Musique 5722899 (2016)

今年のクリスマスはアイリッシュ ローシーン・エルサフティ&ローナン・ブラウン

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Róisín Elsafty & Ronan Browne  AMHRÁIN NA NOLLAG.jpg


今年はとっておきのクリスマス・アルバムがあるんですよ。
年始めに入手してカンゲキし、クリスマスの季節まで寝かせておいた1枚。
アイルランド音楽ファンなら、もうとっくにご存知かもしれませんね。

アイルランド北西部コネマラの音楽一家に育ち、
母親からシャン・ノースの伝統を受け継いだ女性歌手ローシーン・エルサフティと、
クランのイーリアン・パイプス/フルート/ホイッスル奏者
ローナン・ブラウンによるクリスマス・アルバムです。

ローシーン・エルサフティは、02年の秋、アイルランド語による最高の全国祭典
エラハタス・ナ・ゲールゲで女性歌手部門1位に輝き、
その後も10年と14年のアイリッシュ・ミュージック・アワードの
ベスト・シャン・ノース歌手に選ばれた人。
彼女にとっても、これは最高作の1枚に数えられるんじゃないでしょうか。

ソフトな歌い口でゲール語を響かせるローシーンが、
定番のクリスマス・キャロルや「赤鼻のトナカイ」「ジングル・ベル」を歌えば、
そこにはお母さんの温かさイッパイの、愛情に包まれた夢見心地の世界が広がります。

リヴァーダンスのオリジナル・メンバーであり、
アフロ・ケルト・サウンド・システムのメンバーでもあった
ローナン・ブラウンのサウンド・クリエイティヴィティを発揮したプロダクションが鮮やか。
バックでうっすらと鳴らすキーボード奏者を使い、
少ない音数で効果的なサウンド・エフェクトを施しています。

ゴリゴリのアイリッシュの伝統魂を奥底に抱えつつ、
口当たりの良いアイリッシュの味わいを演出する手腕に、
ローナンのフトコロの深さを感じさせてくれますよ。

アイルランドのおとぎ話の世界へと誘う本作が、今年のクリスマスを祝ってくれます。

Róisín Elsafty & Ronan Browne with Tony Maher "AMHRÁIN NA NOLLAG : FAVOURITE CHRISTMAS SONGS IN IRISH" Cló lar-Chonnacht CICD200 (2015)

アイルランドの妖精が運ぶクリスマス・キャロル カーラ・ディロン

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Cara Dillon  Upon A Winter's Night.jpg


そして今年はもう1枚、嬉しいクリスマス・アルバムがあるんです。
それは、先月届いた北アイルランドの歌姫、カーラ・ディロンの新作。

14歳の時、学校の同級生と一緒に組んだ
4人の少年少女グループ、オイガでデビューしたカーラ。
イングランドのフォーク・ロック・グループ、イクエイジョンを経て、
01年にソロ・デビュー作を出した時は、すでに満を持してといった感がありました。
このデビュー作にノックアウトされて、ぼくは彼女の大ファンになりました。

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Cara Dillon 20040124.jpg


04年にプロモーションで来日した時、ファンのためにささやかなミニ・ライヴが開かれて、
ご本人に会うことができたのも、忘れられない想い出。
小柄で華奢な身体、ちっちゃなお顔に、透き通るような白い肌をしていて、
天使が人の姿を借りたらかくやといった容姿。妖精のような人でしたよ。
一緒に来日したキーボード奏者のサム・レイクマンと、結婚したばかりだったんでしたね。
サムもまた童顔で、絵本から飛び出てきた兄妹のような二人は、ほほえましかったなあ。
これはその時の写真。もう12年も前か。

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Cara Dillon 20040124 @Shibuya Twins Yoshihashi Mini Live.jpg


「カーラ」という英語風に発音された表記に疑問を感じていたので、
その時本人に質問をしてみたら、たしかにアイルランド人の発音では「キャラ」だけれど、
イギリスでは「カーラ」と発音するので、「どっちでもいいのよ」と言う鷹揚なお答え。
ちなみにご主人のサムは、「カーラ」と呼ぶとのことでした。

お人形さんのような顔立ちそのままの歌声は、あの頃からまったく変わっていません。
今年のクリスマスは、夢見心地です。

Cara Dillon "UPON A WINTER’S NIGHT" Charcoal CHARCD008 (2016)
Cara Dillon "CARA DILLON" Rough Trade RTRADECD019 (2001)

ホロン・ミーツ・バングラ・ビート ダウード・ギュロール

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Davut Güloğlu  KATULA KATULA.jpg


エル・スールのサイトの新入荷をチェックしていて、
「初入荷」と書かれたトルコのCDに目が留まりました。
あれ? これ、確か持ってる、と思って棚をごそごそ探したら、あった、あった。

お店の解説文に、「表題曲は黒海のダンス音楽ホロンをバングラに!」とあって、
え、えぇ~、そ、そうだったっけ????
ていうか、ホロンって、去年知ったばっかりだし。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2015-07-27
内容をぜんぜん覚えてなくって、あわてて聴き直しました。

う~ん、なるほど。これ、ホロンだったのかあ。
打ち込みのエレクトロ・ビートと、生々しいバングラ・ビートが絡む合間を、
ケマンチェがけたたましく響くサウンド。
当時は、トルコのハルクにこんなのがあるのかと、驚いたんでした。
なんの情報もなかったので、これがどういう音楽なのか、ぜんぜんわからず、
ケッタイな面白さに、<異形のハルク>ぐらいの感想しか持てずにいたんでしたね。

ホロンの天然テクノぶりを知った今の耳で聴き返すと、
なるほどこれは、<ホロン・ミーツ・バングラ・ビート>と合点がいきます。
ホロンは、極め付けのエミネ・ジョメルトとオルハン・カンブル以来聴いてなかったので、
これを機にと、ダウード・ギュロールの旧作を探してみました。
サンプルをいろいろ聴いてみて面白かったのが、この07年作。

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Davut Güloğlu  KAPAK OLSUN.jpg


こちらも1曲目がバングラ・ビートとのミクスチャーなんですね。
03年作の大ヒットで、この人の看板になったのかな。
打ち込みの単調なハネるビートに、高音がつんざくケマンチェが絡んでくると、
サウンドがすごくナマナマしくなって、肉体感がむき出しになるんですよね。
クラブでプレイしたらハマることうけあいのアゲアゲ感が、たまんねー。

ちょうどジャケットやライナーの写真で、
ダウード自身がボディビルダーばりのムキムキの上半身を、
これでもかとばかりに見せつけていて、
その方面のシュミがない自分には、「キモイ・暑苦しい」という感想しか浮かびませんが、
なるほどこの音楽には、よくお似合いであります。

Davut Güloğlu "KATULA KATULA" Şahin Özer Müzik Yapim no number (2003)
Davut Güloğlu "KAPAK OLSUN" Tokta Müzik no number (2007)

たおやかなタイ歌謡 フォン・タナスントーン

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Fon Tanasoontorn  TUENG WAY LAR BORK RUK.jpg


エル・スールでデッドストックのルークトゥンのCDを眺めていて、
色合いのきれいなジャケットに目が留まりました。
なんか見覚えのある顔だなと思いつつ、誰だか思い出せずに、
お持ち帰りして調べたら、フォン・タナスントーン。

あ、この人、すごい昔によく聴いた人だ!と思い出して、
棚を探したら、ありましたよ、98年のデビュー作。
正確には、再デビュー作か。ポップス歌手としてデビューしたものの目が出ず、
ルークトゥン歌手に転向しての初作品でしたね。

まるでアイドルみたいな顔立ちなのに、
歌声は若さに似合わぬ落ち着きのある声で、しっとりと歌っていて、
まずそのギャップにびっくりさせられたものでした。
口腔内で柔らかにふくらむ歌声の温かさは、
当時のタイの歌手にあまりいないタイプで、すごく新鮮だったんですよねえ。
清楚な歌いぶりに丁寧な節回し、特に歌の上手い人とは思いませんが、
歌謡歌手らしい雰囲気は申し分なく、すっかりファンになっちゃたんだっけ。

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Fon Tanasoontorn  HAK AAI CHOAN POAN.jpg


さらにこのアルバム、プロダクションも絶品だったんです。
ホーン・セクションやストリング・セクションを使った生楽器主体の演奏で、
チープなシンセサイザーがまったく登場しないところは、喝采もの。
スローでは、田園の抒情を伝えるアコーディオンが活躍します。
ソー(胡弓)やラナート(木琴)などの伝統楽器を使った曲もある一方、
ストリングス・セクションが美しく舞い、クンダンやルバーナが響く合間を、
クラリネットが絡むムラユみたいな曲もあって、バラエティに富んでいるんです。
あらためて聴き返しましたけれど、うん、これ、ルークトゥンの名作だなあ。

この一作にホレ込んだくせに、その後のアルバムはぜんぜんフォローしてませんでした。
今回手に入れたデッドストックのCDは07年作で、約10年後のアルバムになるわけですけれど、
たおやかな歌いぶりはまったく変わっていなくて、
再デビューの時点で、すでに個性は完成されていたってことですね。

バック・インレイやライナーに、
お揃いの白ジャケットを着こんだ楽団を伴奏に歌うフォンが写っています。
60年代風のノスタルジックな演出をした写真をあしらっているのが暗示するように、
60年代タイ歌謡の伴奏さながら、ホーン・セクションやストリングス・セクションもたっぷり使い、
伝統楽器を使う曲があるのも、98年の再デビュー作と同じ趣向。
面白かったのが、スティール・ギターを使っていることで、昔流行ったのかな。

実は本作の企画、60年代ルークトゥンを演出したわけではなく、
なんとスナーリー・ラーチャシーマーの曲をカヴァーしたアルバムなんだそうです。
スナーリーのCDは、どれもバックが凡庸と言う印象が強く、昔何枚か聴いたものの、
すべて手放してしまったんですが、こういう伴奏で聴けたら、印象も違ったんだろうな。

ヴェトナムの抒情歌謡とも通じる都会的なセンスのフォンのルークトゥンは、
むしろルーククルンのような味わいがあるように感じます。泥臭さなんて、これぽっちもないもんね。
10年も前のアルバム、ルークトゥン・ファンの方には、何を今頃と笑われそうですが、
聞き逃さずにすんで良かった、と喜んでおります。

Fon Tanasoontorn "TUENG WAY LAR BORK RUK" Sure Audio CD090 (2007)
Fon Tanasoontorn "HAK AAI CHOAN POAN" BKP International BKPCD511 (1998)

マイ・ベスト・アルバム 2016

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Gergos Dalaras & Nikos Platyrachos  TA ASTEGA.jpg
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Lệ Quyên & Thái Thịnh  CÒN TRONG KỶ NIỆM.jpg

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チャラン・ポ・ランタン 女の46分.jpg
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岡本靖幸 「幸福」.jpg

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Tiwa Savage  R.E.D..jpg
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Yola Semedo  FILHO MEU.jpg

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Joana Amendoeira  MUITO DEPOIS.jpg
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Irineu De Almeida E O Oficleide.png

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William Bell.jpg
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Gergos Dalaras & Nikos Platyrachos "TA ASTEGA" Feelgood 52100330009
Lệ Quyên & Thái Thịnh "CÒN TRONG KỶ NIỆM" Viettan Studio no number
チャラン・ポ・ランタン 「女の46分」 エイベックス・トラックス AVCD93323
岡村靖幸 「幸福」 V4 XQME91004
Tiwa Savage "R.E.D." Mavin no number
Yola Semedo "FILHO MEU" Energia Positiva Produções 88875137432
Joana Amendoeira "MUITO DEPOIS” CNM CNM533CD
Everson Moraes, Aquiles Moraes, Leonardo Miranda, Iuri Bittar, Lucas Oliveira, Marcus Thadeu
"IRINEU DE ALMEIDA E O OFICLEIDE - 100 ANOS DEPOIS" Biscoito Fino BF390-2
William Bell "THIS IS WHERE I LIVE" Stax STX38939-02
Bonnie Raitt "DIG IN DEEP" Redwing RWR032

2015年に続き、2年連続の大豊作。

ついにナイジェリアに、新しい波が来ましたよ。
これからはポップの時代と、ティワ嬢とダレイ兄が証明。
そして長く低迷していた南アも、ジャズに突破口があったことが発覚。
イスラエルには目を向けるくせに、なんで南アは無視すんだよ、オイ。
南ア・ジャズ同様、雑誌メディアがまったく伝えないアンゴラの盛り上がりもスゴイ。
エディ・トゥッサを選びたかったけれど、前作の方が良かったので、ヨラ嬢を。

世界には、まだまだ自分の知らないお宝が、とめどもなく眠っていて、
自分の足で探す楽しみは、つきることがありません。

カリンボーで謹賀新年 ピンドゥーカ

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Pinduca  NO EMBALO DO PINDUCA.jpg


あけましておめでとうございます。

年初めはブラジルはアマゾンの音楽、カリンボーの大ヴェテラン、ピンドゥーカの新作で、
元気いっぱいにスタートしたいと思います。
いやあ、かくしゃくとしてますねえ、ピンドゥーカ。
79歳になるのかぁ、見習いたいなあ、このヴァイタリティ。

「カリンボーの王様」と形容されるピンドゥーカ、
王様というより、近所の魚屋のオヤジみたいなキャラですね。
トレードマークのお飾り付き麦わら帽子をかぶって、いい笑顔をしてます。
若い頃は背広にネクタイ姿で、ドサ回りの演歌歌手みたいな雰囲気でしたけれど、
年取ってすっかり福顔となったご尊顔は、まるで布袋様のよう。
おめでたいお正月に、ぴったりであります。

36作目を数えるピンドゥーカの新作は、
ドナ・オネッチ婆ちゃんの新作がリリースされたのと同時期に配信されていたんですが、
なかなかフィジカルで出る様子がなくて、ずっとヤキモキしてました。
暮れになって日本に届いた時は、嬉しかったなあ。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2016-09-23

ホーン・セクションを従え、華やかな女性コーラス3人も加わった伴奏で、
ピンドゥーカお得意のポップなカリンボーをたっぷり楽しませてくれます。
人力ならではの、ツー・ビートが痛快ですねえ。
スカやクンビアに夢中になる若者は大勢いるんだから、
カリンボーに波が来たって良さそうなもんですけど、
クァンティックはカリンボーには興味がないのかな。

今作は、初期の70年代のシリーズ・タイトルの“NO EMBALO DO PINDUCA” を冠しているとおり、
多くの曲が再演で、当時のアレンジを踏襲しているんですね。
ベネズエラのシモン・ジュラスの代表曲“Caballo Viejo” を
“Cavalo Velho” として歌っているので、
意外に思っていたら、これも84年のアルバムでの再演なのだそう。

どんな人も笑顔にして、踊りの渦に巻き込んでしまうダンス・アルバム。
ブラジルの地方音楽の豊かさに、胸熱となりますね。
「辺境グルーヴ」だとぉ? いっぺんシメたろか、コラ。

Pinduca "NO EMBALO DO PINDUCA" Na Music NAFG0112 (2016)

ファドとボサ・ノーヴァ カルミーニョ

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Carminho Canta Tom Jobim.jpg


あぁ、これはいいなあ。
ファド流儀で歌ってみせたボサ・ノーヴァ。

ファドといえば、こぶしをゴリゴリつけ、情念を吐き出すように歌うもの。
押しつけがましさをきらい、シロウトぽくとつとつと歌うボサ・ノーヴァとは対極で、
両者の音楽が持つ美学は、いわば水と油。

ファド歌手がボサ・ノーヴァを歌うなんて無謀な企画は、大失敗に終わるか、
「まあ、せいぜいこんなところだよね」程度で収まるのが関の山と想像しちゃいますよね。
オペラ歌手が民謡に挑戦!みたいな無茶ぶりというか。
ところが、本作はなかなかの仕上がりになっているんですよ。

これを聴いて、すぐ思い出したのが、
アマリア・ロドリゲスの傑作“COM QUE VOZ” で歌われた“Formiga Bossa Nova”。
あれもすごくユニークな仕上がりで、アルバムのフックとなっていましたよね。

これまでカルミーニョの歌唱は、ファドを歌うには深みがなくて、
ぜんぜん物足りないとぼくは思っていたんですけど、
声量や表現力にダイナミクスが不足している彼女の歌いぶりが、
かえってボサ・ノーヴァを歌うという企画に、上手くハマったといえます。

ブラジル語の発音とは違う、巻き舌のポルトガル語発音で、
ファド特有のタメた歌い方をせず、流れるように軽い調子で歌う節回しが、
ファドともボサ・ノーヴァとも違って、心地よく聴くことができます。

考えてみれば、これって、サンバ・カンソーンの歌い回しに近いのかも。
そう気付かされたのが、“A Felicidade” でした。
ちょっとここでは、カルミーニョの歌いぶりに力みがあって、
ほかの曲のような軽味に欠けているんですね。
その歌いぶりは、エリゼッチ・カルドーゾが歌ったオリジナル・ヴァージョンや、
エリゼッチのボサ・ノーヴァ第0号アルバムに似たところがあるように思えます。

ジョビン晩年のバンド、バンダ・ノーヴァが伴奏を付けたジョビン曲集の本作、
初めてカルミーニョをいいと思える作品に出会えました。

Carminho "CARMINHO CANTA TOM JOBIM" Biscoito Fino BF452-2 (2016)

アーリー・エイティーズ ジョイス

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Joyce Anos 80.jpg


ジョイスの“FEMININA” については、前にも書いたことがありましたね。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2010-09-23
その“FEMININA” を含む、ジョイスのもっとも輝いていた80年代前半の諸作が、
去年の暮れにブラジルでボックス化されました。

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Joyce  FEMININA ANOS 80.jpg
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Joyce  AGUA E LUZ ANOS 80.jpg

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Joyce  TARDES CARIOCAS ANOS 80.jpg
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Joyce  SAUDADE DO FUTURO  ANOS 80.jpg


80年の“FEMININA”、81年の“ÁGUA E LUZ”、83年の“TARDES CARIOCAS”、
85年の“SAUDADE DO FUTURO” の4作は、
ジョイスのキャリアで疑いなく最高の時期でした。
前の記事で「“FEMININA” 一枚で十分」とのたまいながら、ソッコーこのボックスを買ったのは、
“ÁGUA E LUZ” と“TARDES CARIOCAS” に喜び勇んだから。
2枚とも、ブラジル初の単独CD化なんですよ~(泣)。

“FEMININA” 続編ともいうべき“ÁGUA E LUZ” は、
日本盤では何度も単独CD化していましたけれど、
ブラジルでは一度もCD化されたことがなかったんですよねえ。意外でしょ。
“FEMININA” との2イン1CDはあったけれど、
ぼくの2イン1ギライは前の記事にも書いたとおりで、
これでようやく落ち着いて聴くことができます。

その後、EMIオデオンとの契約を打ち切り、
自主制作で出したのが、フェミニーナ盤の“TARDES CARIOCAS” でした。
何度かイギリスのファー・アウトがCD化しましたが、オリジナル・ジャケットを改変し、
曲順を変えているうえ、A面1曲目の“Diga Ai Companheiro” をカットするという、
意味不明の編集がフンパンもののCDでした。

メジャー・レーベルを蹴り、自分のやりたい音楽を追及したジョイスの気概がくっきりと示された、
予算の乏しい2色刷りのジャケット・デザインが、今回ようやく再現されました。
“Diga Ai Companheiro” もちゃんと収録されていますよ。
ただ今回はボーナス・トラックという扱いで、本篇の最後の曲順になっているのが不可解。
この曲に、なんか問題があるんですかね(謎)。

自主制作で出した後に、ポインターへ移籍して出した“SAUDADE DO FUTURO” は、
ぼくにとっては不要なCD化。LPはとっくの昔に売却しちゃったもんでね。
あらためて聴き直しましたけれど、ジルソン・ペランゼッタのDX7のサウンドが、
ジョイスのみずみずしさを損なっている印象は、変わりませんでした。

そして大名作の“FEMININA” には、5曲のボーナス・トラックが追加。
ジョイスがゲスト参加して歌ったアントニオ・アドルフォの77年作と78年作のほか、
アルバム収録曲をコーラス・グループのヴィヴァ・ヴォスがカヴァーしたトラックなどで、
悪くはないけれど、まあ蛇足のそしりは免れないでしょう。

というわけで、個人的に“ÁGUA E LUZ” と“TARDES CARIOCAS” CD化バンザイの
ボックスでありました。

Joyce "ANOS 80" Discobertas DBOX59

紆余曲折の再デビュー ヴィ・タオ

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Vi Thảo  TÀU ĐÊM NĂM CŨ.jpg
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Vi Thảo  CHUYẾN TÀU HOÀNG HÔN.jpg


新作と同時に再発売されたんですね。
ヴェトナムの新進女性歌手ヴィ・タオの12年作。

いったん12年にリリースされたものの、楽曲の権利関係がクリアされておらず、
発売中止の憂き目にあい、使用権の手続きに3年かけて、
15年にようやく再リリースとなったようです。
その間に新作を制作して、発売を見合わせていた「ボレロ第1集」の続編の
「ボレロ第2集」と共に、ドーンと勝負に出たといったところでしょうか。

あらためて、ヴィ・タオについて触れておくと、
04年のサオマイ・コンテストで注目されてデビュー作をリリースするも、
その後突如結婚して芸能界から引退してしまった女性歌手。
ところが、12年になって仕切り直しするかのように再デビューして、
2作目にあたるボレロ集を謳った“TÀU ĐÊM NĂM CŨ” を出すも、
さきほどの通り、発売中止になってしまったという、トラブル続きの不運な人。

その12年作をようやく入手したので聴いてみると、
レー・クエンが先鞭をつけた温故知新の戦前ヴェトナム歌謡曲集で、
古いヴェトナム歌謡のロマンティックな佳曲をしっとりと歌っています。
抒情味に深みはないものの、歌い口がスウィートなところは若々しくていいなあ。
ラスト9曲目が、ボーナス・トラック扱いとなっているのは、
今回の再発売ヴァージョンで追加したものなのかもしれませんね。

そして「ボレロ第2集」の副題のついた15年作は、なかなかの野心作。
プロダクションが保守的なロマンティック路線から少々逸脱していて、
冒険的ともいえるアレンジを、あちらこちらに施しています。
たとえば、4曲目や8曲目では派手なロック・ギターのイントロに、
この先どうなるのかと心配になるんですけれど、
歌が始まると、叙情的なメロディにちゃんと着地するというユニークな仕上がり。

6曲目では見事なブルース・ギターがフィーチャーされ、
その達者なフレージングにちょっと驚かされました。
ミュージシャンのクレジットがないんですけど、
これ、ヴェトナム人プレイヤーなんですよね? うまい人がいるなあ。
ほかにも、9曲目でスパニッシュふうのギターがフィーチャーされたりと、
これは大してうまくないんですけど、それが取って付けたように聞こえないのは、
アレンジャーの力量といえますね。

一方で、2曲目のタンコでは、短いながらギター・フィムロンのソロが聞けたり、
5曲目では琴や笛をフィーチャーしているものの、伝統歌謡でも、民歌でもない、
コンテンポラリーな仕上がりにしているところが新味です。
古い作曲家の作品を取り上げたノスタルジックなボレロ集が、ひとつのトレンドとなった今、
コンサバなプロダクションに風穴を開けようとする試み、支持できますね。

Vi Thảo "TÀU ĐÊM NĂM CŨ" Phương Nam Phim no number (2012)
Vi Thảo "CHUYẾN TÀU HOÀNG HÔN" Phương Nam Phim no number (2015)

ヴェトナム伝統歌謡の傑作 ビック・トゥエン

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Bich Tuyền  THƯƠNG VỀ MIỀN ÐẤT LẠNH.jpg


今回ヴェトナムから届いたCDで一番嬉しかったのが、ビック・トゥエンの13年作。
いやあ、ようやく手に入りました。長かったなあ。
どういうわけだか、現地に買付けを何度お願いしても見つからなかったもので、
もう入手できないかと思ってたんですけど、ようやっと、であります。うれしー♡

79年ヴェトナム南部カントー生まれ、ホーチミン育ちの
ビック・トゥエンという女性歌手を知ったのは、世紀をまたいでからでしたね。
デビューまもない02年作の“HOA TÍM LỤC BÌNH” で、初めてその歌声を聴きました。
アメリカ盤だったので、越境歌手とばかり思い込んでいたんですが、
ライセンスでヴェトナム原盤をアメリカでリリースしたものだったんですね。
だいぶあとになって、ヴェトナム現地で活躍する歌手だということを知りました。

越境歌手と疑わなかったのは、伝統歌謡のサウンド・プロダクションが垢抜けていたからで、
ヴェトナム現地のサウンドづくりも、ずいぶん向上したなあと、感心させられたんだっけ。
ニュ・クイン、タム・ドアン、フィ・ニュンなど、当時愛聴していた越境歌手のCDと、
まったく遜色のないプロダクションで、ヴェトナム現地シーンに注目するようになったのは、
思えばビック・トゥエンの本作がきっかけでしたね。

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Bich Tuyền  HOA TÍM LỤC BÌNH.jpg
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Bich Tuyền  CHIỀW CUỐI TUẦN.jpg


十代の頃から民謡歌手としてキャリアを積んできたビック・トゥエンは、
クセのない柔らかな歌声を聞かせ、これといった強い個性は感じさせないものの、
こぶしやヴィブラートを過不足なく使い、確かな歌唱力を披露しています。
07年作の“CHIỀW CUỐI TUẦN” では、さらに繊細な節回しを聞かせるようになり、
歌唱に磨きがかかりました。全編スローのレパートリーで占めたアルバムを、
飽きさせることなく、ラストまでしっかり聞かせる説得力がありますね。

02年作・07年作ともにぼくが手に入れたのはアメリカ盤でしたけれど、
今回ようやく入手した13年作はヴェトナム盤。
ヴェトナムのサイトで全曲聴いていたので、内容の素晴らしさはとっくに承知済。
ビック・トゥエンのさらりと丁寧な歌いぶりを支えるデリケイトなプロダクション、
ヴェトナム伝統歌謡のひとつの理想形がしっかりと出来上がっていて、
安心して、その世界に身をゆだねることができますよ。

一方で、アラビックなメロディを取り入れたアレンジをするなど、
コンテンポラリー・サウンドに新たな試みも加えていて、
歌手・制作スタッフともども、上り調子の絶好調を感じさせます。
マレイシア伝統歌謡最高の女性歌手シティ・ヌールハリザが、
スリア・レコードで次々と快作を連発していた、
ゼロ年代前半のイキオイと共通するものを感じさせますね。

Bich Tuyền "THƯƠNG VỀ MIỀN ÐẤT LẠNH" Saigon Vafaco no number (2013)
Bich Tuyền "HOA TÍM LỤC BÌNH" Thể Giới Nghệ Thuật no number (2002)
Bich Tuyền "CHIỀW CUỐI TUẦN" Vi-Vi Productions no number (2007)
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