黄金時代のソマリ音楽のLPやEPは、いっこうに復刻されず、
CD時代になっても、ソマリ音楽が世界から注目されることはありませんでした。
ソマリ・ポップは、アフリカ音楽ファンにすら、長い間知られぬ存在だったのです。
内戦によってカナダや北欧諸国へ逃れたソマリア人移民社会の間で、
ほそぼそと自主制作CDが制作されていたものの、それを知る人は皆無でした。
そうした知られざるソマリ・ポップを日本で初めて紹介したのが、
手前味噌ながら、6年前の拙著『ポップ・アフリカ700』でしたけれど、
反応を示した人は、残念ながらいませんでしたね。
ゆいいつ、刊行時に作ったサンプラーに、
マハメード・K・クーシンの“Caashaqa Ma Baran” を収録したところ、
ピーター・バラカンさんがとても気に入られ、ほかにも何人かから熱い反響をいただいたので、
音源を聴くチャンスさえあれば、ファンは増えるものと確信はしたんですけれどもね。
その後、ソマリ移民コミュニティではMP3が主流になってしまい、
増補改訂した『ポップ・アフリカ800』でも、ソマリアの項は『700』と同じ6枚を選んでいますが、
いずれのベスト50選にも選んだのが、リアル・ワールドからリリースされたワーベリです。
伝統ソマリ・ポップのカラーミを味わうには、これ以上ないといってもいいほどの名盤で、
ミュージック・マガジン増刊『定盤1000』にも選びました。
本作は、世界に紹介された初のソマリ・ポップでありながら、
めちゃくちゃ不遇な扱いを受けてきたんですよね。
当時日本盤も出なかったし、廃盤になったあと、再発のセレクションからも漏れてしまいました。
だいたいこのCDを名盤として挙げるのなんて、ぼくくらいなもので、
どのガイドブックでも、無視され続けたアルバムなのです。
その理由は、明々白々。
ワーベリの歌手、マリアム・マルサルのソロ作“THE JOURNEY” が、
同じリアル・ワールドから出ていて、そちらが人気盤だったからなんですね。
でも、いかにも欧米人好みのワールド・フュージョンに仕上げたこの作品を、
ソマリ・ポップの代表作にあげるなんて、ジョーダンじゃないぜ、というのが、ぼくの見方。
だいたい、リアル・ワールドって、自社のカタログの価値がわかってませんよね。
ぼくばかりでなく、広く名盤として評価されるフクウェ・ザウォーセの“CHIBITE”、
S・E・ロジーの“DEAD MEN DON'T SMOKE MARIJUANA”、
ファラフィーナの“FASO DENOU” を廃盤のままにしておきながら、
アユブ・オガダの“EN MANA KUOYO” のような、
伝統を大学でお勉強した学生レポートみたいなアルバムをわざわざ再発するなんて、
ピント外れもいいところ。
アフリカ以外をみたって、巨匠ヌスラットのカタログでは、
マイケル・ブルックとの共演盤を再発して、
リアル・ワールド最高作の“SHAHBAAZ” は廃盤。アホちゃうか !?
日頃のリアル・ワールドへのウップンが思わず爆発しちゃいましたが、
話を戻して、マリアム・マルサルの本来の持ち味である、伝統ソマリ音楽を演じたワーベリは、
整ったスタジオでレコーディングされた、カラーミの優良盤でした。
300人を超すソマリア国立歌舞団の元メンバーから選抜されたソマリアを代表するワーベリは、
60年代から活動を始め、数多くの海外公演も経験しています。
おそらくソマリアの伝統楽器カバーンと思われる4コースの弦楽器
(クレジットにはウードと表記)とボンゴがスピード感いっぱいに疾走するソマリ歌謡は、
初めてソマリ・ポップを聴く人を夢中にすることウケアイです。
前回話題にあげた、ライト&サウンドの復刻編集盤に収録されたマグールと
人気を二分した女性歌手、マリアム・マルサルの本領が味わえる名作。
いつか再評価されることを願うばかりです。
Waaberi "NEW DAWN" Real World CDRW66 (1997)