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マヌカン、怒る インナ・モジャ

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Inna Modja.jpg

マリ、バマコ生まれのインナ・モジャは、フランスのファッション界で活躍するマヌカン。
“French Cancan” の世界的ヒットで、顔と名前は知ってましたけど、
その後聞いた10年のデビュー作が、セレブの道楽芸みたいな凡庸ポップスで、幻滅。
マリ人といっても、アフリカン・ポップスとは無縁の人と思っていたら、
3作目の新作のジャケットは、故国マリが舞台となっていて、
タイトルもずばり『モテル・バマコ』ときましたよ。

ショービズ界のセレブの突然の心変わりに、こりゃまた一体どうしたことかと思えば、
内戦状態に陥った故国マリへの、怒りと悲しみに満ちたプロテスト・アルバムとなっていて、
インナは本気モードで、怒ってます。ちょっとびっくりしつつも、
“French Cancan” のケーハクなセレブというイメージが払拭されました。

イスラム過激派によって占領されたトンブクトゥで、
女性たちが迫害されていることに対する、怒りに満ちた“Tombouctou” では、
英語の歌詞とバンバラ語のラップで、屈辱を受ける女性たちに向け、
口を覆うスカーフを取りなさい(黙ってないで発言しなさい)と歌っています。

ただし、本作のベーシックなプロダクションは、あくまでもエレクトロ・ポップです。
リズム処理にアフリカらしいグルーヴ感はないし、
コラもサンプルという作り物感いっぱい仕上がりなので
アフリカはあくまでもサウンド・コラージュという側面は拭えません。

それでも、ウム・サンガレをゲストに迎えてマリで録音した曲では、
ズマナ・テレタのソクやカマレ・ンゴニをフィーチャーしているし、
在フランス・マリ人ラッパーのオクスモ・プッチーノをゲストに迎えた曲は、
ヴェテランのシェイク・ティジャーン・タルがプロデュースしています。
そうそう、コンゴ人ラッパーのバロジもゲストに加わっていますよ。

今回初めて知ったんですけど、インナはフランスに来る前、
レイル・バンドでコーラス・ガールをやっていたんですってね。
鼻持ちならないマヌカンとばかり思っていましたが、
ちゃんと音楽のキャリアもあったとは、失礼いたしました。

個人的に好感を持ったのが、ジャケット内部やCDレーベルのデザインに施された、
バンバラの伝統的な泥染布や、ライナーにあるマリで撮影されたインナーのご両親の写真など。
アフリカン・ポップス・ファンにはおススメしにくいものの、
マリ人女性として黙っちゃられぬと、根性みせた一作、意気に感ずです。

Inna Modja "MOTEL BAMAKO" Warner Music France 0825646051083 (2015)

アヴァン・フュージョン・ギター・トリオ ファビュラス・オーストリアン・トリオ

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Fabulous Austrian Trio.jpg

真冬の定盤、スティーヴ・カーンの“CROSSING” を今年もまた聴き返しているんですが、
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2011-01-21
アイウィットネス時代のスティーヴ・カーンのファンなら、
おぉ、これは……と、頬を緩めることウケアイの快作と出会いました。

ファビュラス・オーストリアン・トリオを名乗る、オーストリアの3人組です。
どういう人たちなのか、ぜんぜん知らないんですが、
ジャズ・コーナーの試聴機で耳にして、ぶっとんじゃいました。

スティーヴ・カーンのギターの最大の特徴は、個性的なヴォイシング。
独創的な和声のセンスを持っている人ですけれど、
このアレックス・マハチェクというギタリストは、
カーンと同じ資質を思わすコード使いを聞かせます。
アヴァンなセンスの楽曲も、スティーヴ・カーンと共通するセンスを感じさせるんですよねえ。
違いはテクニカルなギター・ソロでしょうか。スティーヴ・カーンは早弾きをしませんが、
アレックス・マハチェクは、アラン・ホールズワース風のスピーディーなソロを繰り出します。

ベースのラファエル・ポーシェ、ドラムスのハーバート・ピルカーも相当なテクニシャンで、
トリオとしてのコンビネーションも見事。
惜しむらくは、録音とミックスがこじんまりとしていて、
演奏のダイナミズムを十二分に伝えていないこと。
ライヴはもっとすごいんじゃないかな。ピットインあたりで観てみたいです。

Fabulous Austrian Trio "LIVING THE DREAM" Abstract ABLX051 (2015)

最終作とは言わせない ジョージー・フェイム

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Georgie Fame and The Last Blue Flames  SWAN SONGS.jpg

ジョージー・フェイムといえば、最近アンソロジー・ボックスが出て、気もそぞろになったばかり。
買おーかなー、どーしよかなー、と悩んだんですけど、
こういう悩み方をしてる時って、たぶん買わないんだよな、自分。
本当に欲しけりゃ、四の五の言わず、ソッコー買ってるもんねえ。

というわけで、ボックスよりまず先に買わなきゃだったのが、13年に出ていた新作。
ミュージック・マガジン1月号の輸入盤紹介に載るまで、
出ていたことすら気付いてませんでした(恥)。

前作がベースとドラムスのみをバックに歌った異色作で、
トレードマークのオルガンが聞けなかっただけに、
09年の前々作“TONE-WHEELS ‘A’ TURNIN’” と同じメンツが揃った今作は嬉しい。
“TONE-WHEELS ‘A’ TURNIN’” は、ひさしぶりにジョージー・フェイム熱が復活したアルバムで、
タイミングよく来日してくれたこともあり、09年の年間ベストにも選んだ極上作でしたからねえ。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2009-09-04
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2009-12-31

ブルース、ジャイヴ、カリプソ、スカと多彩な音楽を取り込んだ、フェイム・マジック。
シャレのめしているというか、もう余裕しゃくしゃくのヴェテランの味わい。
それでいて手練れた感はなくて、音楽はみずみずしさイッパイなんだから、嬉しくなってしまう。
ミュージック・マガジンで宮子さんも書いていたように、
「ソングライターとしての成熟」を存分に発揮していますねえ。

枯れないモッズの粋な魅力っていうんでしょうかね。
チャーミングな男の色気を、軽やかにホップするように歌うジョージー。
これが最終作だなんて、言わせませんよ。

Georgie Fame and The Last Blue Flames "SWAN SONGS" Three Line Whip TLW010 (2013)

頑固一徹ジャズ・ロック爺 ブライアン・オーガー

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Brian Auger's  Live In Los Angeles.jpg

じじい、元気だなー。

ジョージー・フェイムつながりってワケじゃないんですけれど、
イギリスのジャズ・ロックの大ヴェテラン、ブライアン・オーガーの新作を聴いてみたら、
これがゴッキゲン! グルーヴィなサウンドに、ノケぞっちゃいました。
おいおい、オーガーって、もう70代半ばだよねえ。どーなってんのよ、このお盛んぶりは。

ジミー・スミスに感化された庶民的なジャズは、
エンタメ精神たっぷりのブライアン・オーガーズ・ミュージックの真骨頂。
十年一日、昔から何一つ変わるところのないオルガン・ジャズなのに、
これほどイキイキと響くのは、オーガーのミュージシャンシップが錆びついてない証拠でしょう。

個人的には、トニー・ウィリアムス・カルテットの一員として来日した、
78年のライヴ・アンダー・ザ・スカイが忘れられない人ですけど、
そんな記憶のある人は、間違いなくぼくと同じ、オヤジ/じじいだろうからなあ。
もっと若い人にとっては、ブライアン・オーガーを知ったのは、
レア・グルーヴ/アシッド・ジャズがきっかけなんでしょうね。

アシッド・ジャズ・ブームは、ブライアン・オーガーにとって再評価につながったわけですけれど、
昔からのファンにとってみれば、アシッド・ジャズじたいが、
オーガーたちがやってた70年代の焼き直しにすぎなかったから、正直シラけてましたよねえ。

そんなアシッド・ジャズ・ブームも、いまや昔話。
ずっと現場第一線でプレイし続けてきたオーガーにすれば、
世間がチヤホヤしようがしまいが、自分の信じる音楽を、実直にやり続けてきただけのことでしょう。
わかりやすくって、誰もが楽しめる音楽の敷居の低さと、
頑固一徹なアティチュードに、ぼくはヴェテランの矜持を見る思いがします。

Brian Auger’s Oblivion Express "LIVE IN LOS ANGELES" Freestyle FSRCD109 (2015)

フランス領ガイアナのクレオール・ポップ ルッシ

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L’Si  RÉALITÉ DE LA VIE.jpg

どっかーーーーん。
ド迫力な黒人女性マスクに、たじたじ。
その昔アフロ・ブラジリアン宗教音楽/サンバ女性歌手アパレシーダのシッド盤LPを
手にした時のことを思い出しました。

Aparecida  Foram 17 Anos.jpgドロドロのマクンバかヴードゥーでも出てきそうな
表紙にビビっていたら、
ヴィデオ・クリップでは、
ニコニコと愛嬌たっぷりに歌っていて、
シロウトに毛が生えた素朴な歌い口は、
なかなか愛らしいところもあります。
ケースを開けてCDを取り出すと、トレイの下には、
にこやかなルッシが写っていて、
おっかない熊みたいなブッちょずら(失礼)の表紙は、
インパクト狙いなんでしょうか。意味不明ですね。

さて、ひと安心して聴いてみれば、シャープな高音を響かせる太鼓のタンブーに、
アコーディオンが絡むビギンふうの1曲目から、いい感じです。
こりゃ、マルチニーク/グアドループ音楽ファンにはたまらんでしょう。
と思いきや、ルッシは、フランス領ガイアナの女性シンガーなんですって。

ビギンふうと思った1曲目は、ライナーには「カセ・コ・コイ・カセ」と書かれてあります。
え? これカセーコなの? スリナムのカセーコと何か関係があるんでしょうか。
もう1曲「カセ・コ・コイ・カセ」とクレジットされた曲がありますけれど、
そちらはクラリネットがフィーチャーされていて、
1曲目同様、ユジェーヌ・モナふうの田舎のビギンに聞こえます。

ほかにマズルカなども歌っていますが、
ズーク・ラヴやコンパ・ラヴのほか、バチャータも1曲歌っていて、
表紙からはとても想像つかない、ポップなアルバムに仕上がっているんでした。
そういえばアパレシーダだって、中身はけっこうポップで、意外に思ったんだっけ。

全曲ルッシことマチュー・テオドール・エルシの作詞作曲となっていますが、
5曲目は、まごうことなきカーペンターズの「トップ・オヴ・ザ・ワールド」。
うわはは、これを自作曲とクレジットしちゃうの、すごいな。

L’Si "RÉALITÉ DE LA VIE" Debs Music no number (2015)
[LP] Aparecida "FORAM 17 ANOS" Cid 8015 (1976)

芸能サンバを支えた街角のショローンたち アラシ・コルテス

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Araci Cordes Funarte.jpg   Araci Cortes   Atração.jpg

書店で見つけた『ショーロはこうして誕生した』という新刊書。
ついに日本でもショーロの本が出るようになったのかと、じ~んとなっちゃいました。
ブラジルで出版された本の日本語訳で、
題名の上に書かれた“O Chôro” の文字にピンときましたよ。

これって、去年ブラジルのアカリ・レコードが復刻した本なんじゃないの?
本をめくり、訳者あとがきをみてみたら、ピンポ~ン♪
原書は、1936年にリオ・デ・ジャネイロで出版された本です。
アカリがCD付で復刊したとはいえ、ポルトガル語じゃ読めないよと
手を伸ばせずにいたので、嬉しさ倍増であります。

リオの下町で演奏していたショローンたちを点描した、
郵便配達夫でショーロ演奏家だったリオのギタリストによる口述本。
ラセルダ、ナザレー、ピシンギーニャといった大物も登場するものの、
有名人も無名の演奏家たちも分け隔てなく語られています。

邦題の「…こうして誕生した」は内容と合っておらず、
原書の副題「昔のショローンたちの思い出」にすべきだったと思いますが、
20世紀初頭のリオ下町の風俗が、いきいきと描き出されています。

聞いたことのない人名や地名が次から次に出てきて、
百年前のリオの風物を想像たくましくしながら、読みふけってしまいました。
こんなにわくわくしながら頁をめくったのは、ひさしぶりのことです。

近年日本のブラジル音楽書で一般的になってしまった、
Rのハ行読みや、di, de の正書法にない「ヂ」使い、’-l’ を「ウ」と書いたりするような
気取ったカナ表記が出てこないところも、好感度大でした。
「ローダ」だけ、なぜか「ホーダ」と書いているのが残念でしたけれども。

ピシンギーニャと交流のあったフルート吹きのカルロス・エスピンドーラに話が及んだところで、
エスピンドーラの娘のアラシ・コルテスについて、こう書かれていました。
「ブラジル全土の劇場を満員にし、その美貌と喉で市民を魅了し、海外でも成功を収めた」。
懐かしくなって、久しぶりにアラシ・コルテスを聴き返してみたら、
これがピタリとツボにはまり、最高のBGMになってくれました。

アラシ・コルテスは、サンバ・カンソーンを初めてレコーディングした女性歌手です。
29年3月に録音されたサンバ・カンソーン第1号曲「美しい花」“IAIÁ (Ai ioiô)” ほか、
その前年28年11月に録音されたサンバ王シニョーの名曲“Jura” や、
30年録音のアリ・バローゾ作曲のエキゾティックなバトゥーキ“No Morro ” を
フナルチ盤(CDはアトラソーン)で聴くことができます。

17歳で家を出てサーカスで歌い踊り、やがて劇場に進出して名声を得たアラシ・コルテスは、
劇場がメディアだった最後の時代の歌手ともいえ、
芝居っけたっぷりのチャーミングな歌いぶりに、
舞台女優/ミュージカル歌手らしい魅力が溢れています。

劇場からラジオへとメディアが移り変わり、サンバが爆発する30年代に入ると、
コケットリーなカルメン・ミランダが大活躍するのも、
アラシ・コルテスという下地があったからこそという気がしますね。

そんな華やかな芸能を支えたのは、街角に大勢のショローンたちがいたからこそ。
サンバの伴奏を支えていたアマチュアの彼らが、
街角でどんな生活を送っていたのかを、この本は教えてくれます。

[LP] Araci Cortes "ARACI CORTES" Funarte 358.404.004
Araci Cortes "ARACI CORTES" Atração ATR32051

古典サンバ最高の男性歌手 マリオ・レイス

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Francisco Alves e Mario Reis.jpg   Mario Reis  UM CANTOR MODERNO.jpg

アラシ・コルテスをひさしぶりに聴き返したら、
古典サンバをもっと聴きたくなっちゃいました。
戦前のサンバ黄金時代の男性歌手で、ぼくが一番好きなのはマリオ・レイス。
当時の大スターのフランシスコ・アルヴィスとともに、人気を二分した歌手です。

フランシスコ・アルヴィスが声を張って歌う、
どちらかといえば劇場向きの古いタイプの歌手だったのに対し、
マリオ・レイスはマイクロフォンに適したしゃべるような歌い方をするタイプで、
蓄音機とレコードの普及によってポピュラー音楽が大きく発展する新しい時代に、
うってつけの歌手でした。
ライヴァルの二人は一緒にもよく歌い、戦後のLP時代になってから、
二人のデュエット集が10インチ盤にまとめられたこともあります。

マリオ・レイスの歌唱法は、劇場でサンバを聴く時代から、
ラジオでサンバを聴く時代へ移り行くのにマッチしただけでなく、
サンバのシンコペーションを表現するのにも、より適していたといえます。
サンバのシンコペーションを全身で表現した不世出の歌手、
カルメン・ミランダとデュエットした“Alô Alô” は、サンバの歴史的な名唱のひとつですね。

マリオは十代の頃、サンバの大作曲家シニョーの家へギターを習いにいっていた生徒で、
マリオがあまりサンバを上手く歌うので、シニョーにすすめられて歌手となったといいます。
スター歌手となってからは、マンゲイラの丘をのぼってカルトーラに会いに行き、
カルトーラの曲“Que Infeliz Sorte” を買った逸話が有名ですね。
この曲は録音のチャンスに恵まれませんでしたが、
当時の大スターがカルトーラの曲を買ったことで、
カルトーラの名前が知れ渡るようになり、
のちにフランスシコ・アルヴィスやカルメン・ミランダも
カルトーラの曲を買って歌ったのでした。

サンバが黄金時代を迎えたブラジルの20年代は、スター歌手が続々と生まれ、
歌手たちはヒット曲を出すため、常に新しい曲を探していました。
時には、スター歌手本人がゲットーに出向き、
作曲家に曲をきかせてもらい、曲を買い取っていたんですね。
こんなことは、黒人差別の激しかったアメリカだったら、とても考えられなかったことです。
ちょっと時代が違う例え(20年代のアメリカでは例えようもありません)でいうなら、
ビング・クロスビーがミシシッピーへ出かけていって、
マディ・ウォーターズからブルースを買うっていう話です。
ありえませんよねぇ。

そんな歌手と作曲家とレコード会社が理想的な関係にあったブラジルで、
大衆音楽サンバが育まれたんですね。そんなシーンのど真ん中で活躍した、
マリオ・レイスを楽しむのにうってつけなのが、この3枚組ボックスです。
マリオの全盛期に焦点を当てたこの3枚のディスクには、
オデオンからヴィクターに移籍した32年から、
29歳で引退する35年までの47曲が収録されています。
先にあげたカルメン・ミランダとの“Alô Alô” ほか、
ラマルチーニ・バボとのデュオも入っています。

ピシンギーニャ、ルイス・アメリカーノ、ドンガなどの
名手たちによるグァルダ・ヴェーリャのオーケストラ・サウンドや、
カニョートのコンジュントの軽快なショーロ伴奏が聞ける、
古典サンバの味わいが凝縮された、ぼくの最愛のボックスです。

[10インチ] Francisco Alves e Mario Reis "OS DUETOS DE FRANCISCO ALVES E MARIO REIS" Odeon MODB3075
Mario Reis "UM CANTOR MODERNO" RCA/BMG 74321931792

奨学金もらってインドでレコ掘り

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Indian Talking Machine.jpg土埃にまみれ、山積みにされたSP。
鼠など小動物の糞尿の匂いが
漂ってきそうな写真の数々に、
吐き気を催すか、
うわぁ~と目が釘づけになるかが、
フツーの音楽ファンと、
レコード・マニアの分かれ目でしょうか。

ずしりと重い244ページの写真集に、
CD2枚が付いたCDブック。
インドの骨董屋や倉庫に積み上げられた大量のSPの写真は、
ページをめくるたび、眩暈をおぼえそうな光景の連続で、
レコード・マニアなら口あんぐり、
ヨダレたれっぱなしになることウケアイです。

エクスペリメンタル・サウンド・ユニットのクライマックス・ゴールデン・ツインズのメンバーで、
SPコレクターとして知られるロバート・ミリスが、フルブライトの研究員として、
12~13年にインドへ現地調査・収集を行った成果物であります。

レコード・コレクターの目を通じ、78回転盤時代のインド・レコード産業を研究するというテーマで、
奨学金がもらえるだなんて、そんなおいしい話が世の中にはあるんですねえ。
世界中のレコード・コレクターの羨望と嫉妬の眼差しを集めそうな、
「奨学金もらってレコ掘り・イン・インド」であります。

CDには、この研究調査で集めた1903年から49年までの録音46曲が収められていて、
SPからのトランスファーは、
“OPIKA PENDE : AFRICA AT 78 RPM” のジョナサン・ウォードが担当。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2011-12-15
音質は上々で、古典音楽から大道芸まで雑多に詰め込まれています。
個々のトラックに聴きものは多いんですが、選曲に特段の意図は感じられません。

本の方も、各曲簡単な解説はあるものの、インド・レコード産業黎明期時代の解説がなく、
やはりこれは研究書ではなく、SPコレクターのレコ掘り自慢がメインの写真集でしょう。
わずか2年の収集調査とはいえ、4万5千枚を超すチェンナイのコレクターのSPコレクションや、
ムンバイ郊外に1万枚のSPを保管しているコレクターといった大物にぶち当たっているので、
かなり効率的に集めることができたようです。
インドには金持ちの知識層に古典音楽マニアが多いから、
ケタ違いのコレクターがいても、さほど不思議はありません。

写真集の解説には、苦労話がちっとも出てこないので、楽勝なレコ掘りだったんじゃないのかな。
それゆえなのか、同じ雑多な編集内容でも、
いにしえの東南亜細亜音楽を編集した4CDボックス
“LONGING FOR THE PAST : THE 78 RPM ERA IN SOUTHEAST ASIA”
のような深みが感じられません。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2013-10-15
SPコレクターが長年コツコツと集め吟味してきたような「鍛え抜いた感」が、
このコレクションにはないからでしょう。
そんな感想も、やっかみが半分以上なのではありますが。

ま、いずれにせよ、良い子の音楽ファンには無用な、
SPを偏愛するレコード・マニア向けのCD写真集。
1000部限定というけど、そんなに需要があるのかなあ。その半分で十分なのでは。

[CD Book] Robert Millis "INDIAN TALKING MACHINE: 78 RPM RECORD AND GRAMOPHONE COLLECTING ON THE SUB-CONTINENT" Sublime Frequencies SF099 (2015)

エチオピアン・ビューティー ハリマ・アブドゥラマン

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Halima Abdurahman  SEMAY  ARDI Entertainment.jpg   Halima Abdurahiman  SEMAY  Nahom.jpg

う~ん、典型的なアムハラ美人ですね。
ハリマ・アブドゥラマン、エチオピアの若手女性歌手です。
主役の名前とアルバム・タイトル、曲目だけはアルファベト表記があるものの、
それ以外はびっしりアムハラ文字で埋め尽くされていて、クレジットが読みとれましぇ~ん。
聴いてみれば、アバガス・キブレワーク・シオタのプロダクションとイッパツでわかる、
打ち込みベースのエチオピアン・コンテンポラリー・サウンド。

スタジオの調整卓の前に立つ3人の男性の写真がジャケットに小さく載っていて、
左に立っているのがアバガス・キブレワーク・シオタだとわかります。
髪と髭に白いものが混じっていて、シオタも年を取りましたねえ。

90年代にゼロ年代と、エチオピアン・ポップス一時代のサウンドを築いたシオタのサウンドは、
ホーン・セクションを使えない低予算のハンデの中から生み出されたもの。
打ち込み中心とはいえ、カラフルなアレンジで、数多くの名作を作り出してきました。
今作でも、レトロな感触のあるオルガンの響きを取り入れるなど、
曲ごとに鍵盤の音色を巧みに使い分けた、丁寧なサウンド作りが楽しめます。

主役のハリマはのびのびと若々しい歌声を響かせ、
アムハラ独特のメロディを、巧みなこぶし使いで歌っています。
アディス・アベバ出身だそうで、デビュー作“KALEHBET” を12年にリリース、
本作が2作目なのかもしれません。

伝統色はあまりないんですけれども、クラールをカクシ味に使った“Tizita” では、
曲名のとおりアムハラ叙情に溢れた情歌を聞かせてくれます。、
シオタ・マジックともいえる引き出しの多いプロダクションにのせて、
全15曲計78分マイナス1秒という長さも、飽きずに楽しませてくれますよ。

Halima Abdurahman "SEMAY" ARDI Entertainment no number (2015) [Ethiopia]
Halima Abdurahiman "SEMAY" Nahom no number (2015) [US]

レンベーティカ・ミーツ・ラグタイム ヨルゴス・ダラーラス

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Gergos Dalaras & Nikos Platyrachos  TA ASTEGA.jpg

2016年のベスト・アルバム、一番のり~♪
昨年末にギリシャでリリースされた、ヨルゴス・ダラーラスの新作でっす。

老いを隠せないハリス・アレクシウの歌いぶりにショックを受けたせいか、
ギリシャ歌謡からすっかり遠のいた、今日この頃なんでありますが、
やっぱヨルゴス・ダラーラスは、帝王だわ。さすがです。
歌いぶりこそ、ヴェテランの安定感にウナらされますけれど、
さまざまな音楽家とコラボしながら、野心的なアルバムを作り続ける
チャレンジングな姿勢がすごい。攻めてますよねえ。

新作は、映画音楽作曲家のニコス・プラティラコスとの共同制作で、
いつものミノスからではなく、ニコス・プラティラコスが関係する映画配給会社のレコード部門、
フィールグッド・レコーズからのリリースとなっています。

ニコス・プラティラコスは、アテネのミュージック・コンセルヴァトリーでピアノと作曲を学んだ後、
ハノーヴァーとケルンの大学で演劇と舞踏を学んで、ドイツの映画音楽界で成功した人とのこと。
現在もドイツとギリシャを行き来しながら活躍をしているそうですが、
ダラーラスとタッグを組んだ今作は、映画『スティング』を思わすムードの、
安酒場のアップライト・ピアノで弾かれるラグタイムに始まります。

このオープニングのインスト・ナンバーから、いつものダラーラスと違う予感を漂わせますが、
なんと今回の新作、レンベーティカとラグタイムをミックスするというアイディアを実現したもの。
これがなんとも絶妙な組み合わせというか、
こういう音楽が昔から存在したんじゃないのかと思わせるほどの相性の良さをみせます。

鄙びたジューク・ジョイントの雰囲気を横溢するラグタイム・ピアノの響きに、
レンベーティカらしいブズーキやバグラマーの弦の響きが混ぜ合わさり、
そこにディキシーランド・ジャズふうの金管・木管の管楽器が華を添えていくサウンド。
レンベーティカとラグタイムのどちらも、裏町の影をひきずっていて、
この二つの音楽が抱える闇が、妖しく共鳴するのを感じます。

レンベーティカがハッシシを吸わせるアテネの外港ピレウスのテケー(バー)から生まれたように、
ラグタイムが1880年代のセント・ルイスのサロンや売春宿から生まれたのは、
世界の大衆音楽史からみれば、偶然なんかじゃありませんよね。

ダラーラスも、いつもよりざらりとした舌触りを残す苦味の強い歌い口を聞かせていて、
枯れた味わいのなかに、ブルージーなやるせなさを溢れさせています。
裏街道を行く哀愁を濃厚に表わしつつ、
意外にもノスタルジックなムードをまとっていないのは、この音楽が仮想のものだからでしょうか。
ランディー・ニューマンのアイロニーに通じる現代性を感じさせます。

Gergos Dalaras & Nikos Platyrachos "TA ASTEGA" Feelgood 521003300094 (2015)

ライカのアマチュアリズム マノリス・リダキス

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Manolis Lidakis  AFTOS POU ANIGI TO HORO.jpg   Manolis Lidakis  KARAVI APOPSE TO FILI.jpg

ヨルゴス・ダラーラスの新作同様、去年の暮れに出たマノリス・リダキスの新作も大当たり。
う~ん、ひさしぶりにギリシャ歌謡の波が、来てるかも。
ダラーラスに次いでぼくの好きな男性歌手が、マノリス・リダキスなのです。

マノリスもレンベーティカのルーツを受け継いだライカを歌う人で、
ぼくが最初にこの人にホレ込んだのは、92年作の“KARAVI APOPSE TO FILI”。
「無頼」や「闇」といった部分ばかりでないレンベーティカの甘美な側面を、
ノスタルジックな響きの中に表わした大傑作でした。

男っぽいダラーラスとは違い、草食系優男ふうのマノリスは、
クレタ島出身で、82年にアルバム・デビュー。
ぼくが初めて聴いた92年作当時、すでに中堅どころとなっていて、
色男ふうのモテそうなルックスをしてたんですけれど、
最近の写真を見ると、すっかり中年太りのオヤジ面になってしまいました。
メロウな哀愁味を持ち味としていて、歌唱力より味で聞かせる、
カエターノ・ヴェローゾに似たタイプの歌手といえます。

新作は、ライカの名作曲家フリストス・ニコロポウロスの作品を歌ったアルバム。
ブズーキ、バグラマー、ピアノ、アコーディオンという完全アクースティックの編成で、
余計な装飾など何一つない、生粋のギリシャ歌謡たるライカを聞かせてくれます。
時代の流行に左右されず、ポップスにも色目を使わない、
頑固一徹なまでに真正ライカを貫くマノリスらしく、
今作も朴訥とした変わらない歌い口で、嬉しくなります。

ヴェテランになっても、歌がうまくならないのが、この人のいいところ。
良い意味でアマチュアぽさを残しているところに、
みずみずしさを失わない秘訣があるんじゃないかな。
そんなところも、いつまでたっても歌がへたっぴーなカエターノとそっくりですよね。

Manolis Lidakis "AFTOS POU ANIGI TO HORO" To Rima A003 (2015)
Manolis Lidakis "KARAVI APOPSE TO FILI" Portrait 471638-2 (1992)

バルカンからアナトリアへ ソフィア・パパゾグルー

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Sofia Papazoglou  O HTYPOS TIS KARDIAS MOU.jpg

ギリシャ歌謡三連チャンの最後は、華ある女性シンガーのアルバム。
ヨルゴス・ダラーラスやグリケリアなどトップ・シンガーたちの眼鏡にかない、
コンサートのコーラス・シンガーとして起用されてきた、ソフィア・パパゾグルー嬢です。

ベルギー、ブリュッセルに生まれ、家族とともにギリシャ、テサロニキへ移住し、
その後6歳の時から歌いはじめたというソフィアは、96年にCDデビューし、
玄人好みのシブい作品を作ってきた人とのこと。
ソロ・アルバムを聴くのは本作が初めてなんですけれど、ライカ新世代というか、
エレフセリア・アルヴァニターキ以降のシンガーという印象を受けました。

ひとことでいえば、かつてのギリシャ歌謡が持っていた飾り気のない無骨さがなくなり、
愛想がよくなったということでしょうか、
歌い口はソフトになり、世界共通言語のポップスが下地になっているのを感じます。
といっても、あくまでもモダン・ライカ路線を貫いているので、
いわゆるグリーク・ポップとは一線を画す、
トラッドなギリシャ歌謡の味わいをちゃんと残しているんですけれどもね。

本作は正調ライカの合間に差し挟まれる、
ラテン調、マヌーシュ・スウィング調、トルコ古典風の曲が聴きものとなっています。
特に、トルコの軽古典~シャルクを思わせる曲にしのばされている、
アラブの香りやバルカンの響きには、ゾクゾクしてしまいますね。

ロック寄りになったり、汎地中海音楽の様相をみせたりと、
練り合わせる要素によって、さまざまな表情をみせるモダン・ライカですけれども、
バルカンからアナトリアに連なるギリシャとトルコの古層に触れたサウンドは、
たまらなく魅惑的です。

Sofia Papazoglou "O HTYPOS TIS KARDIAS MOU" Music Links Knowledge MLK3221 (2015)

タトラ山地の親子トリオ カペラ・マリショフ

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Kapela Maliszów  MAZURKI NIEPOJĘTE.jpg

ポーランドの伝統音楽って、あんまりよく知らないんですけれど、
昔聴いた、ポーランド南部タトラ山地に暮らすグラル人の伝統音楽が強烈で、
こりゃ、すごいやとノケぞった記憶が、かろうじてあるくらい。
その頃に買ったCDがわずか3枚あるだけで、中欧の音楽はまったく暗いかぎり。
というわけで、「ミュージック・マガジン」の今月号で松山晋也さんが紹介されていた、
「驚くべき逸材」というポーランドの家族バンドに、がぜんソソられたのでした。

カペラ・マリショフというそのグループ、お父さんと16歳の息子に12歳の娘による3人で、
南部の町メンチナ・マワの出身とのこと。
調べてみたら、なんと、まさしくタトラ山地じゃないですか。

外界との接触の少なかったこの地方には、ポーランド平地部とは異質の音楽が育まれ、
厳しい自然環境に鍛えられた強靭な響きが特徴になっています。
スロヴァキアからルーマニアに連なる、カルパティア山脈一帯の伝統音楽と同系統のもので、
硬く太い音質を好み、鉈を振り下ろすようなビートの激しさと、不均等なリズムは、
ロマ音楽との親和性を強く感じさせますね。

親子3人は、ヴァイオリン、ギター、コントラバス、アコーディオン、ハーディガーディ、
バラバン、フレーム・ドラム、バラバン・ドラムをさまざまに演奏するんですが、
16歳の息子のヴァイオリンがスゴいんです。最初お父さんが弾いてるのかなと思ったんですが、
YouTubeで見て、ノケぞりました。艶やかな音色を聞かせる熟達プレイは、名人級ですよ。
そして、12歳の娘の素朴そのもののブッキラボーな歌が、またいいんです。
タトラ山地の伝統音楽らしい野性味が、たっぷりと表現されています。

タイトルに“mazurek” が付く曲が目につきますが、マズレックとはポーランド語のマズルカのこと。
ご存じのとおり、マズルカはポーランドが生んだダンス・ミュージックなわけですけれど、
この地方流のマズルカは、一般に思い浮かべる優雅なマズルカとは、
まるっきり別物のビートを繰り出します。

この土地に伝わってきた伝統音楽の資質をしっかりと受け継ぎながら、
民俗音楽的な野趣とは一線を画す、現代ならではの洗練を演奏に示すところに、
このグループのインターナショナルな活躍を期待せずにはおれませんね。

Kapela Maliszów "MAZURKI NIEPOJĘTE" Karrot Kommando KK79 (2015)

生演奏のフューチャー・ジャズ クリスチャン・スコット

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Christian Scott  STRETCH MUSIC.jpg

真っ赤なバックに、ユニークな形をしたトラッペットを構えるクリスチャン・スコット。
時代の先端を切り拓く気概が表わされているようなデザインがカッコいい。

ここ二十年くらいのジャズの沈滞は、ジャケットに露骨に表われていて、
えらくコンサバになるか、ECMみたいなファイン・アート偏重になるかの両極端が、
時代とシンクロできていない証拠でもありましたよねえ。
どんなジャンルの音楽でも、イキオイがあってシーンが活性化している時って、
名作ジャケットが次から次とたくさん出るもの。
そんなわけで、これは新しいジャズが聞けるのではという予感のジャケ買いであります。

1曲目から、えらくカッコいい音が飛び出してきましたよ。
ドラムンベース調のツイン・ドラムスにのる、クールなメロディ。
ドラムスの音色が面白くって、クレジットをみたら、
一人のドラマーには「パン・アフリカン・ドラムス」と書かれています。
どんなドラムスなんですかね、コレ。見てみたい。

全編通して感心させられたのが、サウンド・テクスチャの良さ。
そして、クリスチャン・スコットの作曲能力ですね。
ポスト・ロックやクラブ・ジャズを通過した世代が、
自分の吸収した音楽を無理なくジャズへフィードバックした感のある、
オルタナ・ジャズ的な音響がすごくいいじゃないですか。

ただ、音楽そのものは、ちっとも新しくはないんですね。
身もふたもなく言うと、クラブ・ジャズ界隈で一時期評判になった、
フューチャー・ジャズを生演奏しただけだもんなあ。
「うわー、こんなジャズ聴いたことない」みたいなオドロキを予感していたので、
その点はやや期待はずれではありました。

とはいえ、しっかりと時代とシンクロした新鮮なサウンドを響かせるジャズであることに、
異論はありません。スケール感もあるしね。
いわば、ヒップホップのマシン・ビートを人力演奏する、
新傾向ジャズと同系統の音楽といえるんでしょうね。

実は、ドラマーがブッチャー・ブラウンのメンバーだというので、ちょっと警戒してたんですよね。
でも、ブッチャー・ブラウンみたいな70年代クロスオーヴァーの焼き直しじゃなくて、ホッとしました。
余計な話ですけど、ブッチャー・ブラウンみたいなバンドをもてはやすのって、
あのくだらないアシッド・ジャズ・ブームを再来させるかのようで、ウンザリします。

あえて注文をつけるなら、もうちょっとソロをなんとかしてくんないかなあ。
トランペットの音色はいいのに、ソロがぜんぜんつまんない。
バリバリでもクールでもどちらでもいいので、
もう少し印象に残る、マシなソロ・ワークをお願いします。

Christian Scott "STRETCH MUSIC" Stretch Music/Ropeadope no number (2015)

渡辺香津美の80年代最高傑作

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Kazumi Band GANESIA.png   渡辺香津美 MOBO SPECIAL   UCCJ4116.jpg

渡辺香津美がジャズ/フュージョン・ギタリストという枠を超え、
野心溢れる音楽家として才能を溢れさせていた80年代の最高傑作が、
『ガネシア』(82)と『MOBO SPLASH』(85)の2作でした。
当時はLPで聴いていたんですけれど、
85年にCDリリースされた時の音質があまりにショボくて、残念でなりませんでした。

今回、渡辺香津美のデビュー45周年を記念して、ユニバーサルミュージックから
ポリドールdomo時代(1982年~2001年)の19作品がSHM-CD仕様で出るというので、
喜び勇んでこの2作品を買い直しましたよ。
85年に出たCDを今見直したら、なんと3300円もしてたんですねえ。
初期のCDがいかに高かったかがわかろうというものですけれど、
今回は1728円とお値打ち価格でございます。

あらためて今聴き直しても、この当時の香津美は、本当にスゴかった、うん。
1作ごとにどんどんサウンドを進化させていってたもんなあ。
TVCFに起用されて大ヒットとなった『トチカ』(80)は商業的成功を呼びましたけれど、
大きな音楽的な成果を上げたのは、カズミ・バンドの2作目『ガネシア』のほう。

当時もっともプログレッシヴなジャズ・ロックを展開していたプロジェクトのマライアから、
清水靖晃(ts, bcl)、笹路正徳(Key)、山木秀夫(ds)の3人を起用し、
セッション・ベーシストの高水健司を加えたカズミ・バンドは、
軟弱化していくフュージョンに背を向けた、アンチテーゼともいえました。

張りつめた緊迫感あふれる演奏でスタートする「リボージ」から、
極端にハイ・ピッチなチューニングをした山木秀夫のスネア・ドラムが甲高い打音を炸裂させ、
香津美のベスト・パフォーマンスといえる圧倒的なギター・ソロを展開する「ガネシア」、
チンドンをジャズ化したオリエンタル趣味の「カゴのニュアンス」まで、
溢れ出るハイ・テンションなエネルギーは、ただごとじゃありませんね。
これを聴いて、キング・クリムゾンやビル・ブラッフォードを想起する人がいるのも、
むべなるかなです。

カズミ・バンド解消後、香津美はMOBOプロジェクトを始動させますが、
ぼくが評価したいのは、スライ&ロビーを起用して話題をさらった第1弾の『MOBO』(83)ではなく、
MOBOプロジェクトの最終作となった第3弾の『MOBO SPLASH』のほう。
グレッグ・リーのベース(1曲のみ井野信義)に村上ポンタのドラムスのトリオ編成を核に、
鍵盤担当を置かず、香津美がギター・シンセサイザーやサンプラーを駆使して、
先進的なサウンドを作り出しています。実験的ともいえる音づくりをしつつも、
ポップにまとめあげるところは、YMOとの活動を通じて学び取ったセンスなんじゃないのかな。

ゲストにマイケル・ブレッカー、デビッド・サンボーン、梅津和時の3人のサックス奏者を起用し、
それぞれの持ち味にあった曲で、3人の水を得た魚のようなプレイを楽しめるのも、
本作の聴きどころ。「時には文句も」での梅津さんのフリーキーなアルト・ソロも痛快なんですが、
びっくりしたのは「師走はさすがに忙しい」のサンボーンのトリッキーなソロです。
最初は梅津和時がソロを取ってるのとばかり思ってたんだけど、
こんなブチ切れたサンボーンのソロ、ほかじゃ絶対聞けませんよ。

これほどの傑作2枚なんですが、当時も今も、
この2作を香津美の最高傑作と評した記事に、お目にかかったことがありません。
だから、わざわざここで書いているってこともあるんですけれど、
記録的な大ヒットを読んだ『トチカ』(80)や新プロジェクトで話題をさらった『MOBO』(83)ばかりが、
常に香津美の代表作として取り上げられ、名盤ガイドに載ることもなかったのは遺憾千万です。

フュージョンが軽んじられたのも、
セールスや話題を呼んだかどうかという、業界事情に左右されすぎていて、
音楽的な中身できちんと評価する姿勢に欠けていたからなんじゃないですかね。
フュージョンの名盤ガイドを見るたび、毎度違和感を感じるのは、
ライターの確かな耳で選んでおらず、
定評を優先しすぎる編集サイドの問題のように思えてなりません。

渡辺香津美 MOBO SPECIAL H33P20050.jpg最後に蛇足ながら、
今回のSHM-CDリイシュー、
音質もグンとアップしてとても嬉しいんですが、
『MOBO SPLASH』がオリジナル・ジャケット(写真右)でなく、
再発時のジャケットに変更されたのが残念でした。
ホログラム・ペーパーの色合いがキレイで
気に入ってたんですけどねえ。

MOBOの一連の作品は、
アメリカのグラマヴィジョンからもリリースされて、
その際にこの赤いジャケットに変わったんじゃなかったっけ。
デスマスクみたいと敬遠されたのかなあ。

Kazumi Band 「GANESIA」 ユニバーサルミュージック UCCJ4111 (1982)
渡辺香津美 「MOBO SPLASH」 ユニバーサルミュージック UCCJ4116 (1985)
渡辺香津美 「MOBO SPLASH」 ドーモ H33P20050 (1985)

円熟したアンニュイ・ヴォーカル ガブリエラ・アンダース

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GabrielaAnders COOL AGAIN.jpg

ガブリエラ・アンダースの新作 !?
うわぁ、すんごい、ひさしぶり~。今も歌っていたんだぁ、嬉しいな。

アメリカのボサ・ノーヴァ・ユニット、ベレーザのヴォーカルとして名をあげた彼女ですけど、
ぼくがトリコになったのは、98年のソロ・デビュー作の方。
ボサ・ノーヴァをベースに、ジャズ、ソウル、サルサ、レゲエ、ダブなど、
多様な音楽をブレンドしたサウンドにのせて歌うウィスパリング・ヴォイスに、トキめいたのでした♡

サウンドもとびっきり洗練されていて、スタイリッシュなAORといった趣は、
アメリカより日本で受けるタイプのシンガーのように思えましたね。
あとになって知ったことですけれど、彼女はベレーザ以前に、
セルヒオ・ジョージのプロデュースによる日本向け企画で、
ジリアンとのコンビによるザ・ピーナッツのサルサ・カヴァー集も出していたんですね。
う~ん、日本のプロデューサーもめざといなあ。

Gabriela Anders  WANTING.jpg   Gabriela Anders  LAST TANGO IN RIO.jpg

そして、デビュー作の“WANTING” の次に愛聴したのが、4作目の“LAST TANGO IN RIO”。
こちらは、ヒネリの利いたタイトルどおり、バンドネオンをフィーチャーしたのがミソ。
アルゼンチン生まれのガブリエラらしい、ボサ風味のポップスに仕上げていて、
これもいいアルバムだったなあ。
アクースティックなサウンドのテクスチャが、
けだるくアンニュイなガブリエラのヴォーカルとマッチして、爽やかな小粋さを演出していましたね。

あれから十年以上が経ったんですよねえ。
その間には、ガブリエラ・アンダースのそっくりさんがブラジルから登場して、
即ファンになったりもしたんでした。誰のことか、おわかりですか? タミーですよ。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2011-04-11
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2013-10-29

昨年出た新作、一目みて、おおっと思ったのは、ジャケットに彼女の写真を使わなかったところ。
メジャー・レーベル時代の、モデルばりの美人を押し出した売れ線ジャケに
彼女自身、ヘキエキとしてたんじゃないのかな。
美人ジャケで内容のないチャラい作品と軽んじられるのを敬遠したのなら、その意気に感ずです。
もともと彼女はカレッジでオーケストレーションを学び、高い作曲能力も持つ、
れっきとした音楽家なんですからね。

タイトルが示すとおり、新作は、クールな彼女の音楽性を前面に押し出した、
シブい作品に仕上がっています。
ご主人のウェイン・クランツのギターに加え、アンソニー・ジャクソンのベース、
オラシオ“エル・ネグロ”エルナンデスのパーカッションといった名手を従えた
7人編成のバンドによる一発録りぽい生演奏で、
よりジャズ・ヴォーカル的な作品に仕上がっています。

オシャレなサウンド・プロダクションから距離を置き、音数を少なめにしたことで、
ガブリエラの音楽性であるクールネスを、よりくっきりとさせた新作。
その円熟した味わいは、オシャレな美人ヴォーカルなんてナメてる人を、驚かせますよ。

Gabriela Anders "COOL AGAIN" East Village Joint no number (2015)
Gabriela Anders "WANTING" Warner Bros. 9-46907-2 (1998)
Gabriela Anders "LAST TANGO IN RIO" Narada 9-46907-2 (2004)

故郷カレリアの伝統に立ち返って ヴァルテイナ

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Varttina  VIENA.jpg

ずいぶん聴いてなかったなあ、ヴァルテイナ。

ぼくがこのグループを知ったのは、ご多分にもれず、94年の“AITARA”。
言わずと知れたヴァルティナの代表作で、
フィンランドの伝統音楽を大胆にポップ化した、一大名盤でしたよね。

伝統性をしっかりと保持しながら実験性を高めていくという彼女たちの方向性は、
このあとも続いていくわけなんですが、“AITARA” を凌ぐアルバムは現れませんでした。
インダストリアル・ビートを取り入れたりと、野心的な意欲は買いたいんだけれど、
すんません、ぼくにはトゥー・マッチです、みたいなアルバムがずっと続いたもんで。

そんなわけで、最近はすっかり遠ざかっていたヴァルティナなんですが、
故郷カレリアの伝統に立ち返ったという新作、ライスから日本盤も出て評判がいいというので、
試聴してみたら、あら、びっくり。
リフレッシュされたヴァルティナ・サウンドが飛び出てきて、目を見開かされちゃいました。

まず、サウンドが一新。アクースティックなサウンドにがらりと変わりましたね。
カンテラやニッケルハルパといった伝統楽器の響きをメインに打ち立て、
かつてのエレクトロやファンクの要素はぐっと後退しました。
伝統様式の輪唱を聞かせたり、サーミのヨイクもあるなど、
北欧の音楽文化の古層に触れる試みを行う一方で、
ヴァルティナ流のポップなはじけぶりはこれまでどおり健在で、
速射砲コーラス&掛け合いがたっぷりと楽しめます。

なんでも、ロシア領カレリア地方を訪問したことをきっかけに、
自分たちのルーツに立ち返り、この作品を制作したのだそうで、
うん、この方向性、絶対支持だな。

さっそく買ってじっくり聴こうと思ったら、ライス盤はライセンスのドイツ盤。
わ~ん、オリジナルのフィンランド盤じゃないんですかあ。
しかたなくフィンランドから取り寄せ、えらい時間がかかちゃいましたが、ただ今絶賛愛聴中です。

Värttinä "VIENA" KHY Suomen Musiikki Oy KHYCD075 (2015)

ボッサのあるラパ新世代サンビスタ アルフレード・デル=ペーニョ

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Alfredo Del-Penho  SAMBA SUJO.jpg

ここんところ、若手のサンバにグッとくることがなかったんだけど、この人はいいねえ。
アルフレード・デル=ペーニョ。
ソフトな歌い口の底に、しっかりとした下町のサンバの味が備わっています。
ちょっとした歌い回しに、サンビスタ独特のニュアンスがにじみ出ていて、
こういう<ボッサ>を持ってる人のサンバを聴くと、頬がゆるみますねえ。

ラパの新世代サンバ・シーンを飾る一人で、クリスチーナ・ブアルキとのサンバ・ジ・ファトほか、
ペドロ・パウロ・マルタとデュオをするなどの活躍をしてきた人だそうで、
今回、インスト作と歌ものの本作2作を同時にリリースしました。
クラウドファンディングで制作したのだそうで、
最大の寄附がシコ・ブアルキだったというのが、なかなか美しい話であります。

フルート、サックス、トランペット、トロンボーンも加わったガフィエイラ・スタイルのサンバで、
コーラスにはマルコス・サクラメント、モイゼス・マルケス、ペドロ・パウロ・マルタといった
同世代のサンビスタが勢揃い。アルフレード自身は7弦ギターや、カヴァキーニョ、バンドリンを弾き、
ショーロの味わいをたっぷり堪能できる伴奏も申し分ありません。

レパートリーも、アルフレード自作の4曲のほか新旧織り交ぜ、
一番古い39年の“Do Outro Lado Do Mundo” から、
シロ・モンテイロが歌ったバーデンとヴィニシウス作の“Garota Porongodons”、
クララ・ヌネスが歌った“Moeda” ほか、ジョアン・ノゲイラ、デルシオ・カルヴァーリョに、
同世代でオルケスタ・インペリアルで活躍するルビーニョ・ジャコビーナの曲まで取り上げています。
そして締めはカルトーラの“A Cor Da Esperança”。うるさがたのファンも降参でしょう。

ここ数年オーソドックスなサンバで、
これといったアルバムに出会えずにいましたけれど、これは大当たりでした。

Alfredo Del-Penho "SAMBA SUJO" no label no number (2015)

サンバにアレグリアを取り戻せ アウグスト・マルチンスとクラウジオ・ジョルジ

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Augusto Martins e Cláudio Jorge  ISMAEL SILVA ; UMA ESCOLA DE SAMBA.jpg

そうか、メロディが違うのか。そういうことだったのかぁ。
ここ2か月ほど、ずっともやもやしていたことが、
このアルバムを聴いてようやく解消することができました。あ~、すっきりしたぁ。

そのもやもやとは、ロベルタ・サーの新作に対する違和感。
一度は夢中になった人なのに、こういうことを言うのはツラいんですが、
今のロベルタ・サーにはまったく期待をしていません。
デビュー当初のみずみずしかった歌唱は、もはやどこにも残っていないし、
だからといって、円熟してまた別の味わいを獲得したってわけでもない。
どこにでもいるMPB歌手になっちゃった感が強くて、
なまじ期待がデカかっただけに、がっかり度合も相当なものでしたよ。

で、12年の前作は単なるMPB作品だったので、簡単に無視できたんですが、
新作はまたぐっとサンバ寄りの作品に仕上がっていたので、困っちゃったんです。
バックがとても良くって、楽器の配置も含めアレンジはバツグンだし、
魅力薄になったロベルタの歌いぶりでも、耳をそばだてられること十分なんですが、
それでも強く残る違和感の原因が何なのか、ずっとわからずにいたんですね。

ざっくりいってしまうと、これって、ブラジル音楽なんだろか、という疑問です。
サンバかどうかという以前の問題で、サウンドだけ聴いていると、
カーボ・ヴェルデ音楽の方が近いようにさえ思えるんですよ。
サンバ新世代によるMPBを通過したサンバ・ノーヴォは、
より汎ポルトガル語圏音楽としての色彩を濃くしているように思えます。
それはある意味で、ブラジル成分を薄めてるようにも思えてならないんですよね。

そう感じる理由はどこにあるのか、それがずっとわからずにいたところ、
アウグスト・マルチンスとクラウジオ・ジョルジの共演作を聴いた途端、雲散無霧。
サンバ育ちのMPBシンガー二人が今作で歌っているのは、
エスコーラ・ジ・サンバを最初に作り出したイズマエル・シルヴァのサンバ集なんですが、
冒頭の“O Que Será de Mim” で、うわー、と思わず声を上げてしまいました。
そうそう、こういうメロディなんだよ、サンバってのはさ。これこそサンバだよってね。

こんなこというと、そりゃアンタが古いサンバが好きなだけだろって、若い人に反発されそうで、
はい、それはその通りなんですけど、古いものばっかりが好きなわけじゃないので、
そこは素直に聞いてほしいんですよね。
サンバの原点といってもいい、イズマエル・シルヴァのサンバを聴いた途端、
するっと理解できるのが、メロディの違い。それって、若い人でも、わかるでしょ?

こういうメロディが、21世紀のサンバからまったく聞かれなくなってしまったのは、
まぎれもない事実でしょう。70年代のサンバ・ブームの頃まではあったのにねえ。
サンバの魅力であるサウダージの感覚は、今も昔も変わることはないものの、
イズマエル・シルヴァのサンバにある、溢れんばかりのアレグリアの感覚が、
今のサンバのメロディには失われてしまっているんじゃないでしょうか。

そのせいか、サウダージ感ばかりが強調されるようになってしまったんじゃないのかな。
ロベルタ・サーがハスッパな歌い方になってしまったのに、ぼくがものすごく抵抗を感じたのも、
サンバが持つアレグリアの感覚を、彼女が失ってしまったことに反応したからだったようです。
比べて言うのも悪いですけど、ベッチ・カルヴァーリョがかつての魅力を失ったといっても、
ベッチにはちゃんとアレグリアの感覚があって、ハスッパな歌い方などはしてませんからね。

アウグスト・マルチンスとクラウジオ・ジョルジは、
シコ・ブアルキやパウリーニョ・ダ・ヴィオラの系譜といえるソフトな歌い口のサンバを歌いつつ、
MPBセンスに富んだ曲も分け隔てなく歌ってきた、似た者同士。
イズマエル・シルヴァという古典サンバを、モダンなサウンドに仕上げつつ、
サンバの魅力の本質であるアレグリアの精神を、しっかりと今に継承して歌ってくれています。

Augusto Martins e Cláudio Jorge "ISMAEL SILVA ; UMA ESCOLA DE SAMBA" Mills MIL051 (2015)

たおやかなヴェトナム情歌 ルー・アイン・ロアン

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Luu Anh Loan  Neu Doi KhongCo Anh.jpg

ニュ・クインの新作、ちっとも出ませんね。
歌謡ショー「パリ・バイ・ナイト」のステージには立っているようなんだけど、
レコーディングの場からは、ずいぶん長く遠ざかっちゃってます。
ここのところヴェトナムのポップスは、本国のシーンが活発になったせいで、
ニュ・クインなど在外ヴェトナム人の越境シーンは、すっかり影を潜めた感があります。

そんなことをふと思い出したのは、
ルー・アイン・ロアンなる女性歌手のアメリカ盤CDを入手したから。
ヴェトナム盤ならジャケット裏に政府発行の証紙が必ず貼ってあるので、
証紙がなければアメリカ盤だとわかります。
V Music というレーベルは初耳で、ソフトケースという仕様は海賊盤みたいですけれど、
ちゃんとした正規盤のようです。

ルー・アイン・ロアンという歌手を知らなかったので、調べてみたら、あれ?
この人、越境歌手ではなく、ホーチミン在住の歌手ですよ。
え? じゃ、なんでアメリカ盤なんだ? う~ん、よくわからん。
VOL 1 と書かれていて、アメリカでリリースされたのが初ってことなのか?
ヴェトナムではかなりの数のアルバムを出していて、中堅どころのようなんですが。

このアメリカ盤、昨年出たばかりのもので、
ニュ・クインとそっくりの歌いぶりに、驚かされました。
デリケイトな節回し、丁寧なヴィブラート、さりげないコブシ使いと、
見事なまでに、ニュ・クインの歌いぶりの良さが共通しています。

ルー・アイン・ロアンは77年生まれ。
ヴェトナム南部キエンザン省キエン・ルオン出身の歌手だそうです。
ダン・バウ、ダン・チャン、ギター・フィムロンなど、
ゆらぐヴェトナムの弦の響きを効果的に配した伴奏で、
民歌調バラードを歌った本作、全曲がスロー、ミディアム・スローで埋め尽くされています。
全16曲78分52秒、いくらなんでも長すぎでしょとは思いますが、
ぼんやり流しながら聴けば、心はヴェトナムの田園に持っていかれます。

Lưu Ánh Loan "NẾU ĐỜI KHÔNG CÓ ANH" V Music no number (2015)
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