エレン・アンデションは、母国スウェーデンのほか、
デンマークのヴォーカル・グループ、トゥシェのメンバーとしても精力的に活動する
若手ジャズ・ヴォーカリスト。
91年生まれだから、この人もまた新世代ジャズの一員ですね。
レパートリーは新旧スタンダードで、古いところではエリントンの‘Just Squeeze Me’、
ホーギー・カーマイケルの‘I Get Along Without You Very Well’、‘Too Young’。
新しいところではランディ・ニューマンの‘You've Got A Friend In Me’ あたりか。
レノン=マッカートニー作の‘Blackbird’ は、いまさら新しいとはいえないけれど。
こうしたスタンダード中心のジャズ・ヴォーカリストに、
あまり興味のない当方でありますが、
この人の粘っこい歌唱には、耳が反応しました。
みずみずしい若さと妖艶さをあわせ持つ個性は、抗しがたい魅力があります。
オープニングの‘You Should Have Told Me’ での、
奔放に暴れるドラミングやトランペット・ソロは、歌伴にしては遠慮がなくスリリングで、
ぐいぐいと惹きつけられました。
ちょっと掠れ気味のハスキー・ヴォイスで歌い始める、
ルグランの名曲‘Once Upoan A Summertime’ も、洒脱な味を出していて、
エレンの個性がよく発揮されています。
抒情派だけど純情ではなく、ちょっとハスッパな小粋さを持ち合わせているのが、
エレンの持ち味かな。スウィンギーなグルーヴを生み出すリズムのキレもあるし、
アーシーなブルース・フィーリングが、自然とにじみ出てくるところも、いい。
こういう個性って、若い人が出そうとすると作為がつきまとうものなんだけれど、
この人にはそんなケレンがまったくないから素直に聞けて、耳に馴染みます。
スキャットやハミングも器楽的になるのではなく、
そっとつぶやくようなキュートな歌唱の延長線上に出てくるところが、
肩ひじ張らずに聞けるところ。う~ん、オヤジ殺しの悩殺歌唱だな。
弦楽四重奏を加えたバックも好演していて、
‘The Thrill Is Gone’ のインタールードの凝ったアレンジを施したパートなど、
アグレッシヴなピアノ・ソロを含め、手に汗握る場面多し。
日一日と冬に向かう寒さが増す今日この頃、ナイトキャップに絶好の1枚です。
Elle Andersson "YOU SHOULD HAVE TOLD ME" Prophone PCD204 (2020)