この人については、これまでクサしてばっかりだった気がしますけれど、
ハービー・ハンコックをカヴァーした新作には、完全脱帽。スゴイです、これ。
ハービー・ハンコックは、リオーネルをフックアップした師匠。
その師匠の名曲名演を演奏して、いわば恩返しした新作なんですね。
これほど独創的なハンコックのカヴァー・ヴァージョンは、聞いたためしがない。
リオーネルがギターを多重録音した、超個性的なギター・ソロ・アルバムなんですが、
最初聞いた時は、ただただ絶句してしまいました。
1曲目の‘Hang Up Your Hang Ups’ から、ひっくり返っちゃいましたよ。
74年の”MANーCHILD” で初演、”FLOOD” や”V.S.O.P.” のライヴ・バージョンもあり、
特に後者のワー・ワー・ワトソンとレイ・パーカー・ジュニアによる
ツイン・ギターの名演が忘れられないんですが、
あのイントロを1台のギターで鮮やかに再現しているのには、舌を巻きました。
ベース・ラインとリードの装飾の対比、リズム・ギターのパターンに差し挟まれる
タップのパーカッシヴなアクセントと、ヴォイス・パーカッションが、もう絶妙です。
あのアンサンブルのグルーヴを、ギター演奏だけで出せるなんて。
ハーモニクスを織り交ぜたり、ボディをパーカッションのように叩くプレイなど、
技の繰り出しがハンパない。
一方、‘Tell Me A Bedtime Story’ では美しいアルペジオが抒情的なハーモニーを奏で、
エレガントなメロディをギターのラインと並走するヴォイスが夢見心地に誘います。
‘Actual Proof’ で聞かせる、一部の弦を極端に緩めてビビリ音を出すアイディアは、
まるでプリペアド・ピアノのギター版のよう。
オリジナルのジャズ・ファンクのグルーヴを生まれ変わらせていて、これにもウナりました。
‘Butterfly’ の魅力的なメロディを、リオーネルのヴォイスでストレ-トに表現する一方、
リズムの方はさまざまに変化をつけるアレンジが施され、
がくがくとしたアクセントが付くかと思えば、
規則的なシンコペーションのリズムに変わったり、
次々とリズムが変化していく面白さが聴きものです。
‘Rock It’ のエフェクト使いにも、うわははは。
オリジナルを悪戯したようなアイディアが効果的。
リオーネルのオリジナルも2曲あり、
アルバム・ラストの‘One Finger Snap’ で、電子音のようなエフェクトをかけた
ギター・サウンドがループを作りながら、さらに別のループを作り出す
インプロヴィゼーションの構成にはマイりましたね。
これが、あの構成力もなければ、アイディアもヒラメキもないソロを弾くギタリストと
同一人物とは思えないほど。
う~ん、リオーネルを見直しました。
Lionel Loueke "HH" Edition EDN1161 (2020)