コロナ禍のインフォデミックが引き起こす、
世論のヒステリーに苛立ちを募らせていた今年の春先、
絶好の鎮静剤となってくれたのが、ダン・ローゼンブームのアルバムでした。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-04-27
そのダン・ローゼンブームが参加した
テナー・サックス奏者ジョン・アームストロングの新作も、
相変わらずインフォデミックが収まらない日ごろのイライラをブッとばすのに、
もってこいのアルバムですね。
テナー・サックス、トランペット、トロンボーンの3管に、
ピアノ、ベース、ドラムスのセクステットで、
フリー・ジャズの快楽と、明確な物語を持ったコンポーズの妙を味あわせてくれます。
30分足らずという収録時間が、やや物足りなくもありますけれど、
長尺の2トラックは、聴き応え十分。
最初のトラックは、激烈なインプロヴィゼーションのために用意されたコンポーズで、
冒頭ジョンのテナーが彷徨し、次いでピアノが暴れ回る、猛烈な即興で始まります。
コンポーズはいくつかのセクションに分かれ、
音楽は連続しながらも風景が大きく移ろっていき、
その風景のなかで、それぞれの楽器が劇的にインプロヴァイズしたり、合奏したり、
さまざまな表情を多層的に見せていきます。
ベン・シェパードがはじき出す、濁ったトーンのファンキーなベースが、
かつてのどくとる梅津バンドの早川岳晴のサウンドを思わせ、
ジョンのテナーが片山広明のプレイとオーヴァーラップして、ドキドキしてしまいました。
2つめのトラックは、人の息遣いのような静かなリズム・ループから、物語は始まります。
ベンのベース・ソロから始まり(ここでのプレイは早川岳晴ライクではない)、
ペダルを使った効果的な音使いで、朝もやのような風景に少しづつ色彩を加えていきます。
やがて管楽器が加わると、朝焼けが立ち上るような鮮やかな色を見せ、
ゆっくりと、雄大な眺望を広げていきます。
最後は全員の合奏と集団即興が織り重なるような演奏に、手に汗握ります。
インプロヴィゼーションのスリルが紡ぐ物語。これは傑作ですよ。
Jon Armstrong Sextet "REABSORB" Orenda 0073 (2020)