エリック・レヴィスが、ブランフォード・マルサリス・カルテットのベーシスト
だということを知ったのは、ずいぶんあとになってからでした。
ぼくがレヴィスに注目したのは、ピアニストのクリス・デイヴィスとの共演がきっかけで、
フリー/アヴァンギャルド系の人とばかり思っていたからです。
とりわけ、2年前の来日で観た二人のデュオ・ライヴが凄まじくって、
いまなお鮮烈な記憶が、なまなましく残っています。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-04-10
そのエリック・レヴィスの新作は、
クリス・デイヴィスも参加したサックス2を含むクインテットで、
ブランフォード・マルサリス・カルテットで一緒のドラマー、
ジャスティン・フォークナーが2曲ゲストで叩いています。
いやあ、聴けば聴くほどに謎めいていて、スゴイな、これ。
レヴィスが描こうとするモティーフに合わせて、
多彩なパレットを用意したという感じのお膳立てで、
実験性にも富んだイマジネイティヴな楽想に、
メンバーがさまざまなアイディアで呼応した演奏を聴くことができます。
冒頭の‘Baby Renfro’ から、ノリのいいフォークナーのドラミングにのせて、
クリス・デイヴィスがミュートしたピアノ弦を打鍵するミニマルなリフからスタート。
サックス2管がギクシャクしたソリを吹奏したあと、
クリスがフリーにエネルギーを放射するところで、もう悶絶。
曲の緻密な構造に添いながら、
その合間を自由に泳いでいく演奏ぶりにウナらされます。
2曲目の‘SpÆ’ では、チャド・テイラーのンビーラが、さまざまな反復フレーズを
織り成していきながら、出入り自由といった空間を生み出していき、
そこにクリスとエリックが別々の反復フレーズでループを重ねていくと、
幻惑的なテクスチャーが生み出されます。
レイヴ・パーティみたいなイケイケの四つ打ちからスタートする‘Shutter’ なんて、
2管がぶっきらぼーなリフをユニゾンで吹く後ろで、クリスがぐりんぐりん鍵盤を転がし、
やがてフリーキーなテナー・サックス・ソロに移っていくという構成。
場面の動かし方が、もう異様に美しい。
全体に不穏なトーンが支配しているんだけれど、音楽に重苦しさはなく、
どこか突き抜けた透徹さがあるんですね。その謎めいた音楽の秘密を解き明かしたくて、
何度も繰り返し聴かずにはおれないアルバムです。
Eric Revis "SLIPKNOTS THROUGH A LOOKING GLASS" Pyroclastic PR09 (2020)