パウロ・フローレスの新作は、ラッパーのプロジージョとコラボした共同名義作で、
「エスペランサ」というプロジェクト名を冠しています。
暴力や飢えなど、アンゴラの庶民が味わってきた苦しみや痛みの記憶を解きほぐし、
新しい秩序や連帯に基づいた価値観を求めて、
人々に希望と愛を紡ごうと試みたアルバムとのこと。
前作“KANDONGUEIRO VOADOR” でも、
パウロは未来に向けたメッセージを若者に託していましたが、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-01-10
世代の異なる若手と協働した新作は、
未来へつなげようとするパウロの意志を汲み取ることができます。
パウロが72年生まれなのに対し、プロジージョは88年生まれと、
ひと回り以上の年の差のある二人。
88年といえば、奇しくもパウロがデビュー作を出した年で、
子供の頃のヒーローとスタジオで一緒になるのは、
プロジージョにとって名誉でもあり、エキサイティングだったといいます。
プロジージョは、15年に出したソロ作がアンゴラのヒップ・ホップ・アワードで
最優秀アルバム賞とラッパーMVPのダブル受賞となり、
今アンゴラでもっともイキオイにのるラッパー。
本作では、どこか疲れも感じさせる翳りのあるパウロの歌声と、
向こう見ずな若いエネルギーを放出するプロジージョの声が対照的に響きます。
雨上がりの街角、アスファルトにできた水たまり、ネコ(一輪車)を手押しする若者、
どんよりとした天気のモノクロームの写真を飾ったジャケットのように、
アルバムの内容もグルーミーな曲調が多いんですが、
たまに打ち込みが加わる以外、全曲ギターと二人の声だけという超シンプルなもの。
最初に聴いた時、まるでデモみたいだなと感じたんですが、
じっさい、2回セッションしたデモが、そのままアルバムになったとのこと。
セッションの後、本格的なレコーディングに移ったものの、
最初に二人でセッションしたときのような、スポンテニアスなマジックが起こらず、
結局レコーディングを断念したのだそうです。
アンゴラに生まれた悲哀を歌う暗い曲が多いなか、
楽天的なトーンの‘Esquebra’にホッとさせられたりもします。
これほど陰影のくっきりとした、深みのある音楽を聞かせられるのも、
30年を超すキャリアと、未来に視点を置きながら、後進を育てようとする
パウロの進取の気風ゆえでしょう。
Paulo Flores & Prodígio "A BÊNÇÃO & A MALDIÇÃO" Sony 19439819482 (2020)