フェミ・クティの息子マーデ・クティが、
父親の新作とカップリングでデビュー作を出しました。
上に掲げたジャケットはそのマーデ・クティのもので、
パネル仕様のCDの裏側を飾っています。
フェミ・クティは、あいかわらずのヘナチョコな歌いぶりで、
アフロビートに必要な強度を持ち合わせていないという理由から、
当方、デビュー当時から一貫して評価しておりません。
なので、フェミの新作についてはコメント割愛というか、
別売りにしてくれれば、買わずにすんだのに。
で、フェミの息子というか、アフロビートの始祖フェラ・クティの孫、
マーデ・クティのデビュー作なんですが、
父親よりアフロビートを継承する才能あり、ですね。
フェラが留学したロンドンの名門校のトリニティ・ラバン音楽院で、
作曲を学んだというマーデ。
フェラは、音楽理論の成績が悪くて2度も落第し、
4年以上もかかって、ようやく卒業できたダメ学生でしたが、
マーデはきっと成績優秀だったんじゃないかと想像します。
マーデは、本作ですべての楽器を演奏し、
祖父譲りのアフロビートを再現しているんですね。
人力演奏のバンド・サウンドがアイデンティティともいえるアフロビートを、
たった一人の多重録音で、これほど生々しく再現できることに、まず感嘆。
さすがに幼い頃から父の演奏を聴いて、
アフロビートのサウンドを体得しているからこそ、なしえる業ですね。
父のフェミが、ポリティカルな姿勢を含め、フェラのアフロビートを継承したものの、
ヴォーカルの力量が圧倒的に足らず、模倣の域を越えられずにいるのに比べたら、
マーデのクールなヴォーカルの方がよほど説得力があり、
フェミを聴くときに覚えるイラダチを感じずに済みます。
そしてマーデが一人で演奏したのは、
なにより作曲とアレンジに重きを置いているからでしょう。
自分がめざすサウンドについて、
明確なヴィジョンを持っているからこその多重録音で、
ビート・ミュージックやジャズを吸収したサウンドが聞けます。
ジョー・アーモン=ジョーンズやヌバイア・ガルシアが、
マーデと同じくトリニティ・ラバン音楽院の卒業生であるように、
本作のリズム・ストラクチャーやホーン・アレンジには、
現在のロンドンのジャズが表現する、
多様性の一つとなる可能性を感じさせますよ。
このデビュー作から、今後マーデがどう発展していくのか、まだ予想はつきませんが、
とんでもなく大化けしたアフロビートを聞かせてくれる日も近いような。
ひょっとして、次作はラージ・アンサンブルだったりして。
そんな予感さえする大器の登場です。
Made Kuti "LEGACY+: FOR[E]WARD" Partisan/Knitting Factory PTKF2189-2 (2021)