昨年オスティナートが出したジブチのグループRTDは、
世界中で高く評価されましたね。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-06-22
ワールド・ミュージック関連作の評価って、日本、アメリカ、
イギリス、フランス、ドイツと、国ごとにけっこう分かれるものなんですが、
グループRTDのアルバムは、どこの国の2020年ベスト・アルバムにも
ノミネートされていました。これって、案外珍しいことであります。
さて、その絶賛されたオスティナートの仕事ですけれど、
グループRTDの世界デビュー作を制作するきっかけとなった、
ヴィック・ソーホニーはじめオスティナートのスタッフが、
国営ラジオ放送局のアーカイヴの使用許可を得て編集作業を進めていた
リイシュー作が、ついに完成しました。
それが、カトル・マルスの82~94年録音13曲をまとめた本作です。
カトル・マルスは、70~80年代のソマリアの音源を復刻した
“SWEET AS BROKEN DATES: LOST SOMALI TAPES FROM THE HORN OF AFRICA”
にも1曲収録されていました。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2017-09-10
その曲‘Na Daadihi’ は、音頭とレゲエをミックスしたようなリズムに、
サックスが泣きのリフを入れるスーダンふうの曲で、ぴよぴよと鳴らされるシンセに、
思わずクスクス笑いしてしまう、ファニーなナンバーでした。
カトル・マルスは、79年にジブチが独立して一党独裁を敷いた、
進歩人民連合(RPP)の専属バンドで、党の文化部門を代表していました。
グループ名の「3月4日」とは、進歩人民連合が創立された記念日を意味し、
ジブチ人民宮殿で誕生したそうです。40人ものメンバーを擁し、
バンドというより、俳優、歌手、ダンサー、ミュージシャン、
伝統音楽の打楽器奏者などの集合体で、オリンピック代表団のようなものと、
解説には書かれています。
メンバーは全員公務員で、ギネア独立時にセク・トゥーレが組織した、
国立シリ・オーケストラと同じようなものだったようですね。
私営のバンドは存在せず、ほかの政党も専属バンドを持っていたそうですが、
一党支配の政権党の資金力は、他を圧倒していました。
その後、93年の新憲法制定による複数政党制導入で、
政党直轄の音楽バンドは廃止され、真に国民的なバンドへと変わったそうです。
収録された曲を聴いてすぐにわかるのは、スーダン音楽の影響大だということ。
メロディやサックスのリフなどは、スーダニーズ・マンボを彷彿とさせます。
リズム面ではレゲエを援用していて、これはソマリの伝統リズム、ダーントが
レゲエと同じオフ・ビートで、非常によく似ているからだそうです。
‘Hobalayeey Nabadu!’ では、ナイヤビンギのパーカッションまで参照して、
ダーントではない本格的なレゲエに仕上げていますね。
ほかには、エジプトやイエメンのリズムを取り入れているとのこと。
行進曲ふうのリズムの曲‘Lama Rabeen Karo’ は、軍楽ぽいですね。
ヴォーカルはボリウッドの影響が大きく、
シンセのメロディはトルコのアナドル・ロックを参考にしているというのも、
なるほどとうなずけます。サイケデリックなエレキ・ギターも同様かな。
いずれにせよ、これが82~94年録音とは思えぬイナタさで、
20年以上時計の針を戻したような濃密なサウンドに、圧倒されます。
4 Mars "SUPER SOMALI SOUNDS FROM THE GULF OF TADJOURA" Ostinato OSTCD010