サンパウロの若手ピアニストのデビュー作。
こちらは新作ではなく、3年前に出ていた作品でした。
ピアノ・ソロのアルバムというと、めったに触手が伸びることはないんですけれど、
YouTubeで観たこの人のピアノがすごく好みだったもので、珍しく手が伸びました。
何が気に入ったって、打楽器のようにピアノを弾くところ。
まずリズムがしっかりしていないと、ぼくの場合、ピアノ・ソロを聴く気になりません。
いくら流麗に指が動くタイプでも、心は動かないんだよなあ。
むしろ超絶技巧を誇るピアノほど、シラけてしまうんですよね。音楽はサーカスじゃないって。
右手の動きよりも大事なのは、左手の動き。
どっしりとしたビートを刻めるかどうかがキモです。
打楽器のように弾くといっても、がんがん激しく弾くんじゃなくて、
粒立ちの良いタッチで、両手をバランスよくパーカッシヴに鳴らせること。
それによって、ピアノを大きく鳴らせるダイナミクスを持っていること。
そのすべての点で、このエルクレス・ゴメスくん、合格です。
そして、さらにぼくの頬を緩ませるのが、ショーロの伝統をしっかりと身に付けているところ。
ショーロ・ピアノにありがちなクラシックふうに流れてしまう「甘さ」もなく、
強力なリズム感の持ち主であることが、ここでも役立っていますね。
エルネスト・ナザレーやラダメス・ニャターリの名曲に
サンパウロのショーロ・クラリネット奏者ナボール・ピリス・ジ・カマルゴの曲を取り上げ、
ショーロの麗しいメロディとエッジの立ったリズム感を両立させた、
鮮やかなピアノを聞かせてくれます。
エルメート・パスコアール作のフレーヴォでは、フレーヴォ独特の音が飛び跳ねる運指を
明快なタッチで弾き切るスゴ腕を披露しています。
超絶技巧は、これみよがしなハッタリでなく、こういうふうに発揮してくれると嬉しいんですよね。
ジャズ、クラシック、ショーロを横断し、ブラジル北東部の豊かなリズムも咀嚼した才能に喝采。
エレガントでキュートなセンスを持っているところが、めちゃぼく好みのピアニストです。
Hercules Gomes "PIANISMO" no label HG001 (2013)