ジャズ・ピアニストで、ヒップ・ホップのMCで、シンガー・ソングライターという、
いかにも今のロンドンを象徴する音楽家のアルファ・ミスト。
新作はアンタイからで、CDもちゃんと出るというので、楽しみにしていました。
前作も前々作も、CDは日本盤でしか出なかったもんなあ。
UKジャズ・シーンのど真ん中にいる人とは違い、
トム・ミッシュやジョーダン・ラカイといった音楽家との共演など、
ポップ・シーンに寄せたフィールドで活躍する音楽家ですよね。
イギリス人には珍しくロバート・グラスパーに強く影響を受けたピアニストで、
ジャジーなネオ・ソウル・サウンドや、J・ディラのよれたビート使いは、
もろグラスパー・マナーといえます。
オープニングのフュージョン調のトラックに続き、
オーガニックなフォーキー・テイストのネオ・ソウル、
さらにジャジー・ヒップ・ホップと、
曲ごとにさまざまな音楽性を表出しながら、
アルバム全体をメランコリックなトーンでまとめ上げています。
グルーミーなムードが、いかにもロンドンらしくて、
このムードは、US産からはぜったい生まれないものでしょう。
ビル・エヴァンスを思わす美しいハーモニーのピアノや、
温かなローズのサウンドに絡んでくる、ジェイミー・リーミングの
キラキラしたアルペジオやオブリガードが効果的。
リチャード・スペイヴンのシャープなスネアが生み出す、
生演奏ならではのタイム感にウナるトラックもあれば、
ビートメイキングがクールな音像を結ぶトラックもあります。
ラップばかりでなく、ポエトリー・リーディングもフィーチャーされ、
クラシカルなチェロの室内楽演奏が登場するなど、おそろしく密度の濃いサウンドが
次々と展開していくにもかかわらず、そんな場面変化を意識させない
聴きごこちの良さが、本作最大の美点。
多彩な音楽要素をひと色に染め上げるプロデュース力は、スゴイですね。
ジャケット画のカーペットを敷き込んだ階段に、
31年前、ロンドンでひと月ほど滞在していたホスト・ファミリーのおうちを
思い出しました。今年の梅雨時の、良きBGMになってくれそうな一枚です。
Alfa Mist "BRING BACKS" Anti 87789-2 (2021)