とてつもないもん、聴いちゃった。
ブルー・ノートが送り出した新進ピアニスト、ジェイムズ・フランシーズの新作。
すんげぇーぞ、コレ。
ジャズ新世代のスゴさをまざまざと見せつける、トンデモ級の衝撃作です。
飛び出してくる音楽のハイブリッドさに、脳ミソが沸騰しました。
演奏されているのは、まぎれもなくジャズなんだけど、
ビート・ミュージックのようだったり、弦楽四重奏のクラシカルな演奏が出てきたり、
サウンドのテクスチャーが、いわゆるジャズを完全に逸脱していて、
なんと形容したらいいのか、戸惑うばかりです。
最初はただただ圧倒されてしまったんですけれど、
5・6回聴いたあたりから、ようやくこの音楽を語る言葉を、
少しずつ考えられるようになってきました。
オープニングの短い曲から、はやこの人の得体の知れなさが炸裂します。
コマ落としのフィルムのような、歪んだサウンドスケープを描く
幻想的な鍵盤の演奏に、女性のナレーションがのっかるトラック。
なにやら不穏なムードに包まれていると、一転、
EDMのマシン・ビートのようなドラミングが突進する、激烈なトラックに移ります。
バッキバキに尖ったビート・ミュージックを、人力のドラムスがトレースするかのような
ジェレミー・ダットンのドラミングが、もう凄まじいったらない。
ビートはジャストでも、リズムにズレを生じさせるそのドラミングは、
いったいどういう構成になっているのか、何度聞いても謎すぎてよくわからん。
さまざまなリズム・フィギュアを駆使して、グルーヴを構築しているようで、
主役のジェイムズ・フランシーズは電子的なエフェクトも多用して、
激しく自己主張する濃密なソロを聞かせます。
リーダー作では、コンポジションとアンサンブルを重視したパフォーマンスに徹する
ヴィブラフォンのジョエル・ロスとアルト・サックスのイマニュエル・ウィルキンスも、
ここではインプロヴァイザーとしての実力を100%発揮していて、もう、ちびりそう。
ジェレミー・ダットンにせよ、ジョエル・ロスにせよ、イマニュエル・ウィルキンスにせよ、
ジョエル・ロスの2作では、こんなスゴイ人たちだとは気付かなんだ。
ところが、そうした即興もサウンドスケープのなかに回収されるので、
いわゆる弾きまくり/吹きまくりの印象を残さないところが、新しい。
そのハイライトが ‘My Favorite Things’ でしょう。
こんな ‘My Favorite Things’ 聴いたことない!
原曲にさまざまなリフやメロディをアダプトし、リズムも解体しまくり、
サウンドの洪水と化した演奏は、もうトンデモないことになっています。
トラックごとに、サウンドのカラーを際立たせる音響処理を施したミックスが、
この作品のキーとなっていますね。
ヴォーカルをフィーチャーしたトラックから、エフェクトを施したピアノだったり、
さまざまなエレクトロを駆使したサウンドが、奥行き深い響きを伴っていて、
慎重に調整されているのがわかります。
エネルギッシュな即興演奏のダイナミズムを倍加させているのも、
そうしたミックスの効果でしょう。
コンポジション、アレンジ、インプロヴィゼーション、ミックスのすべてに新しさがあり、
それを生み出しているのが、ジャズ、クラシック、ロック、R&B、ヒップ・ホップ、
ビート・ミュージック、アンビエントから学び取った、音楽教養の幅広さと深さ。
新世代の才能が、これほどまばゆく見える作品はありません。
未聴のデビュー作もさっそく聴かなくっちゃ。
ジェイムズ・フランシーズ、末恐ろしきデンジャラスな才能の持ち主です。
James Francies "PUREST FORM" Blue Note B003362402 (2021)