ジョゼフ・スペンスの65年未発表録音集?
へぇ~、半世紀以上も眠っていた音源かぁ。
もう何十年もジョゼフ・スペンスを聴いていないので、
懐かしくなって手が伸びました。
ぼくがこのバハマのギター・マスターの存在を知ったのは、
ご多分に漏れず、ライ・クーダーの『紫の渓谷』がきっかけ。
ジョゼフ・スペンスの‘Great Dreams From Heaven’ をライがカヴァーしていたんですね。
タブ譜があったおかげで、三拍子の短いギター・インストは、
高一のギター初心者でも、なんとかサマになりました。
6弦をDに落とすドロップDという変則チューニングを覚えたのも、
この曲がきっかけでしたね。
探究心旺盛な年頃だったので、本家本元のジョゼフ・スペンスも聴かなきゃと、
すぐさまフォークウェイズ盤を買ったんですが、そのギターのスゴ腕にノケぞりました。
フィンガー・ピッキングのリズムが、とにもかくにも強力。
メロディをアタックの強い音で弾き、流れるようなラインを生み出す一方で、
親指が弾く精度の高いベース音の対比が鮮やかで、
これホントに一人で弾いてんのかというグルーヴを生み出すんです。
キレまくったギター・ワークとスピード感は、とても高一の手に負えるものではなく、
早々に白旗を上げて、コピーしようという気さえ起こらなかったもんなあ。
今回の未発表録音集は、レコーディング・エンジニアのピーター・シーゲルが、
ナッソーのスペンスの自宅に妹のエディス・ピンダーの家や、
ニュー・ヨークのシーゲルの自宅、コンサート会場などで録音したものだそうです。
65年というと、ジム・クウェスキン・ジャグ・バンドのフリッツ・リッチモンドが
ナッソーに出向いて録音した、エレクトラ盤の“HAPPY ALL THE TIME” を出した
翌年にあたり、スペンスの絶頂期ですね。
そのエレクトラ盤でもやっていた‘Out On The Rolling Sea’‘Bimini Gal’ など
おなじみの名曲をはじめ、初出の賛美歌‘Death And The Woman’(原曲は‘O Death’)や、
スペンスが亡くなった時の葬儀で演奏されたという
賛美歌の‘Won't That Be A Happy Time?’ を聴くことができます。
卓抜したギター・テクニックはここでも十二分に発揮されていて、
スキャットやハミングを交えたヴォーカルは、自由奔放そのもの。
よくスペンスの歌のことを、「のんびりした」とか「脱力」とかいう人がいますけれど、
ぼくから言わせれば的外れで、スペンスのスゴさがわかってない形容ですね。
スペンスがギター・プレイとハミングをフィードバックしながら、
物凄いインプロヴィゼーションを繰り広げているのが、聴き取れていないからでしょう。
耳のある人なら、‘Brown Skin Gal’ のハミングとギターのコール・アンド・レスポンスに、
スペンスの並外れた即興能力を悟るはずです。
フォーク・リヴァイヴァルの黎明期に評価を高めたミシシッピ・ジョン・ハートや
レヴェレンド・ゲイリー・デイヴィスと同列に扱われがちなギタリストでしたけれど、
ぼくにはそうしたブルース・ギタリストとは、性格が違うように思えてならないんですよね。
教会音楽由来の和声感覚をフィンガーピッキング・ギターに取り入れ、
独自の即興スタイルを生み出した才人であったことを、
この未発表録音集は示しているんじゃないでしょうか。
Joseph Spence "ENCORE" Smithonian Folkways SFW40242