ミリヤン・ラトラセは、91年マドリッド生まれのジャズ系シンガー・ソングライター。
19年に出したセカンド作が日本に初入荷したんですが、これがやたらと評判がいい。
ぼくも試しに聴いてみたところ、いやあ、オドロきました。
このひともまた、グレッチェン・パーラトのミームとして増殖した歌手のひとりですね。
じっさいミリヤン・ラトレセがグレッチェンに影響を受けたかどうかは知りませんが、
こういう人が出てくると、いかにグレッチェンの登場が、
ジャズ・ヴォーカルの風景を一変させてしまったかを、実感させられます。
ヴィニシウスとジョビンの名曲‘Chega De Saudade’ を
カタルーニャ語で歌った1曲目で、それは鮮やかに示されています。
ハイ・トーンのハミングに続いて歌い出される第一声で、
「うわー、グレッチェンじゃん!」と思わず口走っちゃったもんね。
低く落ち着いたウィスパー・ヴォイスは、
プレ・ボサ・ノーヴァの‘Chega De Saudade’ にどハマりだし、
そのウィスパー・ヴォイスのまま、
ベース・ソロに合わせてユニゾンでスキャットするスキルに、
ジャズ・ヴォーカリストとしての実力が発揮されています。
デビュー作では自作曲を歌っていたようですけれど、
本作はスタンダード曲がレパートリーで、
先に挙げたジョビンの‘Chega De Saudade’‘Meditaçao’ を、
カタルーニャ語の美しい語感を生かして歌っているほか、
ジャヴァン、パブロ・ミラネス、フィト・パエスの曲を取り上げています。
ブラジルやラテンのスタンダードのほか、
地元スペインのローレ・イ・マヌエルの‘Todo Es De Color’ や、
‘Like Someone In Love’ も歌っていますね。
これはチェット・ベイカーを意識したのかな。
個人的に嬉しかったのは、ボラ・デ・ニエベのレパートリーで、
古くから愛される子守唄の‘Drume Negrita’ を取り上げていたこと。
リズム処理がとても洒落ていて、とても小粋に仕上がっています。
歌伴のピアノ・トリオは、控えめなプレイに徹しつつ、ピアノが内部奏法を聞かせたり、
ドラムスが柔らかな音色で包みながらリズムを押し出していったりと、
現代性を投影したアンサンブルで、抑制の利いたミリヤンの歌を盛り立てています。
どこまでも柔らかな歌い口に、ふんわりとしたベットにダイヴするような気分。
秋口の夜に、またとないくつろぎを与えてくれる一枚です。
Miryam Latrece "QUIERO CANTARTE" Little Red Corvette LRC10 (2019)