長年身元不明だったニジェールのヒップ・ホップCDの正体が、ついに判明。
サヘル・サウンズがなんとフィジカル化してくれたおかげなんですが、
まさかこんなローカルなシロモノが、LP化されるとは思わなんだ。
さすがはモノ好きなサヘル・サウンズと、ニヤニヤが止まりません。
おかげでママキ・ボーイズが何者なのか、よーくわかりましたよ。
実はぼくの手元にあるCD-Rは、
ニジェールから帰国した協力隊員さんからいただいたもの。
ホワイト・ディスクに、インクジェット・プリンターから出力したペラ紙が
付いただけのハンドメイドCD-Rで、曲名すら書いてないんですよね。
いつ出たものかもわからず、素性を調べようにも、
ネットには何一つ情報がなく、ずっと誰コレ?状態だったのでした。
ちょうど世紀が変わったあたりからでしょうか。
西アフリカの貧しい若者の間で、DIYの音楽制作が盛んになり、
デジタル・カルチャーが花開きましたよね。
違法ダウンロードやフリー・ソフトの普及で、
ユニークなヒップ・ホップがたくさん生み出されました。
マリ、バマコのサウンド・システム、バラニ・ショウも、そのひとつ。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-01-30
西アフリカでもっとも貧しいニジェールでも、
デジタル・カルチャーが育っていることがよく伝わってくる、
サイコーな一枚だったんです。
LP/カセット化したサヘル・サウンズによると、
ママキ・ボーイズは、02年にニアメーの3人の若者、アジズ・トニー、
バチョウ・イソウフ、サリフ・アンドレによって結成されたユニット。
現在は、表紙に写る二人だけになっているようです。
アメリカナイズされたニジェールのヒップ・ホップ・シーンに背を向けて、
伝統音楽とヒップ・ホップの融合を図ったといいます。
ハウサの伝統楽器であるカラング(トーキング・ドラム)とドゥマ(太鼓)の
ビートを全面に押し出し、時にグルミ(リュート)とおぼしき弦楽器音も聞こえてくるので、
老練なグリオたちとスタジオ・セッションをしたのかと思いきや、
これがサンプリングのカット・アンド・ペーストで作られていたとは。
なんでも、ニアメーで最初に作られたスタジオBATに、
年配のミュージシャンを呼んで演奏してもらい、
その録音をカット・アンド・ペーストでループさせて作ったのだそうです。
グルミや笛はサンプリングかなとも思ったけれど、
カラングとドゥマまでサンプリングだとは思わなかったなあ。
それぐらいニュアンスに富んでいて、グルーヴも生々しいので、
これがカット・アンド・ペーストだとは、脱帽です。
ヒップ・ホップに祖父母が村で踊っていた祖先のダンスを落とし込み、
トラディ=モデルナを自称するママキ・ボーイズは、
文化的なマニフェストを提示してるんですね。
天然資源の開発によって得られた富が、
国民に等しく還元されることを要求するトラックなど、
彼らの気概はしっかり伝わってきますよ。
エレクトロな音処理だけで構成した4曲目では、
ブーストしたベース音を利かせ、畳みかける二人のラップが、
強烈なグルーヴを巻き起こして、痛快です。
伝統楽器のサンプリングを使用しないトラックでも、
伝統リズムがヒップ・ホップのビートにしっかりと生かされているのを感じます。
グルミとカラング、ドゥマの饗宴といえば、
遊牧民トゥーブー出身のグルミ・マスターであるマーラム・ママン・バルカが、
カラングとドゥマを演奏するハウサ人グリオと共演した
名作“GUIDAN HAYA” が忘れられません。
この名作とママキ・ボーイズの間にまったく断絶がないところに、
ニジェールの過去と未来が繋がっていることを、強烈に感じさせるじゃないですか。
サヘル・サウンズによって、ようやく長年の謎が解けたママキ・ボーイズ。
このリイシューLPを買うファンに、ぜひマーラム・ママン・バルカも聞かせたいな。
Mamaki Boys "PATRIOTE" no label no number (2007)
Malam Maman Barka "GUIDAN HAYA" Beauty Saloon Music 0001 (2008)