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クロスオーヴァー蘇るパワー・トリオ ショウン・マーティン

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Shaun Martin  THREE-O.jpg

ひょんなことから、ハービー・ハンコックの“SUNLIGHT”(78) を聴き返してみたら
えらくハマってしまって。ウン十年ぶりに聴き返したけれど、古くなってない、
なんてことはぜんぜんなくて、思いっきり古さは感じるものの、
こんなに熱量のある演奏だったっけと、そこにすごく意外感があったんでした。

60年代のジャズ・ロック、70年代のクロスオーヴァー、80年代のフュージョン、
90年代のスムース・ジャズと、ジャンルの呼び名が変わった大きな理由に、
サウンドの変遷が挙げられますけれど、楽器の進化、
とりわけシンセサイザーなどの鍵盤楽器や、ギターのエフェクターに加え、
録音やミックスによるサウンドのテクスチャーも、大きな変化を遂げましたよね。

なので、ジャズ・ロック、クロスオーヴァー、フュージョン、スムース・ジャズには、
それぞれ明確なサウンド・アイデンティティがあると、ぼくは考えています。
個人的には、やはりリアルタイムで夢中になったクロスオーヴァーに、
いちばん愛着があるんですけれども。

そんなことをつらつら思ったのは、ショウン・マーティンの新作を聴いたからなのでした。
スナーキー・パピーのキーボーディストで、コンテンポラリー・ゴスペル・シンガーの
カーク・フランクリンの音楽監督を務めるショウン・マーティンのデビュー作は、
かつてここで絶賛したし、その年のベスト・アルバムにも選びましたけれど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2015-08-30
あのアルバムは、見事なフュージョンでした。

で、対するこちらの新作の肌触りは、クロスオーヴァーなんですよ。
ベースのマット・ラムジー、ドラムスのマイク・ミッチェルとの3人で録音した本作は、
ハンコックの“SUNLIGHT” をヘヴィロテしていた毎日に、ジャスト・フィット。

オープニングのファンク・チューンから、
70年代独特のゴツッとした感触があるじゃないですか。
クラヴィネットの音色だって、もろに70年代です。
サウンドがクリーンになり、流麗さを競うようになる80年代のフュージョン時代になると、
こういう演奏はまったく聞かれなくなってしまいましたよねえ。

さきほどのハンコックの“SUNLIGHT” にも、
ハンコックとジャコ・パストリアスとトニー・ウィリアムズのトリオによる
ハードエッジな演奏がラストに収録されていて、
アルバムのなかでも異色なトラックだったんですけれど、
こういうエネルギーが、ソフト&メロウといったイメージで語られがちなクロスオーヴァーの
もうひとつの側面でもあったので、いま再評価に値するんじゃないですかね。

驚いたのは、マイク・ミッチェルのドラミング。
若くしてスタンリー・クラークのバックに抜擢された実力の持ち主ですけれど、
ここで披露されるのは、いわゆるゴスペル・チョップスと呼ばれる、
16ビートの曲調から突然6連符だったり、
32分音符のリニア・パターンを叩き出すドラミング。

超絶すぎるドラミングなんですが、ショウン・マーティンのアルバムなので、
さすがにミックスでかなり抑え気味にしてるとはいえ、
その凄まじいテクニックは、もろに伝わるよねえ。
新世代ジャズにも大きな影響を与えているゴスペルのドラミングですけれど、
このアルバムくらい、それがはっきり示されているアルバムもないような気がします。

とりわけ、マイク・ミッチェルのゴスペル・チョップスのスゴ味を味わえるのが、
‘Naima’ と‘Afro Blue’ の二つのジャズ・チューン。
この曲で、こんな高速ドラミングを聴けることはないから、ビックリしますよ。
3連、2拍3連なんて当たり前、5連、6連と32分音符が連なる超絶細かいフレーズを、
正確かつ粒立ちの揃った音で叩くそのプレイは、神業というほかありません。

パワー・トリオが繰り出す猛烈なフィジカルの圧が、クロスオーヴァーを蘇らせた傑作です。

Shaun Martin "THREE-O" Ropeadope no number (2020)

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