中国人女性歌手を聴くのは、いつ以来でしょうね。
ずいぶんと長い間聴いてなかった気がするけれど、
ニコール・チャンというこの女性歌手、
現代中国歌謡きっての人気歌手だそうです。
こんなにひっそりと歌う、控えめな歌い口のシンガーが、一番人気というのは、
中国人のイメージからすごく遠い感じがして、不思議な気がするんですけど、
ぼくの中国人イメージが偏見にまみれてるからなのかしらん。
たしかに美麗なジャケットは、中国歌壇のアイドル路線ど真ん中という感じで、
本来ならぼくなど、裏口からさっさと逃げ出したくなるところなんですが、
その歌声に、すっかり魅了されてしまいました。
ひそやかで静かに歌っているのに、発声がくっきりと立ち上って、
なんとも心地よさを覚える歌声です。北京語の発音がきれいですよねえ。
キュートさも自然ににじみ出すタイプで、過剰な演出や人工的なところがなくて、
とてもエレガントです。
二胡や琵琶、笛などの民俗楽器を使って、中国情緒を交えたメロディながら、
都会的洗練をみせる、現代性に富んだプロダクションも見事です。
こういうサウンドが香港じゃなくて、大陸から出てくるようになったんだなあと、
しみじみ時代が進んでいるのを実感します。
メロディの良さを引き立てる、余計な音を重ねないアレンジで、
ほのかな甘さのあるヴォーカルを、くっきりと浮き上がらせるのに成功していますね。
クールなプロダクションと温かな歌声の対比が、絶妙じゃないですか。
すっかりトリコになって、この人の15年の前作『愛情來點贊』を聴いてみたら、ガックリ。
アイドル路線のポップなプロダクションで、
歌唱力も本作に比べ、だいぶ聴き劣りします。
このアルバムから、ぐっと大人ぽく変身したのが、本作だったようで、
しっかりと成長の跡がうかがえますよ。
秋の夜長に、またとない一枚です。
張可兒 「曽経最美」 天艺唱片 9778884412051 (2017)