マルチニークが生んだ異才の音楽家、アンリ・ゲドンの75年作がリイシューされました。
アンリ・ゲドンはパーカッショニストであるものの、
ベレ(ベル・エアー)などの伝統的なマルチニーク音楽ではなく、
ニュー・ヨーク・ラテン~ブーガルー~サルサの音楽家と共演して、
グァグァンコー・ジャズ、グアヒーラ・ソウルなどの音楽をクリエイトしていたことは、
04年にコメットが編纂したコンピレ“EARLY LATIN AND BOOGALOO RECORDINGS
BY THE DRUM MASER.” で知られていたとおり。
今回のリイシューにあたっては、アンリを五重に多重露光した写真を、
サイケデリックな色調に加工したオリジナル・ジャケットは採用されず、
モダン・アート作品を前にした白黒写真に変更されています。
アンリは、画家、版画家、彫刻家、陶芸家でもあったので、
ここに写っているのは、おそらくアンリの作品なのでしょう。
各曲にリズムの形式名が添えられていて、
ビギン、モザンビーケ、ボンバ、ベル・エアーはわかるものの、
サンテリーアやアフリカ・タンブーという、大雑把な形式名があったり、
聞いたことのない形式名がありますね。
マズクールとあるのは、マズルカとズーク・サウンドとのミックスか?
ヴァラソンガと書かれた曲は、ソンゴに似ているので、ソンゴを改変したものか?
メレングァパというのは、メレンゲとグァパチャのミックス?
まぁ、そんな具合で、リズムの実験場といった曲の数々を、
アナログ・シンセ使いの70年代らしいサイケデリックな感覚を加えて、
面白いラテン・ジャズにしています。
アンリのシロウトぽいヴォーカルが全面的にフィーチャーされていても、
主役はパーカッションの利いた演奏の方で、
ラテン・ジャズ・アルバムといって差し支えないでしょう。
アンリ・ゲドンの72年のデビュー作も、同じ趣向のラテン・ジャズでした。
まだ当時はシンセは使われておらず、ヴァイブでしたけれど。
そのヴァイヴを弾いているのが、なんとマラヴォワのポロ・ロジーヌで、
ベースもマラヴォワの初代メンバー、アレックス・ベルナールが弾いています。
初期のマラヴォワはアラン・ジャン=マリーがピアニストを務めていたので、
ポロ・ロジーヌはヴァイブを担当していたんですね。
このデビュー作では、ビギン、マズルカのマルチニーク音楽と、
グァグァンコー、グァラーチャ、ボレーロのキューバ音楽が半々となっていて、
ビギンの曲にブーガルーのブリッジを差し挟んだ‘Dorothy’ など、
75年作で発揮されるリズムの実験の萌芽がうかがえます。
ぼくはこのアルバムをCDで持っていますが、
CDの存在は知られていないようで、ディスコグスにも載っていません。
冴えない表紙デザインになってしまったCDより、
オリジナルのLPジャケットのほうが、断然いいんですけれどね。
https://www.discogs.com/release/2413780-Henri-Gu%C3%A9don-Et-Les-Contesta-Kik%C3%A9
アンリ・ゲドンのアルバムって、
これら初期の作品のほうが、いま聴くと新鮮に響きますね。
Henri Guédon "KARMA" Outre National ON02CD (1975)
Henri Guédon "HENRI GUÉDON" Celini 014-2 (1972)